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【別れの値段】10話

第10話【店にやってきた珍客】



つかれた鳥が、とまり木でその羽を休めるときのような
そんな感覚ににた実体の無い夢を見た。
朝起きて部屋を見るとなんだかいつもより深くまぶしく感じる。
何も手に付かなくてただぼんやりと過ごした昨日までとは明らかに違う朝だ。

アルバイトをしたのは、去年。自分の車がどうしても欲しくて始めた夜の居酒屋の皿洗いの仕事だ。
接客する勇気が無くて裏方の仕事を選んだがすごくつまらなかった。実際楽しそうに騒ぎいろんなタイプの女の子と同じようにコミュニケーションをとれる人は、なんだか僕とは違った人種のような気がした。
僕にはできないと括り、そのアルバイトを半年続けた。
彼女がいた僕は、他の女と接触をさけるようにただただ下を向き、汚れた皿を洗い続けて、お金をもらい今考えるとすごくもったいない堅実な世界を歩んでしまったものだ。

「母さん、アルバイト始めたんだ、行って来るから」
「あら、そうなの? 就職まであそんでたらいいのに」
「うん。ちょっと興味がわいてさ」
「そう。よかったわね、いってらっしゃい」

母は、いつも優しい。
父は次男の僕には興味が無いし、就職が決まってからも大学の専門から外れたその管理職から外れ切っているありふれたような夢の無い職場にあからさまに不機嫌な表情を見せた。
なにか文句があれば言えばいいのに。父は母にばかり隠れて愚痴るのがすごく嫌だった。
そのせいもあってか、僕は家にいるのがあまり好きじゃない。
顔を合わせたところで兄も父にも、母にでさえ、一つ間違うと文句を言われそうで怖くて、きっとろくな会話などできない。
だから就職したら家を出ようっておもっている。

一人でいることや車を運転するのは、慣れた。
でも、なんだか好きになる人がいることだけはただ真剣に追い続けていて、大事にするものがあるその嬉しさは僕にとってはかけがえないものだった。


コンビニに午前10時に立ち寄り、そのあとゲームセンターにいってお昼吉野家の牛丼を食べ午後1時半。僕はあの店へ行く。

カランカラン。

「こんにちわ……」

軽い小さな挨拶で店に入る僕。奥で千佳は紅茶を入れるお湯を沸かしている。
店の中は珍しく静かなオルゴールが流れている。

「ここオルゴールとか流すんですね」
「あら! 嬉しい来てくれたのね」
「あ、はい」
「座って座って。今ちょうどお茶を入れていたところなの」

千佳は、そういうと香り立つセイロンティをティーカップに注ぐ。
注いでから、気が付いたかのように

「あ! 拓也君はココアとかコーヒーの甘いのとかがよかったかな?」

千佳のその言い方は、どう聞いても小学生の弟に対する言葉使いでついつい僕も笑ってしまう。

「なんすか、それ。あはは! なんでもいいっす。おれ、千佳さんいれてくれたのなら」
「あは。嬉しい」

オルゴールは小さいものだった。
あの机に無造作に置かれていて古いような、あたらしいような……小さいオルゴールだ。
ふたが開いている間エンドレスで曲が流れる。どっかで聞いたことがあるんだけど曲名は思い出せなかった。

「そのオルゴールだけどね。さっき買ったの」
「え!?」
「買ったって言うか……置いていったの。お客さんが」

わかりやすい説明だった。
昨日の女の人のようにきっと別れてとかで置いていったものなのだろう。

「いい曲っすね」
「そう? わたしはなんか嫌いだな」

千佳は重曇った表情で寂しくそのオルゴールを見つめた。
聞いた話のせいだろうか。顔を見ると千佳はちょっとだけ泣いた後のような目をしていた。
やがて紅茶を配り終わると静かにオルゴールを閉じる。
曲が止むと外の音が騒がしく聞こえ始める。日中の騒がしさだ。

「あ。そうだ。この日誌に来た時間とやった業務を書いてね」
「はい」
「あとはさ、のーんびりしててね。飲み物も好きに飲んでいいからね」
「そ、掃除とかしておきますよ」
「いいよ~。そんなに汚くないし~」

絶対にこのひとO型だ。見るに埃だらけであるし繁雑と置かれた雑誌やちぎれたレシートの山は本来捨てるべきものだろう。かといってこの雑貨の山だ。勝手に捨ててそれに“思い出”があったりしたら一気に僕は地獄行きである。そう考えると見方によっては綺麗な感じもするのかと毒される。

