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【別れの値段】20 話

第20話【恋する日記と愛され日記】





「どうぞ、こちらへお掛けになってください」


そう千佳は、言った。
俺が、口どもりながらどうぞと椅子を引く。
見た目として、30歳後半はいっているだろうか。来店した客は、思ったよりは若そうだが、母親と同じくらいの女性に感じなくもない。

「ありがとうございます」

そして、その人は丁寧に幾度か頭を下げつつ椅子に座った。
顔は幾分か今までの客とは違い晴れ晴れとして笑顔も見える。
千佳は、ほうじ茶を入れ始めたので、俺は奥の椅子に座り、近いとも遠いともいえない距離。

「拓也君、ごめんね、狭いけどそこでいい?」
「はい」

そういうと千佳は、お客の前に座る。
こうして千佳が接客をしている姿をマジマジと見学するのは初めての事だ。
座ったまま、千佳はじっと見つめている。
やがて、その客の女性が話を切り出す。

「えと、わたし、この店が何でも買ってくれる店だと聞いてきたんです」

まっすぐ千佳を見てから、軽く俺に視線をずらす。交互に目が合うとすこし話ずらそうである。

「で、何をお売りにいらっしゃったのですか?」

まるで音声通話のように淡々という千佳は機械のように感情が薄く興味が無さそうだ。
しかし、いざ、女のひとがバックから2冊のノートを取り出すと、千佳は突然に興味が沸いたように手に取る。

「これは、日記……ですか?」
「そう。私をふった人の書いた日記なの。すごく……こっちは真剣だったのに、ふられちゃった」

伊達にこんな店の店員ではない。すぐに日記を〝いいですか?〟と取り出し読み始める。
さすがの俺も、少し興味が沸いて、近づいて千佳の後ろから少し眺めた。

日記は、2冊。内容は男の人っぽい感じで箇条書きで、1日1行の言葉の日記だ。
読んでいる千佳を見つめながら、その女性は言う。

「……正直マメでいい人だけど、私とは正直あまり合う性格の人ではなかったの。女々しいっていうかね」

なんだろう……違和感。
今までの人とは違うなんていうか、何かが足りないようなそんな感じ。
俺は、思い切って聞いてみることにする。

「どうして、別れちゃったんですか?」

すると女性は、笑いながらこう答えた。

「日記にはいろいろ書いてあるけど、結局のところわたしが一方的に遊ばれて捨てられたの……あはは。もぅやんなっちゃう」
「あそばれた……ですか?」
「向こうから好きって来た行ったくせに、逃げたのよ。結局、日記だけ私に渡して、と・ん・ず・ら!」
「……は、はぁ」
「で、こういう別れの品を買い取ってくれるって聞いたから来たの。燃やすより良いでしょ」


なるほど……わかった。この違和感の正体。
たしかに乾いた笑いではあるが、ちっとも流れ込んでくるものがないのだ。
一言に気持ちが。辛いとか悲しいとかそういう気持ちが無い
自暴自棄だから? 人生を諦めた? もうどうでも良くなった笑顔?
いや……そういう異質のものではない。この女性は一言に嬉しそうなのだ。

「ぁ……あの、失礼なのですが…」

しばらく彼女からの愚痴のようなものをきいていた俺だったが、女性に聞こうとおもった瞬間、その質問を遮り、千佳が読み終えた日記を机に叩きつけ、睨み入る目で言った。

「2冊で2万で」と。

すると女性は、なお嬉しそうに、ああ良かったわ、とばかりに晴れやかな表情を見せ微笑む。

「本当に買い取っていいんですね?」

と千佳がきいた。
それに対して、女性は、嬉しそうに、〝それでお願いします〟と言った。
こんなに簡単に……。いいのだろうか……色々聞いてみたい気もするが、千佳の態度は異常だ。
千佳はスタスタとレジの金庫からお金をすぐに取り出す。俺は困惑しながらもそれを見ているだけ。

「はい。では。一冊1万円で買い取ります」
「噂はホントだったのね~1万円になるなんておもわなかったわっオバさん助かっちゃった」
「お客様関連のものは、今後〝買い取りません〟のでこちらにサインと身分証明をお願いします」
「まぁねぇ。こんなの集めてこのお店変だとはおもったけど、来てみるもんだわ」
「こちらにサインを……」
「あなたよく見るとお人形みたいで可愛い。いい子紹介してあげよか? 後ろの子ボーイフレンド?」
「……ぅ**ぇょ……」

