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【別れの値段】19

第19話【人が死ぬニュースを聞かない日が、けして無いように】




普段は、人の事にあまり興味がない癖に人の事を知りたがる。
ニュースを眺めて、他人事だと思いつつも共感したり、涙誘う企画を上辺で聞き流したりする。
母がテレビのニュースを見ながら言う。

「一日でいいから、まったく人が殺されない日があってもいいのにね」

まったくその通りだ。
ニュースから配信される言葉に、『今日は一人も死人の出ない1日でした』と、いう言葉が出ることはない。
人が死に、別れがあるとしたらその分、出会いもあるなんて、善ったうたい文句でしかない。
一歩外に出たら、いつ殺されるか、死ぬかわからない世界で僕らは日々、運命に委ねて生きているのだ。
僕が居なくなったときに悲しんでくれる人は多く居るのだろうかと思うのもまた当然の事。

次の日、早く起きた僕は、久しぶりに走ろうと、身軽なジャージに着替える。
早朝に走るのは、そんなに珍しいことじゃない。
一月の終わりの頃、この寒い頃のジョギングは、日課といわないまでも好きなことの一つだ。
白い息を立てて小声に吠える散歩中の犬や、響く車のタイヤのうねる音を解けるように自然に感じながら、途中の公園で、休憩をしたりして、座ったベンチの冷たさを直に感じる。
冬は好きだ。すごく寒いけど、なんとなく暖かさをいつもより強く感じられる気がするから冬は好きだ。

ゆっくり走り出す。いつもとは違う光景は、やはり目立つ。
商店街の前を駆け抜けようとしたときに、早朝にも関わらず人だかりがあるのを見つける。
やじうまの集団。気になるので、僕も仲間入り。

「なんかあったんですか?」

僕が隣に居たおじさんに聞くと、おじさんはこう言った。

「ホームレスだよ。ホームレスの人が亡くなってたらしくてさ、ついさっき救急車で運ばれたんだ」
「ホームレス……」
「特に昨日の夜は寒かっただろう? さすがになぁ……」

いつも朝刊を買うホームレスのおじさんだったので、新聞屋のお兄さんが見つけて救急車を呼んだらしい。
路地に重なるブルーシートを指差しながら、聞こえる声で話し合う人。

「あの、ダンボールの家、片付けるのだれがやるんだって話だよな」
「まぁ、そのうち誰か捨てるだろうよ」

死を迷惑と言うばかりにいう商店街のおじさん達。
首にかかるタオルを持って見つめるだけの僕。ニュースにならないかもしれない人まであっけなく死ぬ世の中。
家に帰り、テレビを見る。早朝に流れるニュースを見ても、それは放送されないが、人が死ぬニュースはある。

『昨日の晩、東京都渋谷区某所にて刺殺事件がおこり……』

毎日……毎日人が殺される。
人が死ぬニュースを聞かない日が、けして無いように、けして別れのない日もないのだ……。


午前11時を過ぎた頃、僕は店へと出かけた。
店の窓は、白く曇り、ゆがむポスターのうしろからたまった雫が落ちる。
暖かそうな店内。千佳は、もう店に居るみたいだ。

「おはようございます!」

そう言って店に入る僕を、嬉しそうに笑って迎えてくれる。

「待ってたの! ささ、こっち座って座って」

千佳は、拱きながらイスを立てていつものように、ココアを入れる。
すぐに甘いカカオの香りが店に広がって、あったかい気持ちになる。

「今日ね、12時にお客さんが来るのよ」
「あ、そうなんですか」
「その人の話、二人で一緒に聞いてあげようか」
「え? 一緒にですか?」

一緒に聞くなんて事は初めての事。いつもは繕うかのように二人きりで、お客と接していたので、ちょっと恥ずかしさを感じる。

「そういえば、予約って……電話とかであるんですか? この店」
「うーん、難しいところね」

――なんだ難しいって……。まったく意味がわからん

「電話とかそういう感じじゃなくてね~。なんていったらいいかなぁ。もちろん電話での予約もあるんだけどね」
「来るのがわかる……場合もあるとか? っすか」
「あはっ。そんな感じ!」

――す、すげぇ……

超能力とかそういうものだろうか。前々から感じてはいたことなので違和感はない。科学的に証明できない何かなのだろう。それとも、立ち並ぶ経験からわかるものだろうか。
将棋や囲碁の棋士が、対戦相手が来るのをオーラで感じ取れるのと同じようなものなのか。

「ところで、この店って、いつからやってるんですか?」
「もうすぐ5年かな」
「結構、長いですね」
「だね」

5年か……。見渡す限りの飾られた品、並ぶ別れの品。それは単純に数えても、7000~8000は存在する。
毎日お客が一人来てもここまでは増えない量だ。

「5年前って千佳さんも高校くらいじゃないっすか。高校生からずっとこの店経営してるんですか?」
「……」

その質問に千佳は答えなかった。ちょっと質問の仕方が悪かったのかも知れない。静かに察して僕は口を閉じた。
千佳はスッとたちあがり奥へといくと、大きな重箱を持ってくる。

「見てみて。これ。あのね、お昼作ってきたの。一緒に食べよっ」
「ぉぉ。マジッすか! いいんですか!」

さっきの無言を、ごまかすように照れながら重箱を開ける千佳。
さっきの無言を引きずるように上目線で千佳の顔をうかがう僕。
扱い方のわからない動物を恐る恐る撫でる時のような感覚に似ているそれは少し怖い。
重箱をあけると、すごい手の込んだ料理。

「いいんですか?」

唾を飲み込むように見つめる僕を、楽しそうな表情で千佳は見る

「どうぞどうぞ。拓也君のために作ったの」
「うわ~。超うれしいです」
「わたしも一緒に食べるけどねっ!」

惚れてしまいそうになる。こんなことされたら、男は、誰だって好きになってしまう。
無意識にする優しさがこれなら、俺はその優しさの辛さに焦がれて死ぬかもしれない。
でも、一人違う世界で閉じこもるような千佳。どうしても近づけないこの人の奥の世界を垣間見ると、またどうしようもない〝無謀〟に希望は閉ざされるのである。
今までに感じたことの無い、なんとも比喩しづらい自分の気持ちだ。

「おいしい?」
「すげぇうまいです!」
「えへ。時間かけてよかったなぁ~」

あっというまに、それを食べて、二人でほうじ茶を飲み、まったりする。
3人分はあるだろう量を二人で食べ、満腹感はすさまじい。

「拓也君ってたくさん食べるのね」
「千佳さんが作ってくれたものなら、いくらでも入りますよ! マジ美味いし」
「あははっ。また作ってあげるね」

幸せな二人の時間。
そして僕にとって幸せな時間が終わる。
12時を少し過ぎたところ。千佳の言ったとおり店の駐車場に一台の車が止まり、お客らしい人がやってくる。
入りづらそうに店のドアの前でふらふらと。
その影を見つめる僕ら二人。

「俺、話しかけてきましょうか?」
「だめ。待つの」

千佳に言われその迷う影を見守る。
自分の車に戻ったり、やっぱり店のドアノブを握ったり。
千佳は、その光景を頑張れ!と言うような眼で見つめている。
やがて決めたのか、その影はドアノブを掴み、ドアを開く。

カラ~~~ンカラン。

「あのぅ……」

おそるおそる覗き込むように言う客に、僕と千佳は、ずれるようにいらっしゃいませと言った。






続く:第20話【恋する日記と愛され日記】


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