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【別れの値段】16

第16話【この人にだけは言ってやりたい】



この人が店に来たのは、信じられないことだった。
手に持つそれは、間違いなく見覚えのある人形で、足取りはゆるく、店内に足音をつける。
この人にだけは言ってやりたいことが、僕にはあった。
それは、あの組長の事だ。強く気高くこの人の幸せを願った父の姿は僕の心に熱く篤くつたわった。
あの感情を、この人への愛をこの人にだけは言ってやりたいと思っていたんだ。

「あの、この人形を売りに来ました……」

彼女は静かに、あの組長が座っていたあの椅子にウサギの人形を置いた。
伝わるだろうか、この心臓の音。
伝わるだろうか、この言葉にならない思い。
伝わるだろうか……。

――この人からもお前は、売られにきたのか……

勇気をしぼって言うべきか。あんたの親父もここにそれを売りに来たのだと。
それを全力の勇気であんたに届けたことを。
なんで、伝わらないのか。すれ違っても……親は親だろう……。

「あ、あの……どうして泣いてるんですか?」
「……」

もう涙をこらえる事なんて俺にはできない。

「いいよ……もういい……話せよ」
「え?」

その時、僕は……あふれ出てくる感情を押さえつけることができませんでした。

「この……人形に……どんな思い出もってんすか……」
「……ぁ……」

僕のいきなりの涙に、戸惑いを隠しきれない彼女は黙り込む。
しばらく沈黙が続いて、僕にも言葉が戻りもう一度彼女に言った。

「この人形のなんか気持ちが流れ込んできて泣いちゃっただけですから、気にしないでください」

僕もこんな恥ずかしい嘘の台詞を言えたものだとおもう。
深く息を整えて謝る。

「ふぅ……すみませんでした。さ、座ってください……」
「あ、はい。失礼します……」

彼女はイスに座る。座った姿を横目に見るとやっぱり似ているな。

――組長。この人あんたの顔にやっぱ似てるよ、やっぱ娘だ……

面影があるのは、顔の面影か、それともイスの座り方か。
彼女の少し困った顔を見たからだろうか、僕も少し気持ちが落ち着いた。
カップに2杯のパウダーを入れて湧きだつ湯を注ぐ。

「で、その人形……売りたいんですか?」
「……はい」

そして、彼女はうつむいて、視線を隠し人形を机に置きなおす。
僕は、ココアを入れて彼女に渡すと彼女はそれを手前に引きよせて小さくありがとうと言った。

「では、話してくれますか? その人形の思い出」

僕は、彼女にその人形の思い出をあらためて聞く。
そして彼女は、いつも感じるあの長いような短い時間を経て、話し始める……。



---------------------------




私が8才の頃の話です。
まだ……そう。
ママが生きていた頃の話。

「はい! 絵里ちゃん撮るよー」
「待ってー」
「ふふふ。早くそこに立って」
「おっけー」
「ほら、パパ戻ってきちゃうから早く!」

パパが居ないときにママと内緒でビデオを取ったの。
何しても楽しくて幸せで、無敵だったなぁ。だって、子供ってそういうものじゃないですか。
嬉しくて、好きな人が喜んでくれるかもって思ったら悪戯みたいにはしゃいで。

「準備はいいかな~、じゃ~絵里さん! お願いします」
「は~い」

すると、ママの合図に私は、作文を読んで発表したの。
きっともう、あのビデオは残ってないかもしれないけれど。

「さいあいのパパへ 2年2組、のだえりより。パパの大好きなところは、えりに優しいところです」

あの幸せがずーっと続くんだろうなって思ってた。
上手く発表できたからご褒美をくれた。

「絵里ちゃん、今欲しいもの何かあるかな~?」
「パパもママも絵里も3人とも、うさぎ年だから、ウサギ」
「えーウサギはなぁ~」
「ダメ?」
「パパに聞いて、ダメだったら人形でもいい?」
「うん! 人形でもいい!」

私の目から見て、パパとママはとても仲が良くて、あったかい家族そのものだった。
時々来るいろんなお兄ちゃんやパパの部下が遊んでくれて、すごくすごく楽しい毎日。
でも……あの日から。あの日からすべて変わった。

今でも夢見るあの事件。
それはそれは悲惨な交通事故。私の母は、買い物帰りに飲酒運転の車に轢かれたの。
轢いた人間も母も即死。それはそれは大きな事故だったが、世間は犠牲が一人で良かったとも噤んだ。
喪服の少女と残された父の見ていられない光景。泣く遺族と母の遺影。
そして咲き乱れる花と母の好きだった金木犀の香り。

