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【別れの値段】 26

第26話【終った初恋に終らない初恋 “葉桜ゆかり”】



 彼女はすごく優しい。
 純粋に僕の言葉をそのままに受け取ってくれた。
 僕、“柚木拓也”は、同じクラスメイトの“葉桜ゆかり”を恋慕っていた……過去の話だ。
 手探りで探した恋の過ちというやつで、残されるべき実感は無い。
 だからこそ厄介なもので……。中学のあの頃にタイムスリップしたみたいに僕は……彼女を見つめたまま硬直するしかなくなるのだ。
 一度好きになった人が目の前に現れるとどうしたらいいか分からなくなる。

「ぁ……あの、店員さん?」
「ぇ……あ!」

 僕の卑怯なところは……ここで名乗れない事だ。
 こうして臆病に生きてきた事を本来は恥じるべきだと思う。
 30万キロという速さで世界が近づいているのに大事なその光を無謀にも見逃すような……自分のいる立場すら理解できない宇宙上を広がる何も無い空の闇の存在と同じ。いつも達者に育つのは口答論。ずっと待つことしかできない男なのだ。

「ぁ……ぁの、だいじょうぶですか?」

 彼女は心配そうに再度、僕を見つめた。

「え!? は! はい」
「ずっと……その……見られると恥ずかしくなりますので……」

 葉桜ゆかり本人だと確信できたのは、もう一つある。髪型は相当に綺麗に伸びているためイメージに面影は無い。中学のころは、きっとしゃべり方ももっと流暢であった。少し笑ったときに伏せる癖や、その後にふるふると顔を振って我を取り戻すしぐさには多少見覚えがある。
 確信は、襟元に見えるネックレス。彼女は、中学のときからずっとつけているネックレスがあるのだ……。それが何かを僕は知っている。打ち明けなかった勇気と引き換えに僕が彼女に告白できなかった目に焼きついて離れないそのネックレス。そう……今でもつけている事でもわかる。彼女の時間もきっとそのままなのだと。

「葉桜……さん。」
「はい」
「あの〜。これの別れの思い出に値段をつけないとですね」

 葉桜は、この店の意味を理解しているようだが、僕があの時の同級生であることには気がつかない。
 仕方ない事だけれどそれに、救われている自分がいる。
 いくら面影があったとしても彼女にとって僕なんか記憶の隅にすら残ってはいないかもしれない。
 体型も声も髪型さえも大きく違くなって今。またであった事。神様は何を僕にさせようとしているのだろう。
 携帯の履歴を回して、すべての始まりへ戻すかのように僕は彼女に話を聞く。

「この携帯には、どんな思い出があるのですか?」

 携帯電話というものが、愛の形そのものに見えるようになったのは、最近のこと。
 手紙だったり、歌だったり絵だったり。いままで、あるものすべてに意味が無かった時代。
 美しく形ずいた愛は、その膨大な世界に色付いた。
 閉じ込める様な機械を作ったのは、人。意味を生み出したのは、人。
 人間はいつまで、自分で気持ちをはっきりとした形で生み出し、それを残す事ができるのだろうか。
 雪がすこし強まり始めて、窓の雫が落ちた頃。
 ゆっくりとフィルムをまわすように彼女は話を始めた。

「ずっと前……私が中学にあがってすぐの頃の話……です」

---------------------------------




 寝る前ちゃんと覚えていたことが、起きると空っぽになってることがあるでしょう?
 小学校から中学校にあがって変わるのはお年玉の金額くらいで、なんらかわらない義務教育の延長。
 ゆとり教育が始まることに、感じた事はとくになくて。どんどんどんどん、あっという間に時間が流れて、高校生になって、大人になっていくんだろうなって思ってた。中学生活なんてそんな物の一部でもっとも早く過ぎてしまうものだって思ってた。良い意味で言えば、何も考えてなかったけれど、何も考えなくてもちゃんと大人にはなれると私はそうおもっていた。

