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【別れの値段】25話

第25話【本当に時は止まるのだと思った瞬間】




これは……そっか。
古い初恋の夢だ。
結局、あのあとどうなったかと言うと、金城先輩は葉桜を残して海外へ飛び立ち、残された僕たちはそのあとの一年を何気なく等間隔の距離で過ごして中学校卒業を機に、はなれ離れとなった。
今思い出すとちょっと恥ずかしい青春の思い出。
僕を形成する一部分。

――今も好きかい?

そう聞かれたら、少し困る。
初恋は実らないというだろう? 人生最大の恋は実らない。だから素敵な思い出として刻まれるんだ。
素敵だなって感じたパノラマとその景色と一緒に。


---------------------------


起きたのは、お店。
となりで扱いに慣れてきたストーブがハチハチと音たてて、熱に少し焼けたふくらはぎがかゆい。
2時間くらいだろうか、寝ていたらしい。
まったくこの店は、普通の店とは違うよな。一人でいると寂しいと感じて、その寂しさがやけに切なく密着して本当に心が取り残された気持ちになる場所だ。
でも、嫌いじゃないんだよな……この空気。この暖かさ。千佳の心そのものであるこの店にいることが。

――あのねっ拓也君、お願いがあるの

千佳からお願いされたのは、一つ。絵を描き終わるまで店を預かるという事だった。
預かるといっても留守番みたいなもので、午後をまわってから4、5時間店にいるだけだ。
どうせ暇だろうと買ってきた雑誌を半分も読まぬままに寝てしまったのは、僕の気が緩いからだ。
やけにうるさく響く門番とか、リズム悪くユニゾンで響く時計の音とか
おとぎの国で僕は目を覚ましたんじゃないだろうか。そう思えて笑う。

――いいですよ、素敵な絵が描けるといいですね

あのおばあちゃんの、すみれの花を絵に残したいのだと千佳は言った。
あれからずっと泊り込む勢いでその花の絵を描いて、いつかおばあちゃんに渡すのだという。
嬉しそうで、儚げで、幸せそうな千佳の頭を軽くなでて、黙って僕はあの日先に家に帰った。

僕は、きっと千佳が好きなんだ。
知れば知るほどに千佳が好きなのだと感じるのは正直な気持ちだ。

「一人は寂しいよ……千佳さん」

つぶやいたのは本音だろう。
一人で待つ。不思議と冬の寒さに恋した感じだ。
千佳は離れて行きはしないけれど、やっぱりこの店に彼女が来ないのは寂しい。
また外は軽い雪が降り始めたようだ。

ストーブの上のやかんから出る水蒸気がぽつぽつと控えめに成り始めて、水を足す。
その瞬間の事だ。
ガタリと背後の店奥で音がする。ふと振り返るとあまりに突然で僕は竦む。
人がいたのだ。

「いっ!」

歯を食いしばり、その恐怖に耐える僕。
いたのは、女性。すーっと黙ったまま立ち、こちらを見ている。
人形のように綺麗な黒髪ロングヘア。何もいわずに立つ姿は幽霊。

「す、すみません……驚かせましたか?」

その女性は震えたような声でそう言った。
僕は、なんだか怖くてコクコクと頭で〝うん〟と答えると、彼女はこつこつと歩いてストーブの前までくる。

「……お、お客さんです?」

僕はたまらずに彼女にそういうと、彼女はうなずいた。
入り口の門番は健在だ。僕はその音にすら気がつかないほど寝入っていたのだろうか。

「えっと、何時からいらっしゃったので……?」
「店員さんが、起きるちょっと前です……気持ち良さそうに寝てたので起きるまで……その……店内を見てました」

状況はいたって普通の事であるが、みるからに独特の雰囲気を持っている女性。そしておきてからしばらく気づく事のなかった気配。僕は疑うように彼女を見る。
すると、どうだろう。顔は雪の様に白い。背は160前後だろうか、かなり細身で顔も小さい。
そのわりに瞳が大きくて、化粧はしていないのだろう。ストーブの火に頬が赤く染まって見える。
ずっと見ていれるような……綺麗なひとだ。

「寝ちゃっていてすみませんでした。全然気がつかなくて」
「いえ……」
「こ、コーヒーでもいれますよ、そこ座ってください」
「ぁ……コーヒー飲めないので、だいじょうぶです……」

外をみると一台の自転車。どうやらほんとうに幽霊ではないみたいだ。
僕は、ココアに牛乳をたっぷり入れてそれをレンジであたためると彼女に渡した。

「ココアです」
「ぁ……ぁりがとぅ」

異性と二人きりでいることにはなんとなく慣れ始めている。この女性もおそらくはなにか、別れの品を売りにきたのだろう。
僕はあらためて正面からうつむいてココアを飲む彼女の顔を見る。
……気のせいだろうか。どこかであった事がある顔をしていなくもない。

「今日は、なにかお売りに?」
「ぁ……はい」

見るからに話下手な女性だ。
時折様子見でちらちらみる視線がやたら可愛い。
彼女がバックから取り出したのは、一台の携帯電話。
彼女はそれを大事そうに両手で胸に持つ。

