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短編小説:【読む必要のない小説】

題:【読む必要のない小説】 作:小織 悠




第1話:【それは、闇を降りてある小説】




 人の通らない山道にそびえる一枚岩。見た目として、山に潜むただの大きな石の塊である。
 その大きさ計り知れず、誰にも知られずに閉じ、潜む扉を隠すように土苔と蔦が周囲を這う。
 何度かその扉は開かれることがあったが、古く江戸時代の慣わし。かつて祭られたであろう神儀の面影すら今は残ってはいない。楔は錆落ちて平成の世。隠された地下への入り口の扉はもう開かれる事は無いとも思えたが、150年の時を隔て再度その扉を開くのは、やはり奇しくも人なのである。
 
 雨仕切る夕刻の事。
 傘を差した男が山道に車を停め、一人車を整備している。

「ったく……なんだってこんな日にエンストなんか……」

 熱く蒸気を発する車機をゴム手袋とスパナだけで治そうとしている素人の男一人。
 山道を通る雨川が小さくもいくつも流れて雨をいっそう強く感じさせる。
 独り言も強まる一方、男は車を治す事はできない。

「だぁー! もぅだめだ! ざけんなっ!」 

 男は勢い良く車のタイヤを蹴り飛ばす。そこまで大きな山ではないが、ここは通る車は極めて少ない。
 会社からの帰り道、混み通る道を避けて、普段は通らないこの山道を通ったのが運の尽き。
 家は近いが、車はどうしようもない状態である。
 雨の降らない日であれば、ある程度、犬を連れた夕散歩を楽しむ人間がいて助けてもらえるかもしれないし、近くには、小さな小学校もあるので、もうすこし時間が早ければ少しは人目につく事もあるだろう。加えてこんな日に限って携帯は充電切れ。すべてに置いてタイミング悪くついていない状態のこの男。
  
「最悪……」

 諦めて社内に入ろうとするが、手に持っていたスパナが手をすべり山の茂へと落ちる。かすかに見えるスパナを男は、なんとか枝を手に取ろうとするが、こんな雨の日である。滑る足元に崩れる路肩。一瞬にして山霞へと男は滑り落ちるのだった。

「いってぇ……」

 やり場のない怒り。泥だらけのスーツ。とことんついていない男である。しかし、運よくも止まった一枚岩の上。おかげにより勢いで崖下へ落ちる事は無く、自然に陥れられつつも山波によって命が救われる。
 男は、なんとか山道に出なければと歩ける場所を見つけながらその岩を伝い、ゆっくりと下っていく。滑る岩肌に気をつけながらもなんとか一枚岩の下まで降りることができた。先ほど手に持っていた傘は骨を折り雨しかしのげない。
 これを一つの不幸とみるか。
 はたまた、一つの導きとみるか。
 まことに判断しづらい男の運命であるが、紛れもなくこの男は、何かの運命により約150年の時を経て、その扉を開けるべく今、その場に立っている訳である。

「それにしてもでかい岩だなぁ……」

 男は降りてきたその石を確かめるようにペチペチと叩き、見上げる。するとどうだろう。男が感じる違和感。

「なんだ?……あれ?……」

 触る岩肌に残るそれは、一枚岩ではおかしい人の手の加えられた跡。
 男は、引き手のような凹みを掴み押し開ける。さほど大きな力は加えてはいなかったが、その扉は軽く開くのだった。岩の境界線にある泥が裂け隙間が浮く。開いてみるや、奥深くまで続く不気味なの空洞。入り口から光を得るも、続く階段はある程度奥まで見えるが先は闇。

「なんだ……ここ……怖ぇー」

 小さな声も響き渡る洞窟内。雨のせいでもあるがとても中は黴臭い。

「昔の防空壕かなんかか……?」

 すると意外に度胸のある男。外を激しく降る雨を避け洞窟に入るや、持っていた傘を入り口の扉に置き階段を下りる。歩む足に乾く石粉と埃がまとわりつき一歩一歩に文字通りの重みが付く。
 さすがの男も光が途中で途切れるのを感じると入り口の方を見直し戻ろうと考えるがまだまだ下へ続く先に興味も持つ。

