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【二十六夜のチャニの月】

――猫は、いつも人を見ている

共存してなお、猫はおそらく人間よりも『人』というものを知っているのかもしれない。
これは、不思議な恋の物語。

大事なことを忘れたあなたのもとに
二十六夜の三日月が照らす光明の道を渡り、不思議な猫が訪れる。



題:にゃお【二十六夜のチャニの月】 作:小織 悠


――死ぬほど猫が好きなんです

『なんで猫が好きなのですか?』
「うーん……可愛いじゃないですか」

『好きな猫の種類とかは?』
「うーん……よくわかりません。でも大好きです」

しなやかな体のライン。やわらかくてふわふわの毛。背骨の柔軟性……長い尻尾に可愛い耳と髭。そしてなにより柔らかな肉球とキレイなビー玉の様な瞳。
すべてがいとおしく感じて、私はいつも大好きな猫と共に居たいと思うのです。

無類の猫好きはクラス中に広まり、もぅ高校2年生。
桐原リコという名前は、桐原ネコと変わり猫好きがとうとうあだ名まで反映される。
それでも毎日が幸せな日々には思いませんでした。

はっきり言って毎日が地獄そのものに感じます。
その理由は簡単。
私は叶いそうもないほどに尊く切ない片思いをしているのです。

初恋というのでしょう。
私が唯一猫以外に本気で愛した人間は高校2年でクラス変えで一緒のクラスになった男子生徒。
そもそも、名前がめずらしい『橘時雨(たちばなししぐれ)』
本校の生徒会長にして2年時点で剣道部主将。
何より入学して2度行なわれた定期試験ではどれも大差で校内一位。
付け加え容姿端麗。でも彼は人嫌いのようだった。
最初はそれがクールな感じで嫌な感じ。
話しかけるのすら嫌な感じの人で、言動も冷たく感じて大嫌いだったの。

3時限目の古文の授業中。先生がおとなしいことを良いことに騒ぐ男子の面々

「なあ、あそこ、中庭に居るの猫じゃないか?」

一人の男子が窓際から外を指差し私に遠くから大きい声で声をかける。

「おい、桐原! 外に猫居るぞ」
「え! うそ! どこ?」

即座に私はその猫を机に体を乗り出して見るようとしました。

「ほんとに好きなんだな。猫」
「うるさいな、可愛いんだからしょうがないでしょ!」

ドッと教室は軽い笑いに包まれる
すると後ろに座っていたあの男が私にどつりと言ったのです。

「ぉぃ……黒板見えねぇよ。うざいんだよ、お前、座れよ」
「あ……ごめんねっ。橘君」

内心、お前の方がうざいよ。と思いながらも私は席に座りなおす。
その橘 時雨の一言で騒がしかったクラスは当然静まり返す。
かっこいいと小さな声で言う女子も居たが、
それ以上に 周りの男子の小さな話し声が聞こえて洩れる。

『流石ですねぇ、違いますねぇ』
『やっぱ秀才は勉強しか興味ないんだろ』
『マジ、うぜぇ』

……私にも聞こえるんだから……橘君にも聞こえてるよね。
他の人がいう悪口って言うのは、身勝手ながらいい気分じゃない。
それでも後ろに感じる彼はまっすぐと黒板を見つめ、それを大した事無いかのようにノートを取り続けるのでした。

