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【別れの値段】36

第36話【どうして人は別れるのか】



通り抜ける風。恐ろしく冷たい風。
でもどこかで知っている“懐かしい”だ。
そういえば、季節は違うのだけれど、懐かしい風の事を思い出した。
僕が、小学校にあがったときの話だ。

歳の離れている兄の使っていたランドセルを使いなさいと母に言われ、それがただ嫌で、必死で泣いたのを今もまだ覚えている。ちっちゃいころの思い出。

「拓也、お兄ちゃんのじゃ駄目? お兄ちゃん綺麗に6年間使ったのに……」

確かに今思うと大した事じゃないんだけれど、僕はただみんなと違うのが嫌だった。
6年間背負ったベルトはひび割れている。いくらそういう綻びは、綺麗に戻せるんだよと説得されてもただただ、僕はそれが、嫌だったんだ。

大声を上げて親父が帰ってきてから泣いたこと。大きな手でポンポンと頭を撫でて父が言った言葉。

「大丈夫だ。新しいの買ってやる。安心しろ、拓也」

涙がそのままうれし涙に変わり、時にして近寄りたくも無いほど、怖い親父がカッコいいヒーローのように思えた。子供ながらに持ちかけられた駆け引きにも気がつくことはない。

「パパったら……でも、これから使うことになる、ひきだしとか書道の道具はお兄ちゃんの使うのよ?」
「はーい」

母に言われたその駆け引きは、対した事無いように思えた。
普通の子供だろう? どこにでもいるような単純な子供だった。
背負った新品のピカピカのランドセルはとても重くて、なんかとてもかっこよかった。

やがて、小学2年になった。友達も作れるようになった。
まだランドセルは綺麗だ。そんなときのこと。
学校にさ、一人くらいいるだろう? ランドセルの色が微妙に違う女の子。
赤くない……朱色のような。でも周りが赤いと不協和になって、それがイジメになるんだ。
1年生のときは、黄色いカバーをランドセルにつけられる為そこまで違いは感じなかった。
2年にあがると、その黄色いカバーやぶれたり、通学路にも慣れる為、外される事が多々ある。そのなかピンクのランドセルはすごく目立った。

子供にとっちゃ、ほんの些細なことなんだよ……。
無口な子がただ、一方的に責められたり。ほんの些細な違いが、如実にわかる年齢なんだ。
今の時代、そこまで無いだろう。むしろ、一人だけ違うほうがカッコいいのかもしれない。
そう言える子供は強い。でも……。

――お前の母ちゃんいないんだってな!! 
――馬鹿にすんなっ! 

そうやって言い返せる子が一番傷ついていたりする。
ランドセルが一人だけ違う色なだけで、ひとりになっているその子を僕はずっと見ていた。

「おい、加賀谷! お前のランドセル、ピンクでエロくねぇ?」
「……」
「なんで色違うんだよ~。へんなのー。そういうの痴女っていうんだぜ~」
「……」

黙り込んでその言葉に一言もしゃべらずに歩き出す。
覚えたての悪口を誰かに対して言いたくなる気持ちわからなくもない。
それが悪口だって事さえなんとなくわかっていれば、たとえ使い方が間違っていても心が傷つくんだ。そういうことに女の子ってのは男よりも敏感で……。でも言い返すのはもっとイケナイ事だって知ってる。
だから、その場から逃げるしかない。
だが、その頃の僕は、そこまで考えてない。目の前で虐められている子がいた。いや、性格にはその子が虐められているという事すら理解していなかった。
僕は、思った。

――あぁ……ランドセルが新しいもので良かった

そうやって周囲の作る“違い”の大波から避けれたことに、ホッと感じた。
だんだん、目に付くようになる。内心、気にしていたのだろうか……いや違う。
彼女のピンク色のランドセルだけがチラチラ目に映り気になっただけだ。
徐々にいじめって言うのは、広がってエスカレートしていく。
同姓の女の子ですら近寄らなくなって、孤立する。
ざわめく教室に一個のピンク色のランドセル。

「赤くしてやったぜ! ぎゃはは」

ランドセルに雑に塗られた赤いチョーク。同室でのその光景を僕はそれを見ているだけだった。
周りの子と一緒にそれを、笑いもせず、ただそのランドセルを無言のまま見つめる、その少女を僕は見ていた。
さすがに、先生にそれはバレた。でも、注意したところで、イジメはそういうことじゃなくならない。
今は多くある、こども相談室も無い頃の話。すごく淡白な時代。

その日の帰り道。材木工場の裏の空き地、そこに木材がおおく並ぶところがありアスレチックみたいになっているところがあった。もちろん入ったらいけない場所なのだが、その積み重ねられた何千枚もの材木の上に座っている彼女を僕は見た。子供達にとってはバレなければ基地である。しかし、その上に堂々と彼女は座る。
彼女は、ランドセルに書かれたラクガキを丁寧にハンカチで拭いていた。
いくらチョークとは言っても薄く残る。僕は、なんか、その涙一つ流さない彼女がすごく凛々しく思えた。
薄く残ったラクガキの後を見つめて、彼女は言った。

「ごめんね……」

僕は、彼女の言葉を始めて知った。
僕は彼女にひと言、言いたくなってその材木を上る。
乾いた材木にかけられたブルーシートがパタパタなって、その材木の上は、これから来る夏の温かい風をまぜて気持ちが良かった。小学生には比較的高い場所だ。