「わー!!!!」

 恐怖をごまかす様に、一人大きな声を出して見るが、自分の声は反響するばかりでそれに対する反応はない。
 むしろ人の気配のないことに不安を感じていくのだ。
 ゆっくり日が褪せるのは一瞬、逃げるように入り口へ光が消えてなくなると自分の居る場所がわからなくなるほどに暗くなった。
 するとどうだろう。入り口よりも遥か階段の下の方がぼんやり明るいのがわかる。
 暗くなると、明るい方に行くのは、蟲も人も同じだ。 

「まさか、このまま地獄に続いてたりしねぇよな……」 

 男は少しづつ広くなる階段を下りていく。まったくこの男の好奇心はとても勇敢なことである。
 階段の幅は美しいほどに一定である。まず足を踏み外す事はない単調な階段。
 やがて、男は、広い空間へとたどり着く。そこは、見る限りなにもない。
 しかし、明らかに見覚えのある形、光景。
 それは、図書館だ。
 本は一切置かれていないものの綺麗に岩をくり貫いて作ったような一定で並ぶ石棚はそれを感じさせる。
 真四角の空間は思った以上に広く高い。
 光り苔が辺りを照らすように生えてなんとも言えないこの明るさを生み出しているようだ。一言に美しい幻想的な場所である。男は、隅々見てまわるが、棚には、一冊の本もなくそれ以外の気になる点も無い。
 しかし、空間の一番奥。たどり着いたその先には、静かに佇む様に3冊の本が安置されていた。

「なんだ……この本」

 本は、怪しくも3冊のみ。石でつくられた凹みに綺麗に置かれた本。
 題名もなければ、表紙に文字もない。指三本分の厚みがあるほどに分厚い本である。 
 不思議と魅力のある本だ。埃や石粉を微塵もつけてはいない美しさである。
 本を取り開くも、さすがにその場の乏しい光りでは文字を読むことまではできない。男はその本をすべて取ろうとするが、一冊を取ると、他の2冊は貼りついたように手に取ることができない。本をもとのように3冊戻すと、どれか1冊をだけとることができるようだ。

「どうなってんだ? こりゃ」

 仕方がないので、男は、むかって左側の本だけを手に持ち、階段を上がる。階段をあがり、外へ出ると先ほどまでの土砂降りの雨は、嘘だったかのように止んでいて、空には綺麗な星空が輝いていた。
 そこから山の下の道路までの山道は、作られているように安全で、無事に山を降りることができた。
 秘密基地を探し当てたような童心の様な嬉しさから男は、興味本位で持ち帰った本を抱え家へ帰る。
 帰宅した男は、相当疲れていたのか、持ち帰った本を机に置いたまま、シャワーを浴び終わると本を読む事無く深く寝入るのであった。
 翌日にレッカー車を呼び、山道に置いて行った車を運び修理を依頼する。
 横目に過ぎる山中のあの一枚岩を見つめながら男はレッカー車の助手席で独り言。

「家に帰ったらあの本、見てみるかな……」

 本は、男の部屋の机の上で読まれることをただ待つ。



続く:第2話:【それは、とても続きの読みたくなる小説】

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Comment

けいさんへ

この話は、ミステリーではあるんですが、なんというかワクワクというか、この後どうなるんだろうか。見たいなところをうまく書いていけたらいいなとおもって挑戦しようと思いました。
ちょっと読みづらいところもあると思いますので、一種の暇つぶしとして流し見していただけたらとおもいます><(照

2012.05.06 (Sun) | 小織 悠 #- | URL | 編集

No title

別れの小説を読破してから来ましたよ^^
きっとお導きです(←関係ない)

なんだか歴史を感じさせますが、どうなんでしょう。
このタイミングの悪そうな彼は、実はタイミング良くここに招かれたのでは?

持ち帰られた本の内容が気になる~

2012.05.05 (Sat) | けい #- | URL | 編集

別れの小説と同時進行で作成します(ペコリ)
こちらの小説は、そこまで長くありません。

2011.11.21 (Mon) | 小織 悠 #- | URL | 編集

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