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【別れの値段】40

第40話【私だけの幸せ】



おしとやかで、育ちがよさそうな彼女は、私と同じでいつも一人ぽっちでいるような人だったけれど、拓也が惹かれたであろうその魅力は、同姓の私に理解できた。

「えへへ。私、拓也の事応援してるからね!」
「な、なんのだよ」
「し、しっていますぞ~。いずみ様はなんでもお見透視なのですぞ。拓也殿」
「そのRPGにモブキャラで出てきそうなしゃべり方やめろよ、バカまるだしだぞ」
「なにおー。くらえ、リモコン下駄ウルトラシニアハイスクールいずみヴァージョン!!」

吹き飛ばした革靴を片足で追いかけて、笑った。
くだらないことを一緒にやって、同時に拓也の幸せを心から願った。
拓也が部活でまだ帰ってきていない日のこと。
私は、拓也の家で、おばさんと一緒に家庭科部で作ったケーキを一緒に食べていた。

「あら、いずみちゃん。このケーキ美味しいわ」
「でしょ~」
「拓也の分もとっておくわね」
「うん!」

本当のお母さんがまだ生きていたら私はここには居なかったのかもしれない。
きっとまったく違う人生がそこにはあって、まったく違う世界の人と繋がっていたのだと思う。

「ねぇ、ママさん」
「なあに?」
「あのね、拓也にね好きな人ができたの」
「……」

察したように、拓也のママは口を閉じて私に聞いた。

「それは、私の知らない女の子?」
「うん」
「そっかー。でも、大丈夫よ。いずみちゃん」
「私ね、応援してあげようってきめた」
「応援?」
「うん。その子と拓也がうまくいけばいいなって思うの」
「ふふふ。いずみちゃんは優しいのね」
「でも、拓也、その子と付き合ったら、私、ここに来ちゃ駄目になっちゃうかな?」
「関係なし! いずみちゃんはおばさんの娘みたいなものだから気にしないでいいの」
「そっか~」
「それに、拓也はバカだからいずみちゃんの良さに気がつかないだけなのよ」

まだまだ、子供な私は他人の幸せを願いながらも自分がいまある幸せを後逸してしまう事をすこし怖がる中学生だ。大丈夫と頭を撫でてくれる人を探し、かけがえの無い自分の居場所を守ることに必死だった。

しらつゆに寒がる草花が季節の変わり目を教えてくれる。
拓也は、奥手だったのでその恋に進展は無かった。
登校はずっと一緒だった。片道20分をただ歩き、見慣れた材木工場の前を通り、走るとゆれる歩道橋を使って、長い信号を待ちきれずに駆けて渡る。私は、ずっと、拓也の3歩後ろを歩いた。

「……今年も寒くなりそうだね、拓也」
「うん」
「……家庭科部で、編み物するの」
「へぇ……すごいじゃん」
「できたら拓也に、マフラー作ってあげよっか」
「い、いらねぇよ」

いつも……私が言葉をかけた。

「ねぇ、拓也」
「あ?」
「お腹すいた」
「しらねぇよ!」

なんでも……よかったんだと思う。私が後ろに居ることを忘れないでさえ居てくれればそれで。

「拓也~」
「なんだよ、うるせえな」
「チョコたべる?」
「……いらね」
「う~。じゃあ、飴たべる?」
「いらねぇっつうの!」
「じゃあ……竹輪たべる?」
「なんで、そんなん持ってんだよ!」

だれかが、私のことを一途だって言ってた。中学を卒業するまで私はその意味がわからなかった。
拓也は、モテる。スポーツもできるし、なんか理由はわからないけれど目立つ男の子だからだ。
きっと天星とかオーラとかそういう物理的に証明できない何かなんだろうと思う。
今思うと、私がいつもくっついてたから拓也を好きだという人は表に現れなかったんだろう。

「いずみ。このまえのさ……ケーキ美味しかった」
「うん!」

修学旅行で、夜寝静まる前、恋愛の話になった時に、少しだけ実感した。

「彼氏、ほしいなぁ」
「ねね、好きな人居る?」
「吉村君、カッコいいよねぇ」
「うんうん。プロサッカー選手になるんだって!」
「すごいー でも高校に彼女いるらしいよ?」
「えーショック」
「ねぇ、加賀谷さんはさ、どうなの?」

