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【別れの値段】12

第12話【ただ一人の娘にできること】


娘の絵里の部屋は、そのままだ。
母が居ない絵里はそれだけでも不幸だ。女を教えてくれる人が居なかったのだから。
繊細に服や生活に必要なもの意外はそのままにしてある。
いつ絵里が帰ってきてもいいようにしてあるのだ。

古い家のため、和室しかなくて絵里はそれを嫌がりカーペットを敷きまるで洋室のように押入れの姿がその空気から一つ浮いている。
まるで生活感をなくした部屋で俺は絵里の机にすわり筆傷のついた机の表面を指でなぞった。

娘を産んだことを後悔などしない。
でも娘の中にこんな父はいらなかったのだろう。

「ごめんな……絵里」

一人でそうつぶやく。自分の顔を見ることから逃げるように移る鏡を伏せる。
目を閉じるとそこには小さい頃の絵里。

「ねぇぱぱ」
「どうしたん? 絵里」
「なんでいつも篤朗といるの?」
「家族だからだよ」
「嘘だよ。血がつながってないもん」
「いいか、絵里。血がつながってなくても家族にはなれるんだ」
「そうなの?」
「ああ。そういうもんだ」
「あはは。へんなの~」

こうしてみると絵里の小さい頃しか知らないな。だんだん俺から遠くなったのは中学になってからだろう。

「ねぇ。パパ」
「お? どうした」
「私、好きな男の子できた」
「な、なんだと!!」

篤朗を使ってその男を調べさせたのは今思うと少し父としては最低だった。でも愛娘を思う愛情の裏返しとして思ってくれてもよかったのではないか……?
回想は続いて、部下に見守らせた娘の初恋は早々と終わる。

「パパのバカ!!」
「裕貴くん、ヤクザに脅された! もう会わないって言ってた! 最低よ! パパのバカ!!」
「え、絵里!?」

部下にあたる様に怒鳴り散らす俺は、すぐに篤朗にそんなことがあったのかを調べさせた。それでわかったことだが、娘の初恋を壊したのは、別の組のチンピラだった。
しかし誤解されてもおかしくは無い。届くはずが無いのだ。そんな言い訳……むしろ私の娘だということで隣組との掛け合いにされた危険なこともあるくらいなのだから。
そうだな。これを幸せとはいえないだろうな……。
それでも……それでも。

願ってしまうんだ。あの子のパパで……いつまでも、絵里のお父さんで居れる事を。

「組長……最近元気ないっすね……」
「バカ、おまえ聞こえるぞ」

若いやつらの声も深くは届かない。ずっと心に残るのは……暗い幻想の箱に俺を閉じ込め、空気をとざすのは……。

――私ね、この家に生まれてきて幸せだったこと何一つとしてないから!

その一言だ。
絵里からのあの電話以降、良く動いてくれたのはやっぱり篤朗だ。
細かい情報が今も入ってくるのは、本心で言えば嬉しい。もうやめろといっても、おせっかいの舎弟、部下は勝手に調べるのだ。言わず心配をかけるほどに俺の組長としての態度がらしくないのだろう。

「組長! お嬢さん、幸せそうでしたよ! 清潔そうな良い男でしたよ」
「ああ……」

らしくない。そう。覇気を忘れてだらしが無い男だ。
追い詰めて追い詰めて。
考えて考え抜いて、家業の仕事や離れる部下すら遠目に。
とうとう何かが壊れるような気持ちになって、もう無理だと思ったとき……俺は絵里に電話を入れた。

「いきなり、なに? もう電話してこないで」
「絵里……」
「早く用件をいってよ!」
「式をあげることだけはしなさい……」
「だから、しないってば!」
「俺は……行かないから」
「え?」
「俺は出席しない。組のものも参加させない。式のお金も私が持つ……小さな挙式でもいい」
「……」
「だから……結婚式を挙げなさい」
「……」
「それで……パパを終わりでいいですから……1度だけでも幸せだったと思ってくれればそれでいいですから」


らしくもない涙を俺なんかが流していいのだろうか。
さぶけるのはもうすぐ冬が終わる残冬の風。
ただ一人の愛娘にできる必死で考えたたった1つの事。
挙式と悲し涙。片方は永遠に伝わる事の無いものだ。
娘は電話の向こうでそれを察したのか軽くうなずくのであった。




続く:第13話【最愛のパパなのに……】
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Comment

No title

うう…お父さん、切ないですね(>_<)
誰のせいじゃなくても、環境のせいで分かり合えない事ってありますよね。誰も悪くないだけに、なんともいえないものがありますね…。

しかし悲しい中にも、お父さんの娘への愛情が伝わってきて、あたたかい気持ちにもなれました。続き楽しみにしています!

2011.10.09 (Sun) | 牡蠣ひろみ #- | URL | 編集

初お題の作品が…

初お題の「別れ」というお題から早2ヶ月。
良く書いているものだなぁと思うくらいにさらさらと文は進みます。

奇跡ですね。少々読みづらいところや誤字もあるかとおもいますが、ぜひ読んでいただけたらとおもいます。
あふれる愛情を書いていきたいとおもっています。

2011.10.09 (Sun) | 小織 悠 #- | URL | 編集

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