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【読む必要のない小説】2

第2話:【それは、とても続きの読みたくなる小説】




 家に帰った男。彼女はいない一人暮らし。
 休日は、一人でいることが多い男。
 高い背もたれのあるマッサージチェアに座り、楽な姿勢をとると、例の本を読む。
 題名もなければ、表紙に文字もない。無地のクリーム色の表紙に手になじむ質感。不思議と手に張り付くような本である。
 1ページ目を開いて読み進める男は、その本に黙々と熱中し、食事も取らず、もはや読み始めてから11時間が過ぎようとしている。すでに日が変わろうとしていることにも気づかずに男は本を読んだ。
 内容はたいした話ではない。
〝世の中わからないことばかりだ〟の前一文から始まる、伝記のような作り物の異次元世界を語る小説である。
 しかし、男はその圧倒的とも感じる世界観に釘付けとなり没頭するようにその小説を読む。
 
 やがて、朝を向かえ。
 また夜を迎える。
 一度読んだら、読み休めることもできないほどにその小説は中毒性の強いものであった。
 男は、食事をしながらも読み。仕事を放棄しながらも読み続け。疲れて寝てもなお本を手放さず、とうとう丸4日が経とうとしている。
 ようやく分厚いその本を読み終わるかというところで男は気がつく。

「この話……続くのか!?」

 男は、残り数ページのところで、一向に終わりを迎えそうにない物語を想像し、感じ取る。
 思えば、あの場所。
 あの一枚岩の洞窟には、3冊の本があった。
 
「あれが……あの2冊が続きなのか!?……ふふふ……おぉーぅぅ!」

 一冊読み終えた男の唸る声。いまだかつてこれほどの名作を読んだ事があったかと思うほどの反応。
 男は余韻を確かめるように本を閉じる。

「ふ……ふふふ……」

 男の気持ちは遥か向こう。読んだ者だけが達する欲と情緒。

――この物語の続きが読みたい!!

 内容の事などではない。いわば本の魔力が男を取り巻くようだ。
 あれほど不思議な空間に安置された奇々怪々な3冊の本。気味悪さと今の状態に普通の精神状態であれば、いろいろと考えるものでもあるが、男の心はすでに壊れている。

「この話が……もし誰も知らない話で……俺しか知らなければ……」

――俺は……確実にベスト作家だ……

 特に読み応えはない。文字の羅列は人の読める文字で、古い文献にしては文構は、現代文。
 金儲けよりも、感じる鼓動が男の背を押す。神の存在を信じるのであれば、男にそれを授けたとも言えるほど、男はその本に満たされたのである。
 欲は制御できるものではない。続きが読みたいという溢々とした気持ちは率直で辛抱できるものではない。
 男にかかる電話。幾度となくかかる仕事場。重なる着信履歴。

「はい……もしもし……」
『おぃ! お前!! 無断欠勤、5日だっ! そんなやつは社には必要ない! このままだとクビだっ!』 
「ええ……」
『は? クビだぞっ! ぉぃ…ブツッ』

 ぶつりと切った電話は、ベットをすべり布団の下へ。
 男にとって、たった一冊の本がどれだけの心境の変化をもたらしたのか。男には、まったくというほど会社からのクビ宣告は響くことはない。
 男はそのまま、ふらふらと玄関へ。風呂も入らず一見不審者の薄着と浮腫んだ顔。
 本を持ち、歩くのは、もちろんあの一枚岩である。
 あの一枚岩の入り口まで来ると息も切れるほどに体力は男から失せている。
 飲まず食わずでは無いにしても、丸5日も本を読み続ければ衰弱したとしても不思議はない。
 されど、男は続きの本を取りに行くのである。

「はぁ……はぁ……着いた……続きはどっちかなっと」

 片手に一冊の本を持ち、本が置かれていた場所を見る。

「!! 嘘だろっ!?」

 眠気まなこも一気に開き冷める状況。
 あの日。あの雨の日。
 間違いなくそこに置かれていたはずの残り2冊の本は……どういう訳か、そこには無い。



 
続く:第3話:【それは、最後まで読まないと死ぬ小説】

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Comment

No title

なんでだぁ。なんで本がないのでしょう・・・

読みたいよね。
仕事クビになっても良いくらいに夢中になって読んだのに、続きがぁー・・・

この人の心をガシッととらえたこの本には、どんなお話が綴られているのでしょうか。
チラ見できますか?

2012.05.09 (Wed) | けい #- | URL | 編集

牡蠣さんへ。

ほんとすんませんです。
色々手を出しちゃいまして><;
思いついたらかかなきゃとおもいまして、設定ぺらぺらめくりながらやっております。
牡蠣さんもベネチアに? すげぇいいですよね!!
水の都だけあります^^仮面舞踏会の最中にもう一回行ってみたいなぁ。続きかいていきます。最近忙しそうですが、無理されずに。風邪も引かかれないようにどうぞ^^

2011.11.24 (Thu) | 小織 悠 #wVIA9fBs | URL | 編集

こんにちは、ご無沙汰しておりました。
余談ですが、ベネチア行かれてたのですね。私も2年ほど前に行きました。建物と運河が、すっごく素敵ですよね。

さて、この話も読ませていただきました。
面白い小説に出逢うと、寝る間も惜しんで続きを読んじゃうことありますねー。
男はこれからどうなるのか…楽しみです。

2011.11.22 (Tue) | 牡蠣ひろみ #- | URL | 編集

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