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【別れの値段】29

第29話 【泣くのは一緒に二人きり】



手を握り返してくれたあの人の感触をまだ私の右手は覚えている。
大きく弾け飛ぶように散る上空の花火が少し怖くて、だれかを求めて彷徨う手。
私自信もまだ気がついていない寂しさが、音におびえて誰かを求めたのだ。
繋いでいたくて、それをせがむように先輩の手を掴んだ。

「大丈夫だよ」

そう言って、金城先輩は私の手を握り返した。
だれもしらない笑顔で私を見つめてそう言った。
終わって行くものがある事がすごく辛い。こういう素敵な事があると時間がすごく大事だなって思ってしまう。
金城先輩は優しい。凪先輩も、安藤先輩も、羽鳥先輩も緑川先輩も。
私は、とても好きだった。

「先輩! 今日は誘ってくれてありがとうございました! 大好きです! これからもよろしくお願いします!」

照れ笑いする凪先輩。背後にまわった3人の先輩に頭を掴まれてせっかくの髪型を最後にぐしゃぐしゃにされる。
意地悪そうに、先輩たちは言った。

「あはは。やっぱ夏っていいよな!」

せっかく綺麗だった髪型を崩されて膨れる私。

「やっぱり、先輩たち嫌いです!」
「あはは」

そうして初めての中学生の夏が終わる。手を引かれるしかないのは寂しいけれどあったかいんだなぁ。
借りた浴衣はその日着て帰り、母と父に見せたら、案の定。

「ゆかり。なんだその髪型……」
「うー。祭り中は可愛かったんだよぅ」
「でも、楽しそうでよかった」
「うん!」

金城先輩は、記念にそれやるよ。と浴衣の返却を拒んだがさすがに親に怒られたので後日部室へと持って行った。
奥までまっすぐ伸びる校舎の廊下。染み入る光が眩しく見えた夏。遠くで手を振る影5つ。私はそこへ走って近寄る。放課後の2時間。積み重なる時間と終わって行く景色。そして感謝を私はわすれない。

バレンタインデーに初めて作った5個のチョコ。4個は先輩に。1個は……たしか。そう柚木君にあげた。
いつも教室で親切にしてくれる彼に、感謝を込めて。……可哀想にバックに残ったチョコをあげた。
初めて作るチョコはなんだか可愛くなくて、結局ママが帰ってくるまで出来上がらなくて、悪戦苦闘した。
でもとっても楽しくて、どきどきして一生懸命がんばった。
少ない貯金で買った小箱に入れたクッキーとチョコ。少ないけれど先輩たちに渡すときめた。

3年の先輩たちは卒業式の準備を始めて部活には最近くる事も少ない。
渡せるのは、13日の金曜日だけ。一日早いチョコを先輩たちに渡すと、嬉しそうだった。

凪先輩は、しつこく本命かを聞くし、安藤先輩は甘いものがあまり好きではないのに受け取ってくれた。
緑川先輩はあやしそうに匂いをかぐし、羽鳥先輩は、お茶をいれて一緒に食べようと言ってくれた。
その場に金城先輩の姿は、なかった。帰り道バックの残ったチョコは、金城先輩ではなく、感謝を込めて友人へ。

あとで、気がついたの。金城先輩がいなかった理由。私は、鈍感だった。
卒業してもこの形は壊れないんだって本気で思っていたからだ。

「金城先輩こないですね」
「……」
「ぁ……ぁぁ」

めずらしく黙る凪部長、口吃る安藤先輩。
進学高に受かった先輩たちはとても清々しく後の学校生活をすごしている。残り一ヶ月もない。
そう……。1月を過ぎて受験シーズンになってから、金城先輩は私たちを避けていた。
どことなく関わる事を恐れているように。
卒業って1年生は実感持てないんだ……。なんで中学って3年間しかないんだろう。
つながりは消えないのに……繰り返す時間が何一つとして無いんだ。

「金城……あいつ、卒業式きてくれるのかな……」
「2年の送辞を言うのはあいつだろ。こないわけねぇじゃん」
「そだよな」

そう緑川先輩がつぶやいた。甘いはずのチョコレートをみんな美味しそうに食べてくれたけれど、
どこかしらバランスの崩れた放課後。金城先輩に渡すはずだったチョコレートは行き場をなくして鞄の中。
卒業生に対する送辞を言うのは、時期生徒会長とも言われた金城先輩。
私がそれを実感したのは最後の部活の日。
卒業式の3日前だ。
実質一年も一緒にいなかっただろう。でもわかった。