「ゆかりー! 早く食べてよ。お母さん、もう出かけちゃうからね」
「は〜い」

 共働きの両親は私が学校に出かけるよりも早く家をでる。そのせいもあってか、はやく家に帰るよりも学校に残って、図書室で本を読んだりすることが好きになって育った。一人遊びが得意なのは兄弟がいないからだけれど、そう言う理由とは別に、私はあまり友達を作るのがうまい方ではなくて、だからといっていじめられたりもしない。事足りる友人との学園生活は遅れているのだ。

「ところでゆかり。あなた部活は決めたの?」
「んん〜」

 朝食の牛乳をゆっくりと飲みながらだらしなく“まだ〜”と返事をするわたし。
 そう。部活の希望用紙を提出する期限は間近だ。

「加奈ちゃんとまた陸上やればいいじゃない」
「う〜ん。考えちゅ〜」

 パンにジャムを塗って返事をする私の朝の光景は変わらず。
 母は、良い母だ。父は、朝5時に会社に出かけるため夜しか会う事は無いのだが、十分にこの両親に私は満足している。見かけによらず走る事が好きな私は、小学校まで仲の良い加奈という女の子と一緒に陸上をやっていた。その加奈ちゃんとは中学校に入ってクラスは別々となったが今も変わらず仲は良い。
 体験入部したブラスバンドや陸上部、バスケ部は実はというと楽しそうではあるが、男女混合であるため、人見知りの私には敷居が高く感じたの。いろいろと期間中まわったけど、いまいち興味をひく様な物はなくて、入部先に困っていたりした。
 やがて約3ヶ月の期間が過ぎて、教師の部活の勧誘もやや強引になり始めた頃。
 私は、図書室で一冊の本を借り、その本を一人で読んでいた。放課後の教室でのこと。
 ちゃんと覚えてる。4時半をまわろうとしている夕方、勢いよく教室のドアが開いて、気持ちいい風が鼻先を通り抜ける。
 入ってきた一人の男子生徒は、私に声をかけた。その男の子は同じクラスの男の子で、中学に入って初めて友達になった違う小学校からきた人。そして始めて会話をした男子生徒。名前まではちゃんとは覚えてないんだけれど、とっても私に優しい人だった。きっと私が一人で放課後に寂しく本を読んでいるものだから気になったのだろう。私が文芸部に入部するきっかけになったのはそんな些細な放課後の男子生徒との会話だったりするんだ。

「名前さ……葉桜……さんだっけ?」
「……うん」
「こんな時間まで本、読んでんのか?」
「うん」
「もう部活はきめたのか?」
「……」

 そうだ。思い出した……。柚木君だ。

「柚木君こそ……決めたの?」
「え? 俺もまだきめてない」
「そっかぁ~。そうだよね。なかなか決めれないよね」
「……」
「柚木君は、いままで何してたの?」
「俺は屋上でのんびりしててさ……忘れ物があって取りに」
「そっか……」

 閉じた本をそっと机に置いて、柚木君と話をした。

「本すきなのか?」
「うん」
「すごいな。俺はどうも文字ばっかりは駄目で漫画のほうに行っちゃうよ」
「そぅ? ふふ。あまり変わらないよ」
「そんなに好きなら文芸部にはいればいいのに」
「文芸部?」

 この学校に文芸部なんてものがあった事。それで知ったんだ。
 次の日先生に聞いたら、もともと第二理科室だった場所が今の文芸部部室なのだという。
 部活紹介すらなかったけれど、ちゃんと部活の種類のしおりには記載されていた。
 部員は5名。おもな活動は感想文や俳句作品、自作の小説の創作などをしているらしい。
 興味がある内容だった。
 正直どんな部活でもよかったんだ。本はすごく好きだったし、偶然にも読んでいた本の主人公も文芸部に所属している男の子の話だったの。きっかけって突然現れるものだよね。
 期限がぎりぎりとなり、加奈ちゃんからも誘われた陸上部はやっぱり断って、軽い気持ちで入部用紙に文芸部と書いた私は、その用紙を持って文芸部の部室へと向かった。
 浅い曇り硝子のドア。電気は付いているが重々しく人の気配は中にはない静けさが少し不気味。
 