「おい! なんで! お前いじめられてんだよ!」
「……っ!」

突然に僕が話しかけたもので、彼女はきょとんと僕を見つめた。

「だから、なんで、言い返さないんだよ!! あんなことされて嫌じゃないのかよ!」
「……」

ぶっきらぼうに言う僕を彼女はじっと見ているだけだった。

「そうやって、黙ってるから、いじめられるんだぞ!!」
「……」
「ランドセルくらい買ってもらえよ!」
「……」

そう。この一方的な真っ直ぐ過ぎる言葉が、思えば、僕とその子……“加賀谷いずみ”との始まり。

独特のすっぱい木材の香りがだんだんと空気に交じり合う。
そんな中で彼女は、言葉を発した。

「このランドセル……もらったの。とっても大事なの……」

大事そうにぎゅっと抱え込むように彼女は言った。

「なんだよ! いじめられてもいいのかよ!」
「うん」
「ずっと言われるぞ?」
「……ぅん」
「……お前、バカ?」
「……そかも……」
「し、しらねぇかんな! 俺」
「いいよ……大丈夫」

イライラする。イライラする。イライラする。
ほんとにほんとにほんとにイライラした。

「もうしらねぇ!! じゃあな!」
「……ばぃばぃ」

駆け下りた木材。けして僕はヒーローにはなれない……。
本当に嫌なことはちゃんと言わないと駄目なんだ!
思い切り振りかぶった足で蹴り飛ばすように道端の小石を僕は蹴ってそれを追わなかった。

次の日、また次の日。2週間くらい変わらない悪戯の虐め行為は続いて、一向に変わらない教室。
見てみぬふりでいる子。いじめっ子が怖くて言えない空気。
それを嬉しそうに楽しむいじめっ子達。
でも、その子供の考える“この程度なら”の思いつきで取り返しが付かないことが事態が起こった。

先生が、教卓に持ってきたのはボロボロになったランドセルだった。
昼休みにグラウンドに転がっていたのだという。きっと地面に引きづったりしたのだろう。
多くの傷と砂が交じり合った色で、子供ながらにその状態は見るほど悲惨だった。
いじめっ子が言うに、そこまで傷だらけになるとは思わなかったと言う。
使えなくは無い状態ではある。ある程度拭かれたそれはある程度は綺麗だ。でもあの鮮やかに目立つピンクでは無くなっていた。
……先生にげんこつをくらい叱られ泣く主犯の男子。
それを見て、やるせないきもちに教室のみんながとうとうなった……。

きっと僕だけだっただろう。
怖がりうつむく教室の生徒の中で、きっとその時僕だけが……彼女の顔をじっと気にして見つめていた……。

――なんで……なんで……泣かないんだ
――だから、言ったのに……

彼女は、涙をこらえて、必死で耐えた。

「大丈夫です……」

そう言って、彼女はランドセルを大事そうに抱えて席に着いた。
先生に叱られたこともあったが、それ以上に、僕はすごくいたたまれない気持ちになった。

――そういえば、あいつ……大事って言ってた気がするな……

その日の帰り道で。
ふと見上げたあの材木の上。その場所にまたあの子は佇んでいた。
僕は、そのまま彼女に駆け寄った。
冷たい風だ。もうすぐ夏なのに恐ろしく冷たい風。
そして僕は、彼女に謝った。

「ごめん……」
「なんで……柚木君が、あやまるの?」
「いや、なんか……ごめん……」

彼女は泣いた。
大きく泣いた。すごくすごく嫌だったよー!って泣いた。
そして、それを聞いて僕も泣いた……。
傷ついたランドセルにこぼれた涙が流れたそのラインだけが綺麗なピンクになるように、大粒の涙が零れ落ちた。
僕のランドセルが、なんかその場所では、ぼくのランドセルだけがピカピカですごく嫌だった。

これは、僕の思い出だ。
それから、彼女。加賀谷いずみとの幼馴染の付き合いが始まる。

いずみは、言うなら僕にとって空気のような女だ。
そこにあって当たり前のように自然で、そしてなんでも話せる大事な友人。


そして、店のドアがいきおい良く開く。
一気に入れ替わる店の温度。吹き入る風。
ガランガランと響く声。

「拓也!!」
「え!?」

聞き覚えがある男の呼び声に僕は振り向くと、そこには血相を変えて店に飛び込む母がいて、店の前には黒いタクシーが一台駐車場に雪轍をつくり留まる。
母にはここでアルバイトをしていることは話したけれど……。

――あぁ……そっか。携帯電話、家に忘れて来たんだった……

「なにしてるの!? 拓也! 早くタクシーに乗りなさい!」
「え? どしたんだよ」
「いずみちゃんが! はやくとにかく乗って!」


なにもわからぬまま、心配そうに見つめている千佳を背にタクシーに乗り込む。
車内で聞かされた事。震えるように母は僕に告げた。

「いずみちゃんが……事故にあったのよ」

その瞬間、僕が真っ先に思い浮かんだのは……想像してしまったのは……。
『別れ』の二文字だった。



つづく⇒第37話【それは傍にある大切な“空気”】
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Comment

もう少し進めるつもりだったのに。

なんだか、いつもの如く気が付いたらちょっと涙が…って状況で。

ああ、そういうイジメとか。
実はfateも描きたいのに、本気でそれを題材にすることは出来ない。
結局、自分が辛くなってくじけてしまうのが分かっているから。
「光と闇の巣窟」で、茉莉ちゃんを結局、コロせなかったように。
そうすると、ハナシが中途半端になってしまって、まったく生きてこなくなって、何のために描いたのか分からなくなる。
だから、いつでも、生ぬるいハナシしか描けないんだろうなぁ、としみじみしてしまう…

幸せになって欲しい人って、なかなかそうはならないのがゲンジツなのかなぁ…

2012.04.07 (Sat) | fate #- | URL | 編集

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