−−卒業しちゃうんですね……いなくなっちゃうんだ。この部室から

手作りのしおりをプレゼントとして私は先輩達に渡した。渡した途端に涙があふれそうになったが。
凪先輩たちは、私を笑顔にさせて最後の部活動が。一緒に過ごせる時間が終了した。
金城先輩は……そこにも来なかった。
丸一ヶ月近く私は先輩と会話をしていない。目を合わせても素っ気なく気持ちを聞く事もできずにいた。
ゆいいつ壮麗に立つ卒業式予行で、送辞を広げる先輩をみるだけ。
私はどうしても先輩たちを見送りたくて1年生は卒業式には参加しないのだけれど、先生に無理を言って、幾人もの1年生徒の立ち見の場所で卒業式に参加した。

3年卒業生代表者が前に立ち、長い単調な証書授与。涙を流す親と未来を見つめ振り向かない卒業生。
凪先輩は変わらず、もらった証書をもちあげてガッツポーズをした。
安藤先輩たちは、礼儀正しくその最後を受け取った。
そして……送辞の言葉。

「えー。それではー。2年生代表、金城和臣君!」

呼ばれた金城先輩は、立ち上がる。教室まで届く様な反響する声でハイ! と声をあげて……。
咲き始めようとする桜のつぼみから、程近い香りを感じて。
グラウンドをかけて鳴る砂のカラカラ音とか、静けさ残る廊下に落ちる水道の雫とか
冷たいストーブの炉管に反射する日光が黒板を照らしていたり、いままで当然だったものが、思い出がどんどん離れて懐かしく綺麗なものに変わって行く。その入り口でしかないこの場所で、矛盾に訪れる別れとなるのだ。

「−−下さい。僕たちも先輩たちのようになれるように勉学に勤めたいと……」

そう。別れに泣けないのはきっと……私だけじゃない。

「2年生代表……金城和臣……」

送辞を完璧に読み終える金城先輩。拍手が終わり、答辞を読む3年生代表の人。
立派に役目を終えた金城先輩は揺れる事無く席に着く。

卒業式がおわり、校舎の前。別れお惜しむ声と帰りを惜しむ卒業生。
その中に私も、入る。楽しそうに笑っていつもよりかっこ良く見える。金城先輩の姿は無い。
すると、凪先輩と安藤先輩はため息まじりに話す。

「まったく……あいつは最後まで優等生だな」
「……ほんとだな」

飽きれたように凪先輩は文芸部の窓を見つめる。

「ほんとに最後の最後までやる事残しやがって……」
「ゆかりちゃんは、あいつとこれから二人でだから大変だな」

安藤先輩と凪先輩は卒業証書の筒を方にぽんぽんさせながらめんどくさそうにそう言った。
そして、制服のボタンを掻っ攫われている緑川先輩と羽鳥先輩を呼びつけて、凪先輩はいった。

「じゃ。いくか」
「だね」
「おいで。ゆかりちゃんも」
「……本当の意味での最後の部活動をしようか」

ついて行った先、見慣れた教室、文芸部。私を一番前に立たせると背後から勢い良くドアを開く凪先輩。
中には……金城先輩が一人でいて。勢い良く開いたドアに驚くようにこちらを見つめる。

「よう。金城」
「……凪部長……」
「なかなかいい送辞だったぜ」
「どうしたんすか、こんなところに」
「なにって、お前に会いにだよ」

ごまかしたけど、凪先輩に押されるようにドアが開いた時に正面にいたから私には一瞬見えた。
それは、拭き取った涙。寂しかったのは……一番寂しかったのはこの人なのだろう。