「携帯……ですか?」
「ぁ……はい」

携帯電話は、少し前の型、分厚く落とした古い欠けもある。折りたたみのdecomoの携帯である。知り合いの誰かが持っていた懐かしい機種だ。

「どうして携帯を?」
「メモリを消せないから……」

彼女はそういうと寂しそうに携帯を置いた。
もう使えない携帯に、残されたメモリー。

「中を見てもいいですか?」
「はい……」

驚いたのは、充電されていることよりも、中の未送信のメールの数である。
すごい数だ。未送信件数999.すでに限界を振り切っている。
一番最初の未送信メールはずっと下だ。僕は永遠と下へとスクロールしていく。

「だれかに、メールを送りたかったんですか?」
「……」

彼女は黙ったままだ。
送信先は、手打ちアドレスだ。電話帳に登録されていないのだろう。
一般的な携帯のメールアドレスではない。おそらくパソコン等のメールアドレスだ。

「だれに……送ろうとおもったメールなんですか?」
「……」

また、彼女は黙ったが、しばらくして小さな声で言った。

「ちゅ……中学から……ずっと好きな片思いのひとへ……送ろうとおもったけど送れなかったメール……です」

それを聞いて、僕はまさかと彼女をもういちど見つめた。
やはりなんとなく見覚えのある顔に気づく。
まさか、そんな偶然……いや奇跡といえる確率だ。
絶対にありえないと思いつつも、確かめるように僕は、彼女に名前をきいた。

「あの……あなたの名前は?」

彼女は垂れる髪を耳にかけて僕の方を向きなおす。
そして、想像は確信へと変化する。

「葉桜……葉桜ゆかりです」

本当に時間は、止まるのだとおもった瞬間だ。
携帯のメール履歴をスクロールしづつける指。
間違いなく画面は次々と過去へ戻り、間違いなく店内の時計は未来へ秒針を動かしているのに。
その時、間違いなく僕の思考する時は止まったのだ。





つづく⇒26話〝終った初恋に終らない初恋――葉桜ゆかり〟

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Comment

ありがとうございますー;;

fateさんへ。

再開待っていたなんて嬉しすぎる言葉です。
ほんとに涙がっ(ほろほろ)
中国は無駄に自転車だらけでした。カギカケナイから乗られていっちゃいます(笑
そのわりに山道が多くて、整備されている道をなかなか車で走るのはこわいです。
僕もfateさんの文に触れると勉強になるのでとても参考に、そして楽しくよませてもらっています。
再開というか、話がべたな部分もあるかとおもいますが。また、更新も気ままではありますが、読んでいただけたらとおもいます。
ありがとうございます。

2012.01.20 (Fri) | 小織 悠 #- | URL | 編集

おおおおお、いつの間にか、再開されてましたねっ
っていうか、ご無事にお帰りになっていたんですな。
良かった、良かった(^^)

再開、待ってましたっ
楽しみに追わせていただきます~!!!!

2012.01.20 (Fri) | fate #- | URL | 編集

くそぅ。

センスがいいなぁ。帰って早々、HPのイメージが小織になった;;
話の続きも気になります。

2012.01.20 (Fri) | 結 麻月 #qbIq4rIg | URL | 編集

まず最初に。
海外出張で、しばらくいませんで、放置してしまってすみませんでした。待ってくれていた方、ぜんぜん気にもしていなかった方いるかもしれませんが、やっぱり日本がすきです。ただいまです^^

☆別れの値段★
俺は、中学のときにマジで好きな子がいました。
それは陸上部の女の子で、活発的でかわいい方ではないのかもしれませんが、笑顔に元気をもらえるような女の子でした。ずっと想い続けて、修学旅行の恒例の暴露話でもぶっちゃけるほど。3年間同じクラスで何度目があったかわからないほどです。
告白は、していません。てか、できなかったですね。恥ずかしくて。でも、大学はいるときかな。なんでこんな勇気あったかわかんないんですけど、その彼女の家に電話していいました。
「おぼえてますか?中学のときの○○です」そういうと、彼女は、「うん」といいました。
それからなんかうれしくて30分くらい中学の話をして、それで映画にさそったんです。
2日後の日曜日に一緒にと。彼女はきてくれました。それはとてもイメージが変わっていて。俺も戸惑ったほど。
でも、きてくれた事が嬉しくて、勇気出して手を握って映画をみて、それで帰っただけ。これから大学生って男が奥手だったのでしょうか…。彼女は去り際にいいました。
「○○君は、わたしじゃもったいないよ、だからばいばい」
不思議と純粋のまま終った俺の初恋です。だらしなく追いかけるでもなく、そのあと俺が振られた理由を交換したメールでしりました。彼女は鹿児島へ。
遠距離になるのはいやだったらしいです。そういう恋を実体験として書くのはあれですが、別れの値段にもそういうの残したくなりました。きゃー(叫)暴露して自分ではずかしくなってきたわ~(←なぜおねぇ!?)
でも、恋はみんなするだろう? 俺は全部大事だっておもってるよ。

2012.01.19 (Thu) | 小織 悠 #- | URL | 編集

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