「私、これ飲んだら図書館行って来るね」
「あ、はい」
「時間かかるから。もし、帰るときはこれね」
「そうなんですか……」
「ん? なに。拓也さん寂しいの?」
「な! なにいってんすか!」

顔を赤くなってごまかす僕に、千佳は姉のように微笑む。
渡されたのは、店の合鍵である。金庫の鍵や店の裏へと続くドアの鍵は別のようだ。
単純に店の正面のドアを開く鍵である。

「じゃあ、わたし行ってくるね。お店よろしく」
「はい。わかりました。のんびりしてます」
「はい。あ! そうだ」
「ん? どうしたんです?」
「これから一人くるからその人、拓也さんにお願いします」
「えぇ!?」
「だいじょうぶ。期待してますから」

嬉しそうにドアを閉めてスキップで歩いていく千佳。
僕は千佳のその行動は、相変わらずの人なんだろうと想像する。
やはりこの店は、二人でいるときと一人でいるときにギャップがある。
孤独が孤独でないというか、うん……本当にどっかあったかい雰囲気だ。

暇な時間で紅茶をすする。
その紅茶の熱さに最初びっくりしたが、すごくおいしかった。
千佳はこれほど熱い紅茶をコクコクと飲んでいったのを思い出すと違う怖さはあるが、あらためて優しい人だなと思う。
でもいざ客が来るとわかっていると構えてしまう。
それにしても予約の客がいるとは思わなかった。それとも千佳のあの魔力でくるのがわかるのだろうか。
そんなこと考えていたらバカバカしくて少し笑えた。


カランカラン。
場の凍りつくような空気の緊張だ。
来た! お客である。

「いらっしゃいませ~……」

慣れない言葉に不自然に照れながら僕は店のドアを見つめる。

「え……」

たとえるなら、ウサギ。
そう。僕はウサギ。虎に睨まれたウサギだ。

「わりぃが失礼するよ」

低くドスの効いた声。
気性に富むこと渡世人……入ってこられた客は総勢15人。
あからさまな暴力団・ヤクザである。
黒いスーツの男が8人。若いチャラチャラしているような男が6名。
そして、奥から顔に刺青のある男。

「組長! 若い女だと聞いていましたが男です」
「ええんよ。事足りるわ」
「はいっ! すんません」

僕は、動じないわけも無い。
僕の車の前に堂々付けられ総台数4台。
まさかこの客が、千佳の言っていた客ではないことを祈るばかりだ。

「あ、あの~今日はどういった用事でしょうか?」
「お。……おぅ。びびらせてすまんな」

その組長らしき人物が子分に合図をすると、黒服一人を残して他の連中は店を出て車へと乗り込んだ。
何のことだかわからず、気が動転する僕。
じっと僕を睨む部下1名と組長さん。
立つ状況は1分が5時間くらいに感じる。それに居た堪れなく僕は、

「どうぞ、こちらに」

なんだか勢いでこの2名をいつもの机に座らせてしまう僕がいた。

「あ……あの取立てとかですか……?」

恐る恐る聞いた僕に部下の一人が間髪入れずに怒鳴る。

「この店は、客に茶一つ入れねぇのか! こん方は、野木組の組長だぞ」
「!!」

言葉なく慌てて立つ僕に組長は言った。

「待て待て。そんなんいらん。おまえも余計なこと言うな!」
「は、はぃ! すんません」

一個一個の会話が見ての通り、格闘である。
あー。こんなことになるならこのバイトしなきゃ良かったと心の底から思い。
笑顔で出て行った千佳が腹立たしい。
僕は、製氷機から氷をコップに入れて冷蔵庫の麦茶を入れて机へ。
その二人にお茶を渡した。

「ありがとな、兄ちゃん」
「い、いえ。すみません」

すみませんと謝る意味はわからないが、きっと気持ちは読者にもわかるだろうか。
そんなことは、どうでもいい話であるが状況が状況だけに上手く話しが聞けるかはわからない。
黙り時間が過ぎていくのもすごく危険な状態なのである。

――なにかお売りになりますか?

ふと千佳の台詞を思い出す。そうだ。ここはお店なんだ。

「あの、組長さんも何かお売りに来られたのですか?」
「あ。そ、そうだな」

偶然にも僕は組長からイニシアチブを取れたようである。
そして、組長がそっと隣の紙袋から出したものは……。

「こ、これなんだが……」

それは……。
一匹の可愛らしいウサギのぬいぐるみだった。




続く:第11話【可愛いうさぎの思い出】





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