私は昼休みさっきの猫を探しました。
だって凄く見たかったんだもん。
売店で買った牛乳とミルクパンを持って中庭に向かいます。

中庭に向かうと、そこにはまだ猫は居て、人懐っこい猫だったので私は近づきました。
頭擦り寄る猫。私は小さくしゃがみ頭をなでます。

「もー! 可愛いなぁ。畜生ー!」

猫に持ってきた牛乳とパンをあげよう袋を上げ差し出す私。
しかし、猫は匂いを嗅ぐばかりで食べることはしませんでした。

「ぅー。どうしたのかな~お腹いっぱいなのかな~」
「おい」

突然に背後から声がして心臓が飛び出そうなくらいびっくりしました。
彼が居たんです。そう、橘時雨です。

彼はびっくりして黙ったままの私のパンと牛乳を取り、猫を地面のやわらかい芝生へつれていった。
彼は私をにらみ言いいました。

「桐原」

私はまた文句を言われると確信し、少し彼を睨み返しては見るものの、二人で居る状況も怖く感じた。

「なによ。またなんか文句?」

彼は私の顔を見てキョトンとしたが、猫のほうを振り向きなおし話を続けた。

「猫にはさ、人間が飲む牛乳をそのまま与えてはいけないんだ。脂肪分が多いから病気になりやすいんだよ。でも猫はカルシウムを多く含んだものを乳製品を好むからついついあげたくなるんだよな」

彼は凄く優しい声とその私にはない深い知識を話すのだった。

「生水をあまり好まないから、牛乳を3倍の水で薄めてあげたりする」

彼は給湯室でもらってきたであろうちょっと温かい水を牛乳にそそぐ。
片手の器に注いだ薄いミルク。先ほどとうって変わって猫は恐るべき速さでそれを飲み終えたのです。

「でさ、パンはね、猫にとっては歯ごたえのなさ過ぎるし大きいものだから……」

彼はパンを手のひらで薄く固くつぶす。
見た目は円盤のように平べったくなり少し硬さを持ったミルクパンを少しずつちぎって食べさせた。
そして彼は女の私から見てもうらやましいほどきれいな顔で微笑むのでした。

「なっ」と。

私は真っ赤になってたたずみ。
その日の午後は、ずっと机の後ろの彼が気になってしょうがありませんでした。
思い出す彼の思いがけない笑顔……ドキドキしちゃって……

『やっぱ、天才は勉強しか興味ないんだろ』

さっきの男子の言葉が頭をよぎる。
橘君は……そんなこと無いよ。みんな知らないんだよ。

これが恋だと気がついたのはそれから一週間、毎日彼のことが気になって仕方が無かったからなんです。
あの日から、彼はまったくもって口数が少ない。
話しかけてもシカトで、何を聞いても相手に去れず、私と話したあのときが本当に幻のようだった気がして……。

――あ~。もう! どうしたらいいの

まさに毎日が生き地獄。
きっと私をただの猫好きのバカで変なやつだと思ってるよね……。

そういえば、あの猫どうしてるのかな。
もう一ヶ月も経つし、きっともうあそこには居ないよね。
そんな猫の事をごまかし考えながらも思うことは橘君だけ。
いっそのことずっと橘君と一緒に暮らして居たいよ。

いま、学校ではインフルエンザが流行っています。
学級閉鎖のクラスとかもあるなか
私も見事にその一人としてインフルエンザで部屋で一人寝ていました。

コレって、知恵熱じゃないのかな、と思う。
学校に行きたいよ。橘君に会いたいよ。
体調は相変わらず悪く、体のだるさは言うまでもない現象。
ベットの上から窓を開き、蒼白い光が綺麗な三日月夜のことです。
私にとんでもない事件がおきました。

しなやかな体のライン。やわらかくてふわふわの毛。背骨の柔軟性……長い尻尾に可愛い耳と髭。そしてなにより柔らかな肉球とキレイなビー玉の様な瞳。
気が付くと私は猫になっていました。

――どうしよう……私おもいっきり猫だよ……

夢だよね。うん、そうに決まってる。
私は人間だもん。
夜中に起きた私は軽くなった体を起こしその異変に気がついて立ち鏡の前。
あわてて私は立って歩こうとします。
引きづるようにしか歩けないのか、なんだか歩きづらい。

――何これ……手と足が張り付いてるみたい

しかし、片手ずつなら動けるのです。

――ひゃー。4速歩行ってこんなのなんだ

片足を前に後ろ足を前に。
こうすれば、両手はなせることも発見した。 私は両足を踏ん張って前に飛ぼうとします。
すると自然と両手が浮き上がり、勢いよく前に進みます。