女子会話中に突然ふられた話に、ついていけなかった。

「加賀谷さんは、2組の柚木君と付き合ってるんでしょ」
「そっか~一途だもんねぇ」

私は、慌てて言った。

「拓也は、そんなんじゃないから! 幼馴染だから」
「それにしては、仲良すぎ! あはは」

仲良く見えてるんだって思ったら嬉しい気持ちになった。
そんなことみんなが言うものだから、どうしたものか、私自身、拓也をちょっと意識した。
修学旅行も終わり、霜柱が土を盛上げていく冷たい冬の朝。

「拓也、手袋しないの?」
「ああ。ポケットのほうがあったかいからさ」
「……危ないよ?」
「大丈夫だよ」
「拓也……」
「ん?」
「手、つながない……?」

――今思うと、そんな事言って、バカだったなぁ。わたし

もちろん、拓也は手をつなぐことはしない。でも、嫌とも言わずに黙ってそのまま前を歩いた。
赤くそまった後ろ耳が痛そうに赤い。照れて赤いのか、この寒さで染まったのか。
きっと正解は後者だろう。

バレンタインに葉桜さんからチョコをもらったと嬉しそうにはしゃぐ拓也。
私は、その綺麗な包みを見て、らしくもなく手作りのチョコをバックに隠し、拓也にチロルチョコをあげた。

「そんな幸せな拓也にはもう一個チョコをあげよう」
「なんだ、チロルチョコかよ」
「お返し期待してるからね!」
「なんていう、ふてぶてしさ! 葉桜さんを少しは見習えよ!」

自分で作ったチョコを自分で食べるっていうのは、すごく美味しくない。
ただわかったのは、チョコってのは、心がぎゅっとなるくらいひたすらにただ甘いだけなんだってこと。

一見うまく行くと思えた拓也だったが、2年のバレンタインは葉桜さんからはもらえなかったようだ。
一緒に帰ったっていう噂すら聞いたのに。

「拓也……」
「悪いけど、今日ちょっと放っといてくれないか」
「なにか、あった?」
「ごめん、いずみ。今日は帰って」
「うん……今日は帰るね」

また……チョコが渡せなかった。懲りずにまた手作りしたのに……。
拓也は、辛そうな……とても辛そうな顔をしていた。
卒業式の日の夜の事。私は拓也のお母さんと一緒に夕飯を作っていて、帰宅後だまって駆け上がって部屋に行った拓也を呼び止められず私は、階段のしたから見上げた。

「拓也……」

なんとなくだけど、察した。
一瞬だったけど、いまにも泣きそうな顔をしてたからだ……。
夕飯を作り終え、呼びに私は拓也の部屋のドアの前。普段なら階段下から大声で呼ぶのだがその日は違った。
お兄さんは、夜のバイトで居ない。パパさんもまだ帰宅していない。いつもなら私を入れて3人で夕飯みたいなパターンだ……。

「(とんとん)」
「……」
「拓也(とんとん)」
「いらねぇ」
「(とんとん)」
「飯だろ? いらねぇ……」
「(とんとん)」
「……」
「(とんとん)がんばったね、拓也」
「……」
「(とんとん)やさしいからなぁ……拓也は」

鼻をすする音が聞こえる。ドアの向こうから悔しいっていう気持ちが6畳程度の部屋では収まりつかずに響き出て私に伝わる。

「(とんとん)」

ノックの音は小さく響く。つたわるといいな、私の想い。

「一緒にたべよ。拓也」
「……」
「今日はねー、いずみちゃんの特性のコロッケでやんす」
「……」
「今日のはね、涙が出ちゃうほど美味しいとおもうよ」
「……」
「(とんとん)大丈夫だよ、拓也」
「……」
「私が、……私がね、いつでもそばに居るよ」


――(とんとん)大丈夫……



続く→第41話へ【失恋と別れが同時に来る事】
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自分で描いてて切なくなってきたけども……手術中の中がどうなっているのか。どうあって欲しいか。
いずみちゃんは、死ぬのか生きるのか。
ひたすらに純粋な綺麗な一途さであります。※注:いずみちゃんに恋をしないでください(苦笑

2012.04.04 (Wed) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

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