「このたびは、誠に…親族皆々様、ご愁傷様でございました」
「……」

参列に立つパパの手を取り、合わせてお辞儀をする。
私は、小さい声でパパに言う。

「こんなに人が来てるのに……ママは起きないの?」

崩れるようにパパは、私を抱きしめてぎゅっと強く強く抱きしめて、苦しかったけど、伝わる力は優しいものだった。

「俺が……ママの分もお前を守る……守るからな」

4日、5日が過ぎてママのいない寂しさに一人泣いた。
6日、7日が過ぎてママの墓前にパパと立って泣いた。
2ヶ月が経ち、ママのいない環境にすこし慣れた。
パパはママがいないと、とてもだらしなくて、私が助けてあげないと駄目な人だった。
でも、仕事はすごくすごく頑張っていて、かっこよくて、いつも若々しくて。
パパは、いつまでたってもママを忘れられなくて、私の事だけを気遣っていた。
だから、ある日聞いたの。

「ねぇ。パパ」
「なんだ?」
「ねぇ。パパ。あのね、ママ居なくなっちゃったでしょ」
「うん」
「新しいママ探してもいいよ? 絵里は一人でも大丈夫だから、無理しなくいいんだよ?」
「絵里……?」
「あのね、パパがママを忘れられないのは絵里がいるからじゃない?」
「……」

バシッ!!大きな音がした。鼓膜がキーンと鳴り止まなくて、驚いて逃げた。
初めてパパは怒り、思いっきり私の横顔を叩いたのだ。
そりゃ、悪戯をして怒られたことはもちろんあったわ。
でも……あの時の怒り方は、本当に怒った目をしてた。でも、パパは私を叩いた後に自分の手を地面にぶつけ縫うような怪我まで自ら負ったのだという。手をあげたことをすごくすごく悔いたらしい。
それがその時、小さい私には、わからなくて……私は、叩かれて自分の部屋で一人泣いた。

「パパのバカっ! バカバカ!! ほんとにバカ! アホバカ」

痛い頬を押さえて布団の中、やがて怒ることに疲れて寝た。
仲直りしたのは、とても早くて、パパが、いつもの調子で嬉しそうに買ってきたケーキで私はイチコロだった。
でも、帰るたびにママの仏壇にパパが言う姿。

「なぁ。お前も見ているか? ……今日も絵里はとてもいい子だったよ」

一年、二年、四年が立っても、中学に進学しても、毎日毎日仏壇の前でパパはママと私の話をした。
それを見るたびに、私もたまらなくママを思い出す。
それが嫌で、逃げたくてそんな、パパを見るたびに私は辛くなった。
どうしても子供の仕事が務まらなくて……大人に早くなって。
早く早くこの家を出てパパを解放してあげたいって心の中で、深く深く思った。
私は、パパに幸せになって欲しいのに。
パパが誰よりも好きだから……。



第17話【……本当に変わらないから、嫌なの】

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Comment

No title

なによしさんへ>

コメントありがとうございます^^
可愛い絵を描いているのですね。
読んで頂いて嬉しいですv^^僕も応援に行かせてもらいますねv

2011.11.07 (Mon) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

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2011.11.06 (Sun) | # | | 編集

No title

初めまして。
なによしと申します。

初めて小説を読ませていただきましたが、とても興味深いものだったので、応援とコメントを書こうと思った次第です。
まだ、途中から読んだので、物語の本質を理解していないのですが、とても面白く、スラスラと読めてしまいました!

これから、ぼちぼち読んでいこうと思います!

応援ポチっておきました。

私は、イラスト詩と日記を書いているので、お暇なときにでも覗いてくれると嬉しいです!
(URLの打ち込みが分からなかったため、メールアドレスに書き込んでおきました。)

2011.11.06 (Sun) | なによし #- | URL | 編集

小織君へ

なんか娘さんの話をちょっと聞いてそれまで持っていた感情がまったく違う方向に飛んでいったみたいです。

すげぇ、辛い話だなぁ。その一言です。
娘さん視点の話は、組長の親父視点とはもう、びっくりするくらい世界が違って、、、なんだ。結局親父の事好きなんだった読んで思ったら、
すごい救われている俺が居ました。

この話はほんと読んでみると……いい話です。


2011.11.06 (Sun) | 音琴 #wVIA9fBs | URL | 編集

No title

読んで、娘さんの想いがものすごい伝わってきたよ。
そっかぁ。お母さんだったのか~・・・・・・。
もう、なんか話が深すぎて、辛かった読むの。

2011.11.06 (Sun) | 結 麻月 #wVIA9fBs | URL | 編集

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