――すごい軽い

それは4つ足で立ったときに気が付きました。
自分の体で無いくらい身軽で、予想以上に疲れる事が無いのです。
だんだんそれは、楽しくなってきます。猫になれる体験なんて死んでもできないと思っていたから。
やがて、足音が聞こえ母が私の具合を見に来ました。

――やばい! どうしよう……

母は部屋ドアをリズムよく叩くと部屋の中に入ります。
すかさずベットの下へすべりこみ予想以上の埃にむせ返りそうになるが必死で耐えて隠れる。
母は私の布団を見て私の想像と同じようにびっくりしています。

「まあ、嘘! あの子居ないの? どこ行ったのよあんな体調で」

すると母は不機嫌そうに立ち上がり部屋を出ました。
ちょっとそれだけ?
もっと気にしてよ!!可愛い子供が突然消えたんだからさ!

「にゃ~」

思わず私は声を出してしまいました。
一度出た母は、部屋の中響いた声を聞き、再度部屋へ入るとベットの下を見る

「あら……猫?」

私に気がついた母は、私をベットの下から引きずり出し、抱きかかえると部屋を出て、台所へ。

「はい。猫ちゃん。お食べ」

するとすぐに母は私の前に鮭ご飯と牛乳をおきました。
母は私の頭をなでながらつぶやきます。

「それにしてもあの子……いくら猫が好きだからって何も部屋で黙って飼ったりて……まったく」

いや……私もまさか猫になるとは思わなかったよ……。
それに私猫が食べるものなんて……。
でも、おなかが空いていたのは事実で、いつもよりおいしそうな匂いがして、私は鮭ご飯を食べたのです。

――何これ……超おいしい!

私はいまだかつてこんなにおいしい鮭ご飯を食べたことがありませんでした。
――私、味覚も猫なんだ

私がそんなささやかな関心を抱いているなか、母は牛乳を勧めます。
私は牛乳を飲もうとしたとき、あの言葉を思い出します。
それは橘君が言っていたことでした。

『猫にはね、人間が飲む牛乳をそのまま与えてはいけないんだ』

そうだ。好ましくないんだっけ……。
私はそのことを思い出し牛乳を拒みました。
母は心配そうに私を見ていました。

「あれ……牛乳飲まないの?」

母は不思議そうに頭を傾げながらも、私の食べ終わったご飯(餌)を片付けた。
私はちょっと食べ過ぎたので、そのままカーペットの上で寝転んだ。

「ちょっと洗濯物干して来るわね」

――どうしよう。たぶん夢じゃないのかもしれない

確かに(人間のときは)猫になりたいって思ったこともあった。
でも今私はその願いが叶ったことに正直戸惑いを感じている。


毛並みを整えたたずんでいると居間の窓から音がします。
細かく何かがこすれる音です。
私は耳を傾け様子を見に行くのでした。

なんだろう。
カタカタって音がする。

音の正体は見た瞬間すぐ理解できました。
正体は首元に三日月のマークを持った凛々しいしなやかな猫でした。
ガラス越しに私たちは目を合わせる。
そしてその猫は私のほうに髭を立てた。

「聞こえる?」

頭に直接訴えかける声だ。
私はこくりとなれない頭を下げる。

「知らないのは当然だよね。僕たち猫はこうしてテレパシーが使えるんだ。僕の名前は“チャニ”」
『きれいな……猫だなぁ……』
「君を猫にした張本人だ」」

――え!?

