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【別れの値段】21 話

第21話【千佳の別れ】



暖かい燈の光がない。まだ昼過ぎだというのにそのまま薄暗く夜迎えてしまいそうな寒い空。
とある場所の前に一人立つ女。峰草家の墓の前である。連記された名前には千佳の父母……そして。

「私は、何をやってるんだろうね……」

手に持つ2冊の日記とオルゴール。
墓の前で心に当てて抱きしめる千佳。

「こんなの集めてバカみたい……。ねぇ……」

墓の角で揺れる花が寒そうに揺れて一人思いつめる。
千佳は高校に入った頃、家族を亡くした。死の別れは切実で尊い。悔いある死の別れから打ち勝てるのは自分自身の前向きな気持ち。自分が幸せになることだということも千佳は理解していた。

「あの店……やる意味あるのかな……時々怖くなるの……とっても怖くなるの」

千佳はしゃがんで泣いていた。
双羽のカラスが鳴いて、色に包まれるような風が千佳の頭を慰めるように撫でた。

僕が、店に顔を出したのはあの日から3日後の2時過ぎ。
正確には、何度か来たのだが千佳とは行き会うことがなくすぐに帰った。
あの2冊の日記は、見当たらず、きっと千佳がどこかへやったことは容易に想像がついた。
素敵と思ったこの店の仕事。僕は……理想を追いかけすぎていたのだろうか。

「千佳さん……今日も来ないのかな」

図書館と裏庭。いつでも居ると言った千佳の姿は無い。
僕は千佳に会いたいと思うようになっっている。

カランカラン。
響くドアに僕は慌てて電気をつける。

「いらっしゃいませ」

声に出して愛想でその人を出迎えるが、それは千佳だった。

「拓也くん、居たんだ」

千佳は手に持っていた日記と小さい箱を入り口近くに置く。
あの小箱は見覚えがあった。前に一度聞いたオルゴールである。僕がいい曲ですねと言うと、千佳は、私は嫌いだなってつぶやいたオルゴールだ。

「お、俺もさっき来たところで」
「よかった。じゃ一緒にお茶しましょ……外はすごく寒くって」
「今日は特に冷えますよね」

会えると嬉しいのは俺だけかな。
二人で机で千佳が作ったチーズケーキを食べてゆっくり慣れない紅茶を飲んだ。
二人きりなのになんともいえない切ない気持ちになる空間。千佳の表情。
その表情をマジマジと見つめると気がつく。千佳の瞼が少し赤く晴れているのだ。肌の白い千佳は時々瞳をこするがごまかせるものではない。それが心配になる。

「千佳さん……何かありました?」
「え? ……ないよ」

この人は、本当に自分を語らない。付き合いが長い短い関係ないのだ。この峰草千佳という人は人の無力感を知りながらも、たった一人で強がろうとするんだ。

「あの……俺は千佳さんより2歳も下だし……役に立たないかもしれないけど」
「拓也君……」
「傷ついている人はわかりますよ……ましてそれが気になっている人なら、なおさらです。」

一つ間違えれば告白のようなものだ。でも千佳は僕をそういう目で見ては居ないのはなんとなくわかる。
差し出がましいのだろうか。僕がこんなことを言うのは。

「拓也君はやっぱりすごい……すごい人を雇っちゃったな」
「そんなことないっすよ……」
「もし……私に別れの品があるとしたら……もしあるとしたら、それはお金だけ」
「え?」
「全部無くなっちゃったから……全部燃えて…家族も思い出も本も全部。今の私には値段をつけるものがないの」
「……」
「お金はそのまま価値になっちゃうもの……」

千佳が取り出したのは記事。新聞記事である。
幸せな家庭に起きた放火の事件。家族4人の内3人の焼死。奇跡的に生きた女性の姿無い家屋全焼の生々しい写真。

「これ、千佳さんの……ですか?」
「ぅん」
「ひどい……放火……」
「……ぅん……私の過去は、私の大切なものは、残らず全部消えてしまった」

4年前の記事が幾度となく晒され薄汚れて、力を入れて触れたら砕けてしまう、枯れた葉っぱのような記事。

「繕っても、幾らやり直せるほどのお金があっても……神様は過去を取り戻してはくれないの……」



第22話【この店を始めた理由】
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