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小説【別れの値段】18 3章~

章の始まりから一話ごと読めるようにあらすじを入れています。読んだ方は堂々飛ばしてください。
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【1章 あらすじ】―不思議な思い出に値段をつける店―

主人公である僕は最愛の女性と辛い別れをする。
ぽっかりと心があいてしまった僕は、ただ、一日を無駄に過ごし時間を早める毎日。
彼女の記憶・関係が忘れられずにただ強がっているのだ。
ところが、ふといつものようにドライブをして時間をつぶしていると、珍しく通ったわき道に
見慣れない看板の雑貨屋を見つける。
気になる店員の女性と、その店の不思議な業務に興味を抱き幾度と足を運ぶ。
どうやら、この店は思い出のある雑貨を買取る専門店のようである。
突然に再度立ち寄る僕は、いきなり店の留守番を頼まれるが、その時絶対こないだろうと思った客が
来店する。来店した女性が指輪を売りに来たらしい。
ただ泣いて崩れるその女性の話を親身に聞いて自分のことさながらに真剣に彼女に答える僕。
話終わりなにかを気づかされたような、そんな満たされた感情の中、女性もまた店を後にした。
して、戻ってきた店員である千佳は、事情を話した僕に何かを感じたのか
僕は、唐突なアルバイトの誘いをされたのである。

【2章 あらすじ】―初めて値段をつけた僕―

アルバイトを始めて関わる、娘を想う父と父を想う娘のすれ違う親子の愛。
伝わらない環境と思い。二人を引き裂く溝……それは愛する母の事故死。
別れに初めて値段をつける拓也は、無力さを感じながらも、導きは本音を知り、思い出に値段をつける事をする。
それは、幾銭でもなく無価値の値段であった。父と娘の結びつきに別れはない。そう思ったからである。
勇気は儚くも言葉から。一つの言葉からだと拓也は強く思う。
自らの家庭でも一人浮いていた存在だった拓也は、自分からの寄る一言の大切さに気づかされたのである。
別れは、一瞬。そう感じたときかもしれない。でも、優しい気持ちに終る愛はない。
店に思い出の一品が飾られる……たたずむそれは、いつか二人が笑顔で向き合える未来を静かに待つ。

第3章へ 続きます。
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【第3章】18話 【峰草千佳とボクの今在る日常】




日々の移りを感じさせるように、ただ静かにその光を毎朝僕にくれる。
母が僕を起こしたのは、昼過ぎだ。飲み開けていないスターバックスのコーヒーを起きてすぐ飲むと苦く感じた。
彼女と別れて、さほど日は経っていないのに気のせいか思い出が遠のくようだ。
あれほど感じた無力感や、一途な思いはどこへ溶け込んだのか。気持ちが良いくらいの脱力に、僕は一人、ふと口を緩めた。人は、変わる。一心とか劣情を背負いきっと目に見えないスピードで1日1日変わっていくのだろう。

「千佳さん、居るだろうか」

僕はつぶやきながら車に乗る。
エンジンをかけようとしたが、すこし思い直して車を降りて歩いて店へと出かけた。
店までは、歩くと近いようで少し体が冷える遠い距離だった。
店の前まで来ると、看板が立っている。

看板に小さく英語で【separation】離脱する。という意味だ。
通り過ぎるように看板を避けて店の中に入る。

「こんにちは……」

ぼつりと挨拶をして店内に入ると、千佳は接客をしていた。
慌てて、店を出ようとする僕に、きっと気がつかないだろうというくらいに、少し見た千佳の表情は真剣そのものだった。
僕は、それから店の外の駐車場の停止め石の上で自販機で買ったコーヒーを飲みながら少し待った。
理解したのか、空気を読んだのか少し自己満足に浸りながら、想像して白い息を吐いて待った。

20分くらいたった頃。
店から一緒に話していただろう女の人が歩いて出て行った。それを目で追うように僕は見届けた。
なんか、もう……わかる。
売りに来た人だろう。余韻佇む千佳を感じて、僕はそれからまた少し、時間をあけて店へ入った。