「月が二十六夜で輝き、望むそれは、君を猫に変えた。戻るのは30日後。もう一度月が戻る夜まで」

え、嘘! 戻れるの?
何で私猫になったの?
聞きたいことはたくさんあってでも私にはテレパシーなんてできないから……。

「やってみて。髭を3回なでて言葉を飛ばすんだ」

心を見透かすようなチャニは私にそう言いました。
そして私は……チャニに言われた通りにやってみたんです。

私はそれから外に出てチャニと話しました。
いろいろ話を聞きました。
ちょっと暖かい日が心地よくて縁側に横になりながら話しました。
実は猫の泣き声は、言葉ではなく争いや不満などの第一感情をただ声にあらわした、いわば威嚇。
そんな猫のマニュアルみたいなことを聞かされたあと、チャニは一番気になる事を話し出しました。

「君は一ヶ月間、ただ猫で居るだけ。特にどうしろってことは無い。のんびりしてるだけでも良いだろう」
「何で私を猫に変えたの?」

この当然の質問をかけます。
チャニは言わば猫の王。
もっとも力のある、最も偉い猫だそうです。
そんな彼が私を猫に変えるなんて何かあるとしか思えませんでした。

「理由は簡単だ。正直言うと僕は猫の生活に疲れていてね。少し休息をとりたいんだ。でも、僕は王だから、必要とされてしまう。だから隠れる場所を探していたんだ……で考えた。人間になって隠れるのが一番気づかれないんじゃないかって。だから君が猫で居る間の一ヶ月の間だけ、僕を人間の君で居させてほしい。運良く君は人間が最も長期で発病するウイルスに犯されているだろう? そう簡単には治らないし、治っても僕が日常影響無い生活を送るさ。普段は外に出ることも無く君のプライバシーに影響は与えることは無いだろう。私にはちょうどいいのさ」

……長い説明だ。でもなんとなくわかった。
念を押すようにチャニは私に話し続けます。

「これといって何をするわけでもない。君に成りすますだけ。猫で居る間、家のことは気にしないでいい。君は猫のままで自由にしてもらってかまわない。僕が人間の君でいたいだけだから。……ごめん。でも僕にとってもこんなチャンスは二度と無かったんだ。君が一番条件にぴったしで、僕と一番相性がよかったから」

大体の理由。
チャニは猫の王ということに疲れていた……なぜ隠れる必要があるのかまでは立ち入って聞く必要は無いだろう。

「もう取り返しつかないんでしょ? ならいいよ、別に」

正直、猫になれたこと。嬉しかったのかもしれない。
こうして私はチャニの願いを聞き、一ヶ月、次の二十六夜の月の夜まで猫になることに承諾したのでした。
それから2日経って、ようやくこの不思議な環境にも慣れが来て、私の体が勝手に動いているのも見られるようになった。
それにしても暇だなぁ。
出かけようかな……。

「チャニ! 私、出かけてくるね」

私は、私の人間の姿をし、布団の中で寝ているチャニに報告をして窓を開けてもらい2階の窓から外に出ます。
ちょっと慣れると動きやすいものです。
ほら、簡単に2階からひょいひょいとね。
私はいつも通る学校への道を歩きます。
でもこうしてみると人間だったころの視点ってだいぶ高いんだな。
なんか、バカでかい壁に囲まれて嫌な感じ……。
私がそうして学校への道を歩いていると、だんだん雲行きが怪しく変わります。

――なんかじめじめする。やたら鼻がうずくし、どうしたんだろう

次第に小降りの雨となり私はあわててバス停のベンチの下へ雨宿りするのでした。
うわ、最悪……どうしよう。マジ勘弁して。

しばらくして体のしずくが肌へ伝わりちょっと寒くなってきました。
尻尾が周りの寒さを感じさせます。
尻尾を抱えうずくまっていると一人の男の子が私を持ち上げました。

――え……ちょ、ちょっと!! 何!?

私はその子に抱えられバス停から連れ去られます。
私の目には黄色い小学生用の傘の内側、少年の下顔しか見えません。

「猫捕まえた!」

子供が私を持ち直し、お母さんであろう人に見せました。

「ねぇ。この子飼っていい?」
「何言ってるのよ。面倒見れないでしょ?」

私を飼う……?
ちょっと待ってよ。そんなの嫌よ。
私は傷つけない程度爪を出し少年を引っかきました。
少年は大変痛がりましたが私を放そうとしません。
これ以上やったら多分痛いよね。
ま、隙を見て逃げればいいか考え大人しくなる。