「一人で男泣き?」
「は? なにいってんすか、泣いてないっすよ」

凪先輩がからかうと、金城先輩はそれに即答した。
押される私。部室内に入れられたのは私だけ。
振り返ると入り口のドアの外で見つめる4人。そして凪先輩は言った。

「ここには・・・俺たちは入らねぇぜ」

凪先輩は、可愛い人だ。場の緊張を全部取り除いて固く結びついてしまった結び目を簡単に解く。
とてもかっこいいひとだ。
そして、安藤先輩は言う。

「もう飽きたからやめるんだよ。俺たちは中学生を」

安藤先輩は、お兄さんタイプ。全部見据えて、その時欲しい言葉をいつでも私たちにくれる。
続いて、緑川先輩は言う。

「ここは、もう僕たちの居場所じゃないね」

緑川先輩は、おちゃらけた人だ。細かい事を気にしないから、いつだってそこの雰囲気が壊れない。
そして、羽鳥先輩は言う。

「ああ。この部室は、俺たちのいる場所じゃない」

羽鳥先輩は、友達の多いひとだ。時に無性にかまってほしくなったりする。きっと声が素敵だからだ。
文芸部にいるのが不思議なくらいに学校の中心で輝いているように見えた4人。
そして、凪先輩はポケットに両手を入れて、私たちに言葉残した。

「なぁ。最後に聞かせてくれよ、金城。俺たちと居て、たのしかったか?」
「……はい」
「楽しかったんなら、これからのお前の一年はもっとすげぇ楽しいものになる」
「……」
「なぁ……金城。……二度と時間はもどらないだろう? 別れじゃないよ。俺たちはさ今、お前と居れた時間。それに、ゆかりちゃんと短い間だったけど出会えた事を、一日一日の思い出を大事に思ってる」

言われて震えて涙こぼす金城をみて、わたしもやっと涙が出た。
そして先輩たちは、また遊ぼうぜ!と言って廊下を歩き出す。
気がついたように、その“大事”を求めるように。
金城先輩は廊下へでて、大きな声で……。

「先輩っ! ありがとうございました!!」と叫んだ。

奥までまっすぐ伸びる校舎の廊下。
「がんばれ」と残された言葉4つ。
染み入る光が眩しく見えた別れの季節。
遠くで手を振る影が光に溶けるように4つ。
それは憧れのまま、かっこいい姿のまま、鮮やかに消えた。
泣くのは一緒に二人きり。私と金城先輩の影がまた繫がる。
涙を超えて、短くも長いもう一年。
私と先輩の次のステップが歩みだす。


続く→ 第30話【……好きです】




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Comment

牡蠣さんへ

ありがとうございます×100
伝わった~;;牡蠣さんにも伝わった~(嬉
今回の話、急ピッチで展開するので、重みが出せるか、先輩のキャラを印象付けれるかが意外に大事だと思って、しつこく書いています。呼んでくれた人が、きっとこういうエピソードもあったんだろうなって情景で想像して懐かしさをかもし出せたらという思惑がありますが、2%くらいでもそれが伝わったならこんなに嬉しいことはない。ありがとう。牡蠣さん^^。牡蠣さんも卒業式で大好きな先輩がいなくなるときは、素敵に素直にその別れに涙をだして最終的に笑顔で送ってくれそうですよね。

えと、ランキングの件は、たまたまだと思いますが;(焦 そういってくれると嬉しいです。でも音琴君と結のコンビはとてもいい感じだから、それにずいぶん救われている。というかそっちがメインにならないように努力だ・・・。ライバルは自分自身(笑
書き上げは、誤字もありますし、だめだめですが、読んで優しくなれる話が作れたらと思います^^ほんとに毎回読んでくれてありがとう。

2012.01.25 (Wed) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

あぁ、懐かしい……。
先輩が引退していく時って、こんな気持ちだったなぁと思い出しました。
恋に限らずとも、別れは切ないものですよね。
一人一人、すごく魅力的な先輩だったんだろうなというのが、伝わってきます。

余談ですが、小織さんが戻られてからランキングすごい上がってますよね~。
きっと、待ってた人が多いってことですね(^-^)

2012.01.25 (Wed) | 牡蠣ひろみ #- | URL | 編集

作者追記

この回は、もっとじっくり書きたいのですが、いや、なにぶん文章が拙すぎて表現できなくて泣けてきます。
短いエピソードに、情景や描写で深さをだそうと試みましたが、ちょっとクサイですね……。
ぁぁぁ〜もっと文才があれば、頭ん中の場面や綺麗さや感動をもっと形にできるのに(泣)
ショック……。でも、これまでにないくらいにかっこいい素敵な上級生と別れて、金城先輩と二人きりになるっていうのが重要なことなので、それが書けていればいいのかもしれない……。ああ。調整いれてもうちょっとクオリティあげられたらなぁとおもっていますが、どうか懲りずにめんどくさいでしょうが、わかりづらくても想像解釈にご協力ください(ぺこり)

2012.01.25 (Wed) | 小織 悠 #- | URL | 編集

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