「やあ、ひょっとして入部希望?」

 ドアの前でいざあけようとしたときに話しかけてきたのは、先輩。
 バッジの色と上履きの色が違うからすぐ3年生だってわかった。
 ガラガラ。
 ひっかかり、音が大きくなるドア。
 
「よろこべ! 入部希望者だぞ!」

 中にいたのは、3人。3人とも男の先輩で、まあなんていうか本を読んだり携帯をいじっていたりのんびりとしていて、その文芸部の部室はやや薄暗いが電気はついている。初めての人間には居づらさすらある空間。

「ぁ……あの! 葉桜ゆかり一年です! よろしくおねがいします!」

 こうして私の中学校部活でデヴューした。
 最初に入る前に話しかけてきた先輩は、凪先輩。その頃の文芸部を仕切る部長である。
 残念ながら同じ一年に文芸部に入った人は一人も居なかったけれど、一人である事で、優しい先輩を独り占めできるのはすごく嬉しかった。もともと寂しがりやな性格のせいかいろいろと楽しく部活を過ごせていた。
 残りの3人の先輩は、同人活動なんかもしていてすこしライトノベルや萌え文庫のような方向のつよい趣味をもっている。話がとてもおもしろくてすっかり仲良しとなった。妹のように接してくれる。大事にしてくれる。
 先輩は全員で4人なのかなっておもってた。一週間が過ぎて、二週間が過ぎても5人目6人目の人は部活に現れなかったからだ。
 質問する事もせず私はのんびりと部室で本を読む。本を読み出すとその世界に入るように一人じゃないのに一人の世界で部活が成り立つ。部長もしずかに本を読み出した。気を抜くと話しかけられるのことがあるのでまだなれないのはそれに対する対処。
 
「どんな本読んでるの?」
「あ! えっと……太宰です……」
「結構ゆかりちゃんってもてたりするでしょ?」
「えええ。そんなことないです」

 こんな些細な会話も含めながら部活の時間は過ぎていく。たくさんのお兄ちゃんができたみたいで嬉しかった。そんなとき、先生と一緒にとある人が部室に入ってきた。

「……」

 その人は、黙りこんでいる。何事だろうと緊張感が走る。先生が、その人を黒板の前に立たせると。
 突然、先生が叫んだ。

「おしゃーああ!!!」
「!!?」

 一斉におめでとうの声。


 え? 何事!? と私は混乱する。すると先輩4人は突然立ち上がり拍手。すごいびっくりしたよ。その状況を知らないのは私だけだしいきなり部室がパーティモードに変わるんだもの。歓迎会を扮したドッキリかとおもったくらい。
 そして黙っていた、男の人が一枚の賞状を取りだし、ひろげると黒板に貼り付けるようにたたきつける。

「えー。あらためまして!」
「いーえい!」

不慣れな上級生の男子のノリ。

「聞いているかもしれないが、僕の作品がっ! なんとこのとおり、大賞をとりました~」
「すげぇえええー!」
「さすが、金城!」

 クラッカーまで持ち出し騒ぐ5人+先生。
 私は取り残されてぽかーんと口をあけている。
 説明された話だが、簡単に言うと、この先輩。金城先輩というのだが、この先輩が書いた小説が、とある文芸部門で大賞に選ばれたらしい。創作を基本としているこの部活によってこれほど名誉な事はない。
 そう。何気なく本を読み時間をつぶしているように見えてこの先輩たちはちゃんと夢をおいかけていた。
 凪先輩の作品はおしくも佳作どまりだったのだが、さすがは教師も認める文学学生というところ。
 私もなんだか嬉しくなって、金城先輩に自己紹介する暇も無く楽しくその場を盛り上がった。
 先生も飲み物やお菓子をもってきて嬉しそうにその話をしていた。

