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【別れの値段】23 話

第23話【庭に咲くのは今も変わらず私の大好きな花】



おばあちゃんの最後の言葉もとっても私の心に響いたわ。
あれから5年。あのおばあちゃんはきっともうこの世に居ないのかもしれない。
私の作ったお店に来て欲しくて、あのおばあちゃんを探したけれど、行き会う事は二度となかった。
それを別れだとは思わない。

きっとわたしは居場所をつくりたかったんだとおもう。
たくさん経営学を勉強して、売り上げを必要としないお店を作った。収益は赤字で出すしかないけれど、商売とは多少異なるこの仕事は、経営ではなく理念。私の……そう。自己満足の世界。
お金は無駄にはできないとはおもってる。でもね、それでも確かめたくて追い続けたくてこのお店を作ったの。

でも、所詮取り繕ったものでは、意味はなかった。
……別れは星の数ほど膨大で、私一人が頑張ったところで幸せで買ってあげることなんてできなかった。
聴いてあげます。悩み相談。そんな事がやりたいんじゃないの。
私は、本当の別れってものを知りたい。私の置いてきてしまった別れをどうか知ることができればと。
次第に、私は〝別れ〟という本来形として存在しないものをお金で買い集めていた。
でも、現実は、本心からお金が欲しくて売りに来る人が大半で、こんなに別れが寂しいものだとわかっているのに……羨ましく妬ましく思うのに……店を続けたいと思うのはやっぱり私がもう居場所を無くすのが怖いだけなんだって思うの。


------------------------------------------------


「無駄だったのかなぁ……」

聞いてわかる。
本当に救いを求めていたのは、この人だったんだ。
いいや、僕は最初からわかっていたはずだ。この話をしてもなお、僕に涙を見せない理由。
乾ききってしまっているんだ……きっと。
過ぎる数日前の千佳の言葉。

――じゃ、じゃあ、千佳さんは、どうしてこの店を始めたんですか?
――私より辛い人を見たいから……

本心だったんだなぁ……あれはやっぱり。

「千佳さん……」
「ん?」
「……どうして泣かないんですか?」

この人は涙を見せたことが無いんだ。絶対そうだ。人のためなら優しく泣けるのに。
千佳は慌てて、手を開いて見せて僕に言う。

「だって、ほらもぅ5年も前の話よ? あはは」
「……」

一人で。一人きりで5年も抱え込んで。この人は……。

「話してくれたじゃないすか……」

僕がそういうと千佳はすこし眉を悲しそうに上げて見つめた。
目が赤かったのは泣き腫れてたんだ。

「今日も泣いてたじゃないですか……」
「……いやね、これはちょっと風が強くて……」
「心配……させてください……俺にも」

ガタッ。
机を立ち、僕は千佳の手をそっと引く。
そして……ただ優しく抱きしめた。強くでもなくただただ繊細に。
戸惑う千佳は強張っていたが、解ける様に数分して僕の背中をきゅっと握った。

「千佳さんのこのお店は、無駄なんかじゃないです」
「……うん」
「千佳さんのこのお店は、辛い人の気持ちを和らいでくれるすげぇ店です」
「……ぅん……」
「千佳さんのこのお店で……千佳さんに会えて俺はすげぇ幸せです」
「……ぅうん……ぅん」

震える肩。すする鼻。やっと泣いた。
頑張りすぎなんだ。一人きりになっちゃって……ずーっと一人で居て。別れを知らない世界に居たんだなぁ……。
本来波のようにひいて押し寄せるはずだったわがままも押し殺して……そんな人を、こんなに寂しがっている人を放っておける訳ないじゃないか!!

「もっと俺に、聞かせてくれませんか?」

ぎゅっと抱きしめる僕。胸に顔をうずめる千佳。

「……何を?」
「千佳さんのことです」
「私の事?」
「……どんな事考えてるかとか……どんな花がすきとか」
「花は……パンジー……」
「すみれじゃないんですか?」
「そうともいう……」
「じゃあ……そうだなぁ。好きな本とか」
「……春樹」
「村上春樹?」
「……うん」
「いいですね……」
「拓也君、読んだことあるの?」
「……ないです」
「……バカ……」
「じゃあ……もう一個」
「なぁに?」
「物がなければ、別れは買えないと思いますか?」
「……」
「いいえ。私はそうは思いません」
「なにそれ……私の真似?」
「へへ。俺は、思ったんです。まだここに働いてまだ3週間も立たないけど、結局価値があるのは〝心〟なんすよ」
「……」
「ちょっとずつでいいですから……ちょっとずつで。話を聞いた俺は、いつだってそばに居ますから」
「やっぱり……すご過ぎるよ……拓也君……優しすぎる」

それまで胸に顔を埋めていた千佳はそっと僕から距離をおいて、取り出したハンカチで涙を拭う。

「拓也君は、死んだ弟とそういうところそっくりね!」

閉じた口で見上げるように笑ういつもの千佳だった。
いくら価値の無いものを買おうと、結局救うのは心だ。
0円で買ったものが0円以上の価値があるのと同じように、いくらでも人間は強くなれるし、それが物でであろうと無かろうと、結局伝わるのは心。