千佳は聞こえないような言葉で何か言った気がしたがかなり小さな声である。
千佳は、圧倒的な業務姿勢でたんたんと仕事をする。免許証をコピーし。サインをスキャンする。
そして、すぐに2万円を受け取った女性は、大事そうにそのお金を抱えてそそくさと店を出て行った。
恐る恐る入ってきたときとはまったくもっての態度の変化であった。

あっという間である。出されたほうじ茶を飲み空かすどころではない。たった10分足らずの事。
彼女が出て行くと、千佳は今まで見せたことがないような態度で……。

「ぁぁ……サイ……ぁく」

と頭を抱えて持っていた2冊のノートを置く。
雰囲気と、俺も感じた違和感から、なんとなくは、わからなくもない状態が、千佳はあからさまにイライラしている。

「あの~千佳さん?」
「なに!」
「ぁ……ごめんなさい」

小さくなる俺。俺よ……草食系となるな……と自分に言い聞かせるも俺は、挫けた。
慌てて、千佳は俺に謝る。

「あああ~ごめんなさい、拓也君」

これは、事情を聞かないわけにはいかないな……と思い千佳に問う。

「いったい、どうしちゃったんですか?」
「……ごめんね。あのお客の人の顔見ていられなくなっちゃったの」

何か事情があるようだ。

「あの人の楽観さですか? それとも日記の中身ですか?」
「……両方……たまにあるの。本当にたまに」

千佳が重くそういうものだから、俺は千佳の置いたあの日記を取って中を見ることにしたんだ。


------------------------------------------


年月は大きく見出しに。曜日は特に記入されていない。毎日必ず付けられている日記でもなかった。


【5月4日、俺にとっても彼女にとってもこれが最後の恋になるとおもう。日記をつけることにした。
【5月5日、日記をつけると彼女といろんなことがしてみたいとおもうようになる。記事にしたいからだ。
【5月6日、デートをした。初めて手を結んだがすこし緊張した。 
【5月7日、こうして彼女との話を日記に残すことで年取ったときに一緒に読めたら楽しいだろうな
【・
【・

1冊は、約3年間であるらしい。重くも軽くもない。パラパラと捲るだけでも特に普通である。
いわば恋する日記で、あの女の人と男の人の事が書いてあるらしい。
2冊目に入り、イメージが一転する。


【7月8日、付き合ってはや3年と2ヶ月。僕らはこれからを考えていかなきゃいけないと思う。
【7月9日、僕は真剣に彼女と結婚を意識するようになった。付き合ってからずっと。今も変わらない。
【7月13日、思いは高ぶる一方。彼女に明日指輪を買ってプロポーズをしようときめた!
【7月15日、歳をとった二人だ。彼女にも不安はあるのだろう……プロポーズをしたが悩んだみたいだ。
【7月16日、昨日の事は気にしても居ないようなメールの返事。でも待ってみようと思う。
【・
【・
【9月16日、そういえば、まだ彼女の家に遊びに行かせてもらっていない。行ってみようかな。
【9月17日、なんとなく断られた理由がわかってきた。でもまだ信じてみようと思う。
【9月18日、思い切って本当の事を聞いてみようか悩んでいる事がある。
【・
【・
【11月1日、真実となった。彼女には……旦那がいるそうだ。
【11月2日、裏切られたような気持ちでこの先どうしたらいいかわからない。
【・
【・
【12月22日、僕を選んでくれるならそれでもいいのかもと思ってみた。思いは募る一方だ。
【12月23日、遊びだったけど今も好きだといわれた。でも、それでもいいと思う。僕の愛した女性だから
【12月24日、クリスマスは一緒に過ごせないと言う。イヴは会いたいと言うので一緒に過ごした……
【12月25日、今頃彼女は本来の幸せな家庭を過ごしているのだろう……邪魔は僕のほうか……
【・
【・
【1月19日、むなしい気持ちが重なり、彼女を求めてしまう前にこの日記をやめようと思う。
【1月20日、本来のこの日記をつける意味は、すでに無いのだから。
【1月28日、この日記を彼女に渡そうと思う。この日記を読んで彼女がなにか気づいてくれたら嬉しい。
【      僕は、君が好きだったけれど……君の本来の幸せは僕を不幸にするんだ。
【      幸せになって欲しい。この日記は、君を愛した日記。大事にしてくれると嬉しい。
【      そして、どうか二度と僕のような人を……
      