少年は大人しくなった私の首根っこを持ち上げる。
じたばたうごく私をよそに、少年のお母さんは私を見ていった。

「それにしてもずいぶんきれいな猫ね。飼い猫が逃げたのかしら。よし! いいわよ。元の飼い主が見つかるまでだからね」
「やった! やったね。えっとね名前はね、ショコラ!」

かくしてどうやら、私の名前はショコラという、限りなく甘そうな名前となったのでした。

私はその少年の家に連れて行かれました。
少年の家は建てられたばかりのきれいなガラス張りのお家でした。
外には小さくも丁寧に手入れのされた庭花壇が広がって、家の中は心地良いほどにちょうどいい温度が保たれていました。

「ショコラ、ここが新しいお前のお家だぞ~」

少年は家に着くといきなりお風呂です。少年に体を洗われ体中水びだしです。後ろ髪を全部前にもっていかれたような嫌悪感を感じます。私はおもいっきり体の水を震いました。
それから、放って置いてほしいのに少年に抱きかかえられたり、無理やり連れて行かれたりと行ったりきたり。
正直……疲れました。
そしてそろそろこの家から帰ろうと考えたとき、家に少年の家族であろう人が帰ってきたのです。

「兄ちゃんだ!」

少年は私を抱え上げ、その人の元に向かいます。
私がそれを運命だとおもったのは思いがけない偶然が生んだ神様のとっておきの優しさなのでしょう。

なんと私が連れてこられたのは、橘 時雨のお家だったのです。

「ただいま……ん? 慎、なんだそれ……」
「すごいの! ショコラはトイレもトイレで出来るんだよー」
「飼い猫だったんだろ……?」

橘君だ! 心のそこから神様に感謝をする私。
すでに私から逃げるという無益にして理由無き選択はなくなっていた。
少年は橘 慎(シン)というらしい。
私はすぐさま橘君の足に擦寄り、かまってもらおうとします。

――私だよ。桐原!! 会いたかったよ

そんな私を橘君は無造作に軽く退け奥へと入る。
夕飯時もリビングでテレビを見てるときも私は立花君の傍に行きました。

「……」

橘君はさっきからずっと黙ったままテレビを見てる。
私はこんなに近くに居るんだよ?
橘君のお母さんが近寄り、話しかけます。

「なによ、慎より全然時雨になついてるじゃないの」

お母さんは不機嫌そうにする慎君を見ながら微笑んでいます。
私はここぞとばかりに橘君に引っ付きます。
しばらくして橘君は私をリビングの机の上に置き、部屋を出ました。

――あれ? どこ行っちゃうの?

私は急いで追いかけますがその橘君の向かった部屋の扉は冷たく閉ざされたのでした。
ドアを見上げると誰の部屋か一目瞭然でわかります。
可愛い黒猫のプレートに英語でSIGUREとかかれていたのです。

橘君の部屋……中から最近のインディーズ洋楽の音が聞こえます。

ああ……。
このいつもなら薄いと感じる四角い木材質の壁が今日ほど圧いと感じたことはありません。
私が今卑怯なのはわかっています。
好きだからしょうがないと勝手な理由を掲げているのかも知れません。
でもきっとこの壁を解き放つのはすごくすごく重いのです。
難しいことなのです。


有明の月が残る朝。
私はリビングで寝ていました。
わかったことがある。
不思議……猫って寝ていても耳が聞こえるんだ。
そういえば爆睡している猫なんて見たこと無いもんね。
聞こえるから危険を察知できる……なるほどなるほど。
2階から起きてきて誰かがリビングに来る音がする。

――早いな。まだ朝6時だよ……だれだろう

私は気になって起き上がり近づきます。
私はびっくりして思わず声を上げてしまいました。

「にゃぁ」

朝早く起きてきたのは橘君でした。
んあ! 橘君の寝起き姿! はぅ……。
人間だったら私は顔を真っ赤にして逃げ去ることだろう。

どうやら私に気が付いてるようです。

「……」

黙ってじっと私を見つめてます。
なんとなく恥ずかしくなってきました。
そして橘君は私にはじめて話しかけるのでした。

「おはよ。……桐原」

――えー!!