「ねぇ、ちょっと一緒に来てくれる?」

千佳に連れられて僕は公園へ行く。話にあったすみれの花の前。花は小さく蕾だけれど、見覚えのある葉っぱ。

「ここでね、おばあちゃんにあったのよ」
「そうなんだ」
「車いすでね、信じられないくらいゆっくり歩いてね」
「うんうん」

こんなに嬉しそうに自分の事を話すのは初めてだ。
今まで見ていた笑顔ではない。なんというかすごく千佳と親密になれたような気持ちになる。

そんな話をしていると、突然、背後から一人の女性が僕たちに声をかけてきた。

「あの、もしかして……」
「はい!?」

二人して声に驚き振り返る。見たことのないおばさんだ。

「もしかして、そのパンジーを植えたお嬢さんってあなた?」
「……え? えと、はい……」

正直、勝手に植えた5年前のパンジーの事で怒られるのかと思った僕等だが、よく話を聞いてみるに、それは想像もしなかった言わば奇跡であった。

「あ、ごめんなさいね。亡くなった祖母の遺言にね、その花を植えた人を見かけることがあったら渡して欲しいって言われたものがあるの。結構探したのよ? 毎日毎日」

突然の奇跡に驚く僕と千佳。
歩きながら千佳は言う。

「亡くなったんですか? あの、おばあちゃん」
「ええ……数ヶ月前にね。93歳の長寿でね」
「そうなんですか……」

それを聞いて千佳はとても寂しそうだ。千佳は静かに僕の手を握ってきたが、僕も察するように手を繋いだ。
向かう先は、そのおばあちゃんのお家。

「祖母は言っていました。出会えたら手紙と庭を見せるようにと。こちらへ」

案内されたのは、齢93の写真の飾られた仏壇。

「あの時のおばあちゃんだ……」

そう千佳は言う。二人仏壇に手を合わせる。そしてそのおばさんが千佳に渡したのは一通の手紙。
そして封を切り読む千佳。

「前略……」

前略――花の好きな娘様へ

――また出会うことを楽しみにしながらも床に伏せる毎日寂しく感じております
――拙い文章ではありますが、この手便を読んでいる時
――はたまた読まれずとも、私はもうその人生を終えていることと思います。
――老後話し相手も少なくなる寂しさの時折、ゆらり歩いた身近な散策での語らい……嬉しかったぁ
――また一人また一人と別れを知り、長生きしたおかげで先だつ別れは見慣れてしまいました
――そんな中、あなたはいいましたね……叶えたい願いってあるんですか?と
――家に戻りあらためて考えてみると不思議なもので
――できることなら……別れなく死にたいという寂しい言葉をあなたに残したこと後悔いたしました
――別れを尊うものと思う人がいるなら、私はあなたとの別れにも感謝しなければならないのだと
――それほどに。楽しかった。まるで思い出すように言葉をかわせて
――もし叶う願いがあるのなら、あなたとの思い出の……その庭をあなたの眼で見ていただけたらと
――花の好きなあなたのことです
――きっと過ぎる別れよりも刹那にも存在した〝出会い〟を素敵だったと思ってくれる事でしょう
――最後の嬉しい……出会いをありがとう

――草々。


大きく開く中庭への障子。

「す、すげぇ……」

一目見たその中庭。瞳を奪われる。僕には、すげぇと一言でしかいえない鮮やかな光景。
千佳は、溢れんばかりに泣きながらも、その庭を眺めた。
いくつ物出会いと奇跡が重なって……その庭に満開に咲き敷かれるは今も変わらず……千佳の大好きな花。
奇しくもそれが、千佳にとって始めての心繋がる別れの品となったのだ。






第3章完 ~別れよりも出会いを素敵と思える事~



 続く:第24話へ




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Comment

けいさんへ

最初の設定では、おばあちゃんは(*'-')お店にやってくる話だったんですが、急遽ノリで手紙を残すという形にしました^^想像してくれたことに感謝です。

2012.05.06 (Sun) | 小織 悠 #- | URL | 編集

No title

出逢いと別れは一体なのかな・・・
出逢ってしまったら、残るは別れ・・・

どちらにも心があることで存在するのかな。
心の出逢いと心の別れ、理屈ではなく。

おばあちゃんが幸せで良かったです。

千佳ちゃんと拓也君が近づいてきたのでしょうか。
千佳ちゃんの辛さが癒されますように。

2012.05.01 (Tue) | けい #- | URL | 編集

ありがと。コメント。

結へ>
感想ありがと。本当は、実は設定上では千佳の話になるまでに、@2~3話あります。でもちょっとこの話はおもたひので、秘蔵ということになっています。別の機会にね^^番外編みたいにね。
おばあちゃんの言葉遣いがいまいちわからなくてごめん・・・。


ゆきさんへ>
応援コメントいつもありがとございます。細かく読んでくれているみたいで、大切にされている感じがして、書いてて良かったなぁって思えました。ありがとう。残念ながら僕は繊細ではありません。人の気持ちに慣れないような自分勝手な男です。だからこそ、こういう話を書きたいと理想にむかうのかもしれません。

2011.11.30 (Wed) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

一言に、すごい

見せ方、話としての流れ、主人公のかっこよさ、千佳の可愛さ、申し分ない。 第三章、千佳ちゃんの話はとても救いようの無い深い話だけど、少しでも救いが見えていて、お店を開いた理由もわかったし、とてもせつなくて素敵だったよ。
おばあちゃんの、嬉しかったぁ。って台詞が心に響きました

2011.11.29 (Tue) | 結 麻月 #- | URL | 編集

3章としては終わりですが、ちょっと千佳の話は設定上では奥深いところがあるので、ここでは、店を始めた理由と、千佳の生い立ちのみを明かす形になっています。いつも読んでくれている人。嬉しいです。お礼コメントなど、仕事で忙しいところもありなかなかいけずごめんなさい。では失礼おば^^

2011.11.29 (Tue) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

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