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【別れの値段】30

第30話【……好きです】



――葉桜……?
――葉桜、どうしたんだ?

2月13日放課後のこと。
残った金城先輩に渡すはずだったチョコを持って、もしかしたらいるかもしれない金城先輩を探したあの日。
2年生の下駄箱前で靴を調べるとやっぱり金城先輩はすでに帰ってしまっていた。
下駄箱にチョコを入れておくのは少し気が引ける。手渡しで渡したかったのだけれど、土日は休みだし、チョコが渡るのは月曜日になってしまう。

「葉桜じゃないか」
「ぁ。柚木くん……」

話しかけてきたのは同級生の彼。手にもっていた包みが少し恥ずかしい。

「ずいぶん部活長いんだな。文芸部って」
「ぅん……あ、そうだ」
「え?」
「柚木君……これなんだけど……受け取って」
「え……これって」
「……ごめんね、余ったやつなんだ……けれど」

柚木君はすごく優しくて。2年の下駄箱の前にいることで、気づいたのか。すこし寂しそうな顔をしていたけんだけど、きっと彼もそのとき、それが自分宛じゃないことをたぶんわかっていて、でも私の表情からきっと察したんだろう。嬉しそうにそれを受け取った。おおげさに、やったー!と。
その自分の軽い行動がしばらく……自分自信を傷つけた。ううん。本当は傷ついたのは私じゃなかったのかもしれない。もっと広範囲に……私はきっと。

3年の先輩たちが卒業して、私は2年生となった。
文芸部は、たった二人になってしまったので私は新一年生の勧誘をがんばるつもりだ。
部員5名以下の部活がその状態で一年続き、2月の予算発表ときまで定員を超えないと4月からは廃部となる。
金城先輩と二人きり。女の私は緊張感ゼロで、文芸部の部室で一緒に本を読んだり、勉強を教えてもらったりした。部活ということもあってか、金城先輩を取り巻く片思いの女たちは、不思議と私を警戒してはいない。
きっと、金城先輩の私の扱い方が上手だからだ。
いたるところで、出くわす。後輩が金城先輩に告白する場面。

「金城先輩! 好きです! 付き合ってくれませんか!」

見る気はないんだけれど、目立つくらいに金城先輩はモテる。それはそうだろう。スーパーマンのような人だから。先輩にもしも彼女ができたら、部活にこなくなるだろうか。
私一人きりになっちゃうだろうか。それが最初は嫌だった。そう。好きとは違う、好きだった。

「どうしても、だめですか?」

迫る片思いの女の子。泣くように金城先輩をつかむ子。
金城先輩は、言う。

「ごめんな。悪いけれど」

感謝もなく、勇気を慰めるでもなく先輩は、断る。

「わ、私、あきらめられません! 私も先輩と同じ部活に」
「悪いけど、そういう気持ちで部活に入られたくないんだ」

そうやって金城先輩が言うものだから、私は……。
とある放課後の部活のときだ。

「葉桜君」
「は、はい。なんですか?」
「文芸部だけど、今年で終わりにしようか」

ガタタッ。
あとずさりした椅子が無意識にたった私の存在を語る。

「そ、それってどういうことですか?」
「今年も部員勧誘を……やめてほしい」

ひきずっているのだろうか。3年の先輩たちを。新しい世界になるのが嫌なのだろうか。
この先輩は、優しいくせに、どこか冷たくて、気持ちが読めないけど、
こういうとき、かける言葉がないほどに、寂しそうな表情を浮かべるんだ。
それが、私から言葉を奪って、これ以上いわないことが正解だって確信させる。

「わかりました、先輩……今年はふたりで最後の文芸部にしましょう」
「……ありがと」

わかってた。先輩が間違っていること。
わかってた。先輩が3年の先輩たちがいる景色の中で過したい事。
わかってた……凪先輩が言い残したかったのはそういうことじゃないってこと。

それから、しばらくして部活の勧誘期間が終わった。
自ら入ってくる部員は不思議といなくて、正確には数人は入ってきたんだけど、名前が消えていくように、
金城先輩に好意を持ち名前を残しただけで、気がつくと文芸部室には私と金城先輩しかいなかった。

学校帰りの夕暮れ。
迷う女一人。このままでいいのかと不安になるわたし。
一日一日の金城先輩との部活動が辛い。
あの部室には、……金城先輩になんて言ったらいいかわからなくなる。
小さくため息。下駄箱でのこと。
部活が終わり、残りたいんだ。っていった先輩をおいて、私は先に帰る。
自分の下駄箱に手をかけたそのとき。わたしへの声。