……っとあれ?
私は今猫だよね?
私はふと横のキッチンにあるガラスドアに映った自分の姿を見ました。
その姿はまぎれも無く最近見慣れていた猫の姿。

――でも……な、なんで?

私は橘君を再び見ます。

「悪い。君にはちゃんと名前があったね。ショコラ」

橘君はおそらく私のであろう猫のご飯を作りながら、おそらく独り言であろう話を続けました。

「いやはや、俺のクラスに桐原リコ、って言う猫好きのやつが居て、つい思い出した。インフルエンザになって今学校に居ないやつなんだけどね……」

まだ私の体は、家で寝ているようだ。もうすぐ2週間だというのに。
でも、橘君はひょっとして私のこと気にしてくれてるのかな?
言ってくれれば良いのにと自分で照れ崩れる私。

「だから、最近静かに授業が受けれて嬉しいんだけどね」

――がーん。やっぱりか! 私って実は印象に残るくらいうざい女ってことすか!

私はガクンと頭を落とし、ちょっと悲しくなります。
でも朝にしては、やたらと悲しそうな表情を彼は浮かべてこう言った。

「でもさ……早く帰ってこねぇかな。あいつ……」

背筋が凍りつきました。
私って……本当に卑怯者だ。こうやって……私ストーカーみたい。

橘君は今私を気にしてくれている。
私は嘘ついてるみたいで、心が痛いです。

「君は綺麗だね」

橘君は私の背を優しくなでてくれました。
なんでこんなに優しい人なのにいつも……いつでもつっぱってて、笑顔を見せなくて、無口で無愛想。なんでだろう。私よりぜんぜん橘君の心のほうが綺麗なのに。

「一緒に風呂入るか?」

え!?
いや……それは、嫌……嫌じゃないけど。
どうやら橘君は朝お風呂に入るようです。
私がその場を立ち逃げようとしたとき。

「捕まえた」

私はそのお風呂の間、橘君に身を任せたままずっと目を瞑っていました。
それからあっという間に半月が経ちました。
静かな小望月の夜です。

「明日は満月だね」

本当にあっという間でした。
よくも長く本来、一週間程度で治るインフルエンザを半月も引き伸ばしたものだ。
私の体が太っていない事を心から望む。
私は今意外に広いベランダの真ん中で橘君の膝の上に居ます。

「なあ、お前は俺が好きか?」

――好きです……

「ずっと、ここにいるか?」

――居たいです

「じゃあプレゼントだ」

私にくれたのは小さな赤い鈴のついたピンクの首輪でした。

「友達の証」

あの私を気にしているのかという言葉の本意は見えていません。
ただ、たまにクラスの人やまだ休んでいる私の事、そういうことを不意に言葉に出して、彼は本心を語るのです。
私はこのプレゼントも一緒に居れることもすごくすごく嬉しかった。
そしてこの日初めて、橘君は私を部屋に入れてくれました。
私は性懲りも無く喜びます。

その夜私は橘君に抱えられたまま布団に入りました。
直線のレトロな白い蛍光灯がけされ、暗闇の中橘君は私を優しく包んでくれました。
寝る間際でしょうか。
この感覚は前にも覚えがあるような。そういう不可思議な空気。

「……俺さ、友達一人も居ないんだ。俺口下手だから……だからお前が俺の家族であり、一番の友達……」

そのまま橘君は静かな寝息を立てて寝てしまいました。
部屋の壁や机にはたくさんのクラスのみんなの写真が貼ってありました。
誰よりも人付き合いが苦手で不器用な彼をいっそういとおしくおもうのでした。
その日の夜の月明かりが私のわずかな涙をいつよりも目立たせました。
静かな夜の中、ドアを叩く音がします。
カタカタとリズムよく叩く音。聞き覚えのある音。
私は一人窓へと歩きます。
そこに居たのは猫の姿のチャニでした。

「こんなところに居たのか! 状況が変わったんだよ!」
「ん? どうしたの?」
「期限は明日で終わりだ!」

え……嘘でしょ?
明日は満月じゃないの?