省略して読めるほどに、淡々と進む一行日記。
読み終わったのは、5分もかからない。むしろ、2冊目などは、多く読むことすらできないほど生々しく果てしない絶望のような、裏切りのような……そういうものをぶつけるだけの羅列にしか見えなくなっていた。

「ああーーー!!!もぅ!!」

読み終わったとき、千佳と同じように俺も机に頭を抱えて座る。全部わかった。千佳のイライラの理由。

「いちまんかよ~。たった、にまんかぁ……本来売るもんじゃねぇ……だろう~」

あまりに不憫すぎる日記の男性。それを思うととても2万ではかわいそうなくらいの値段であるが、それ以上にあの女の人からなんとなくでも感じたそれは間違いではなかった。
そんな僕を見て千佳はいう。

「でもまぁ、たまーにこういうのあるの。感じるものがなくて接することが怖いような別れもあるのよ……」
「もしもっすよ? この日記を……この男の人のほうが売りにきたら、千佳さんどうしてました?」
「ふふ。面白いこというのね、拓也君は」
「いえ、なんとなく思っただけですが……」
「わかんない。……わからないけど、気持ちは、わかってあげたいなぁって気がした」

なんで、あなたはこの日記を簡単に売るのですか? ってさっきの人に聞いたら、きっと『金になるなら売るわよ、こんなものもう必要ないもの。わたしには』と言葉は違うかもしれないが言うだろうか。
この男の人は、あなたにとって、もうどうでもいい存在ですか? ってさっきの人に聞いたら、なんていうだろうか……少し怖い。

6年近くも恋し愛され、日記を残し、自分の気持ちのやり場を結果作れず、囚われたあげく、その残った心のままに男はちゃんと今後歩んでいけるのだろうか。

なんで、この日記に出てくる男の人の気持ちになれないのですか……。と本当に嫌な気持ちのままだ。
買い取ったのは、千佳の男を思う不憫さゆえだろうか……。

そのあと、いろいろとひとり考えてみたが結局わからないままだった。
今日はお店を閉めましょうといって千佳は店を閉めたが、あの日記は雑に雑誌の束とともに置かれた。
恋する日記と愛され日記は、日記という本来の価値に余る高値を付け、存在しないものとなった。



続く:第21話【千佳の別れ】

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Comment

結へ>
だろうだろう。この回は俺も書こうか迷ったぐらいさ。

つねさんへ>
はじめまして。感想ありがとうございます。コメントとても嬉しかったです。文芸サークル楽しそうですね^^

ゆきさんへ>
この回がこれからどのように影響するのかが重要なところなんです^^見苦しいところもありますが読んでくれてコメントくれてありがとう。

2011.11.26 (Sat) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

作品良かったです

こんにちは。
作品を拝見させて頂きました。
とても良かったです。
これからも素敵な作品楽しみにしています。
頑張って下さい。

お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3~30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
ネットでのやりとりも楽しいですが、ぬくもりが伝わるアナログでの活動は温かい気持ちになり、楽しさや幸せをより感じられます。
イラスト・詩・漫画・小説・エッセイなどジャンルを問わず何でも掲載しています。
月刊で180ページくらい。全国に約200人の会員さんがいます。
投稿される作品は新作でなくても構いません。あなたがホームページで発表している作品を雑誌に掲載してみませんか?
東京都内で集会も行っています。お友達や創作仲間作りにご活用下さい。

興味を持たれた方には現在、雑誌代と送料とも無料で最新号をプレゼントしています。
よろしかったらホームページだけでもご覧になって下さい。
ホームページから最新号をご請求出来ます。
http://www2.tbb.t-com.ne.jp/hapine/

2011.11.25 (Fri) | つねさん #- | URL | 編集

いたたまれない;;

2011.11.24 (Thu) | 結 麻月 #wVIA9fBs | URL | 編集

見るに耐えない人も居ると思いますが、ごめんなさい。この回、すごい大事なんです。
よろしくお願いします。(ぺこぺこ)

2011.11.24 (Thu) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

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