「あのっ、葉桜! 途中まで一緒に帰らないか?」

たまたま帰る時間がかぶったのだろう。
柚木君がわたしにそう声をかけてきたの。

「柚木君? 急にどうしたの?」

柚木君は、どちらかと言えば活発的で、じめじめしている私とはイメージが違う人。
だれにでも優しくできるいいひと。
例えるなら、おなかを好いた子供を絶対に見て見ぬふりをできないような人だ。

「よかったら、途中まで一緒に帰らないかな?」
「えっと、柚木君の家って同じ方向だったっけ?」
「え? ……うん。だから一緒に……どうかなって思って」

また。やり場のない感じから、助けてもらえるような気がしたの。

「そっか。じゃあ一緒に帰る?」

楽しく家路をたどる。久々に男の人と笑って会話をして楽しかった。
でも、柚木くんはね、なんだか罰ゲームのために私を誘ったんだって。
次の日に噂できいた。一緒に歩いて、明日の宿題の話をして……部活の話をして……担任の話をして、ただ別れた。でもそれは、私に一時でも、まだ中学生なんだっていう自覚をもたせるものになった。
わかったのは、みんな恋愛してるってこと。

「あ。あの……金城先輩」
「ん? どうしたの?」
「金城先輩は、好きな人っているんですか?」
「なに。急に。珍しいね、葉桜君がそんな事言うのって」

夕暮れの部活。あったかいからだと思うの。
ふとこういう話をしても、差し込む夕日があったかいから、大丈夫だって思うの。

「好きな人、いるよ」

金城先輩はそう答えた。
何かが割れるように、導くように私を背後へと引っ張って現実感がとおくとおくへ逃げていくような感じがした。

「そろそろ……帰ろうか」

私は、その日、金城先輩に好きな人がいるって知った日。
ほんとに何を考えてるかわからない。何を思っているか、何を見つめているか検討もつかない。
イライラするのに、心はモヤモヤするのに、どうしようもなく好き……。
私は、金城先輩のことが好きなんだ。

どうしてか流れた涙が、ほほを勝手に伝っていく。

――……好きです……
――神様。どうやら、私は金城先輩が好きになってしまったみたいです

輪郭を伝う涙が私に初めて人を好きになる辛さを教えたの。



>続く 第31話【バイバイ】
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Comment

fateさんへ

ありがとうございます! なんかfateさんに褒められると照れますね;
でもでも、僕はイメージばっかで文章追いついてないので、どうしようもなく下手なのでそんなにうれしいコメントいただいちゃうと、感動してしまいます。
fateさんもきっと想像でその僕の至らない部分を押さえてくれているのだと尊敬します。
設定では、別れの値段は7章で終わる予定なんですが、話の根本除けば、一章ごと読みきりなのでゆっくり続けてもいいかなとか考えています。なんにせよ、応援うれしいですがんばります(笑

2012.01.29 (Sun) | 小織 悠 #- | URL | 編集

「ああ・・・心がくさりそうだ。
青春すぎて物語を打つキーボードが泣き始めた。」

↑笑いました。
っていうか、なんとなく「おお、分かる!」と思ってしまって。
いやいや、しかし、こんな甘酸っぱいものすごい‘青春’を描けるんだからウラヤマシイ。

丁寧に丁寧に進むので、その過程がリアルに違和感なく迫ってきて、まるで夕陽を浴びたその教室が目の前に一枚の静止画として浮かんでいるようだ。

恋愛に関してはかなり欠陥がある生き物と自覚はしているけど、理解して共感出来るだけ良かったと思えるくらい素敵な世界と思います。(なんか、くどくてすんません…)

ここで、留めおきたいくらい、余韻が残りますね。

2012.01.27 (Fri) | fate #- | URL | 編集

ああ・・・心がくさりそうだ。
青春すぎて物語を打つキーボードが泣き始めた。
こんな話書いてごめんなさい。
あ、そうだ。
琴君誕生日おめでとう!!
プレゼントはないけどねw
ランキングは、宣伝みたいなものだから順位はどうでもよかったりしますが、でも応援してくれる人がいるってのがわかるからとてもがんばろうって気持ちになるよね。

2012.01.26 (Thu) | 小織 悠 #pEHdweCo | URL | 編集

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