「先輩すごいすごい! すごいです」

改めてみた賞状は、裏側は悲惨にもチョークの粉まみれだったが名誉ある一枚。自己紹介も終えたところで私は、金城先輩に話をかけた。

「葉桜君も、今度書いてみなよ」
「ぇ……いや私は読む方で……」
「そっか」
「失礼でなければ、金城先輩のお話を読んでみたいです」
「ぁぁ。中学生の部門だから書籍化されたりはしないから、ぜひ君にも読んで欲しい」

 聞いてみると、他の3人の先輩も生徒会のメンバーだったり、成績優秀者として表彰されたり、コンクール応募の経験もあるのだとか……。
 すごい人ばっかりで、傍にいる先輩たちがすごくキラキラ光って見えた。
 
 わたしは、私だけがまだやる事を見つけれてはいない。そんな気がした。
 
 

続く→27話へ
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Comment

fateさんへ

ありがとうごじゃります。わわわ;勿体無い。持ちきれないくらいに嬉しいコメントでした。
じーんっと感動。fateさんの書く物語に比べたらそれはそれは幼稚な文章だとおもいますが、なんか読んでいただけているとわかるだけでも嬉しいですなぁ(幸
おもったより長く続いている別れの値段の終わりどころがわかっていない僕でした(笑)
がんばります^^ありがとうございます。

ちなみに中国は、おもいのほか日本とかわらないです。ただ、出店の量とか物価の安さが半端ではないですね。いいものは高い。やすいものはとことん安い。
いろいろ勉強になってきました。海外は行くチャンスがすごく最近増えましたが仕事でいけるのって結構悪いものじゃない気がします。こわいですけどねwww

2012.01.23 (Mon) | 小織 悠 #- | URL | 編集

牡蠣さんありがとうございますw

教室の感じとか、どこか懐かしい思い出とかそういうのをうまくかけたらいいなっておもっています。
今回の話はそれはそれはピュアですよ。
じぶんでも恥ずかしいくらいに。葉桜さんをいかに可愛くかけるか、僕の乙女心満載でかきます(ぉぃ

2012.01.23 (Mon) | 小織 悠 #- | URL | 編集

最近は読み逃げでしたが、ちょっと真面目に…

小織さんの描く世界観もさることながら、言葉の選び方、使い方、世界がうわぁっ! と広がる瞬間、時々、おおおおっ! という言葉の配置に、そこで一気に空間が彩りを持つ、言葉の魔法とでも言うような感動! それを見せてもらうときに、いつも感嘆、更に羨望です!
(なんかくどい文章だ…(--;)
うまいですね、心理とか情景描写が。
くそぉ、憧れるわ~

過去の‘恋’の記憶。
小織さんにもあるそうですね~
ふふふふふ。

中国、今、あそこは勢いがあるけど、そういう「気」はもらってこられたでしょうか?
なんか、混沌とした国であるような気がするのは、あんまり良いイメージがないせいだろうか。

今朝、友人から「日本のホテルが、使う食材に対して放射線検査をしていることに対して、中国人が安心出来ます、とコメントしていた。それを観て、お前らの野菜は洗剤で洗わんと食えないんだぞ! ってイラットしました。」というメールが届いて朝から笑ったこととか。

中国も田舎に行けば、すごく良いところらしいけど、都会はどうなんだろう?
まぁ、日本もそんなこと言われているんだろうか。最近、日本の治安もあまり良くないからな~

いずれ、お疲れさまでした(^^)


2012.01.23 (Mon) | fate #- | URL | 編集

別れの値段、ずっと読んでいますが、とりわけ今回の章の雰囲気は好みです!
学生時代を思い出させてくれるような、ピュアな作品が好きなので(*^-^*)

続きも楽しみにしています♪

2012.01.22 (Sun) | 牡蠣ひろみ #- | URL | 編集

今回、展開の無い話なので書いていてかったるかったですが、こういう想像できるところのエピソードって大事だったりしますよね。
4章は、重なる奇跡の物語。がんばります^^

2012.01.20 (Fri) | 小織 悠 #- | URL | 編集

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