「どういうこと?」
「非常に運が悪い。よりによって明日は幻月の夜なんだ」
「幻月って何!」

日本には光やそのときの空気、水気の光屈折すべての条件が合わさったとき、月が3つ現れるらしいのです。

「で、その中の一つが……」
「二十六夜の月」
「そういうことだから。本当にありがとう。約束とはだいぶ違うが、明日の夜、君は元に戻る!」

私は急にあせりました。
私は明日ここを居なくなるのです。
せっかく……私が友達になってあげれたのに。
その日、私はそのままベットに戻らず窓の前で静かに眠りました。

私が猫で居られる最後の日。
私は橘君が学校から帰るの待たずに家を出ました。
日中あまり、別れを考えないように意識する。

「ほんとだ。ほんとに3つある。きれい……」
「いいのか?」
「うん……仕方ないんでしょ?」

やがて夜が来て、空に輝く3つの月。
世間もその珍しさから外に出る家族もちらほら。
猫である私がもうすぐ終わろうとしていました。
チャニは、私の隣にすわると寂しくも一言残し姿を消した。

「ありがとう。魔法を解いたら元にもどるから。じゃあばいばい」
「うん……」

こうして、私は猫から人間の姿に戻ったのです。
終わったんだ……橘君きっと悲しんでるよね。
私は家の中に戻ろうとしました。玄関のドアに扉に手をかけたときのことです。

「ショコラー!」

声が聞こえます。私の大好きな声です。
すぐにわかりました。私を探してくれてる声です。
私は急いで、サンダルのまま橘君の声のするほうへ走りました。

「橘君……」

私に気が付いた橘君はあわてた様子で言いました。

「なあ、このくらいの大きさでさ、赤い首輪つけてて、白と金色の毛並みの猫なんだけど知らないか? お前ならこの辺の猫知ってるかも。一緒に探してくれないか」

……私を探してくれてたの?
学校から帰って私が居ないのに気が付いてそれからずっと探してくれてたの?

「……」

橘君……なんかボロボロで……私の、私のせいだ。私が悲しませてるんだ。
……涙が止まりません。

「何で泣いてんだよ、お前。だいじょうぶか? ……もういいよ。自分で探す。大丈夫だよ」

あきれた橘君は大きくため息をし、私をおいて振りかえろうとします。
私はその橘君の上着の袖を小さくつかみ……

……知ってる。知ってるよ

「私知ってるよ!……橘君」

私は自然と話してしまいます。

「え!?」

びっくりした橘君は私を見ます。

「知ってるよ! ほんの半月だったけど……ほんとに短い時間だったけど、別れも言えなかったんだけど……私橘君のいいところ知ってるょ……私は橘君の……初めての友達だから」

橘君は私の事をびっくりしたように見つめています。

「桐原、お前……」

私は……。

「……好きです。私はいつでもいつまでもあなたの“ここ”に居たいです」

しずかにしなやかに。
私は橘君の胸に寄り添う。

いつもより多くの月が私たちを照らし続ける明るい夜の事。
私のポッケに引っかかっていた一つの首輪が落ちるのでした。

橘君は何も言わずにただ表情を隠し落ちた首輪を拾い
ついた砂を払う

「あの、これ……」

私がたまらず戸惑っていると、橘君は私の手をただ握り
首輪を静かに私に持たせると

「これは証だろ……俺とお前との証……」

あの時最初見たあの大好きな優しい笑顔で彼はそう言った。

好きだから好き。
ではなくて……誰でも弱いところがあるから。
わかってあげる人が居れば人はいくらでも強くなるから。
本当に人をわかってもらえれるのは人だけだから。
今、自分の声で好きといえたことを誇りにおもいます。

二十六夜の三日月がいつもより綺麗に輝く夜。
あなたのところにも猫の国の王が来るかもしれません。

でもそれはまた……違うお話。

終わり。
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