「こんにちわ」
「あ、拓也君。いらっしゃい」

やっぱりさっき店に入ったことは気づいていなかったようで、すこしホッとする。
ちらっと机を見ると、置いてあるのは、一枚の写真だった。

「写真……ですか?」

僕がそう聞くと、千佳は隠さずに写真を大事そうに持ち、棚に置いて言った。

「さっきお客さんが来てね、買いとったの」
「そうですか」
「ふふ。気になる?」
「い、いえ…そういうのは……その、デリケートなことっすから」

少し気になるのは、他人事だからか、この仕事に毒されたか。
千佳は、すこし動揺する僕をみて笑いながら言う。

「あのね、これ置いていった女の子、整形したんだって」
「整形……ですか」
「昔の自分との別れってやつだね」

そんな別れもあるのかと少し驚く。

「なんでもありっすね、そういうのちょっと俺も話聞いてみたい気もします」
「うふふ。そうね」

けして、くだらなくは無いはずだ。背景にどういう話があってとかそういう事は僕にはわからない話だ。
言葉にならない思いと決断もまた然り。それは伝わってきた。

「私も、整形しようかなって思っちゃった~」
「え!? 千佳さんは、今のままでも可愛いですっ!」

なんだか勢いで発した言葉に自分で照れた。それを見て千佳は無邪気に僕の反応で遊ぶのだ。
僕は話を変えたくて昨日のサンドイッチの話をした。

「千佳さん、ごちそうさまでした。サンドイッチ」
「いえいえ」
「めちゃくちゃ美味かったです!」
「あはっ! めちゃくちゃだったの?」
「あ……ちがっ、えっと、めちゃめちゃ?」

言い直しても不正解。我ながらに疑問視される言葉遣いであるが、伝わっているだろう。
ストーブに向き合って、僕と千佳は笑い合う。
そして、千佳は思い出したかのようにウサギの人形を指差して言った。

「あのウサギの人形」
「ぁ……日誌にも書いたんですけど、その……0円で買い取りました」
「すごく素敵……」

多く聞かないのは、千佳らしいといえばそうだ。見透かした眼で悟る。
話に詰まる沈黙の中、僕は千佳に聞く。

「あの、この店の名前ってセパレーションいうんですか?」
「え? 違うよ」
「ええぇ!? 違うんすかっ! ずっとそうだとばっかり……」
「うーん。やっぱわかりづらいのかなぁ」
「えーっと。なんていう店なんですか」
「〝ザ・あったかハウス 千佳ちゃんのお店!〟」
「…………へ、へぇ……」

千佳のその明らかに嘘を付いている笑顔は、見慣れた。
思いっきり死んだ目で流す僕に、冗談冗談と仰い手で言い直す千佳を見て、二人苦笑する。

「この店は、〝P&P〟って言うの。看板に書いてあったでしょ? Price partingの略よ」

改めて見てみた看板には、たしかにP&Pのマークが描かれていた。
ものすごいわかりづらい表記である。ロゴ調である上、見づらい。
どっかの食器洗い洗剤のメーカーかと思うような名前の付け方だ。
Price partingとは日本語でそのまま。別れの価値という意味であるが、店の名前をちゃんと認識できている一見さんはまず居るはずがない。
目立つ文字のセパレーションというのは、唯の謳い文句だったようで、僕と同じ勘違いをたくさん生むはずだ。
そもそも、なんで、千佳はこの店を始めたのだろうか。
興味からか、それとも同じような境遇からか。聞いてみたいなと思った。

「じゃ、じゃあ、千佳さんは、どうしてこの店を始めたんですか?」
「私より辛い人を見たいから……」

話の流れで適当に聞いてみた。それに千佳は、あっけなく簡単に答えた。
あまりにサラッと言うもので、本来あるはずのその台詞の闇に気がつくまで時間が要った。

「ぁ……ぇ!? え、えっと……」
「……あはっ。嘘よ」

また千佳は、こうやっていつもみたいに冗談で誤魔化すのだ。
一瞬真剣になった表情を見逃す訳ないのに……この人はすごく暖かい人だけど、すごく可愛らしい人だけど。
一人抱える深い深い〝何か〟を持っているような気がした。
それ以上しつこく聞かないのは、僕も少し今を大事に思う部分があるからだろう。
気になることはたくさんある。
千佳、個人に関しても、店の事も様々だ。好きな人はいるのか? とか。付き合っている人は? 店の財源は? 実はお嬢様? 実は魔法がつかえたりするのか? とか、そういうバカげている事まで。それを一度聞き出すと止まらない気がした。これは、恋なのか憧れなのか、ただの興味か。自分自身に聞きたい事すらわからず居る今。
二人の時間は、長く狭い。
いつか僕と千佳にも訪れるのだろうか、浅い別れか深い別れか、そういう未来があるのだろうか。断ち切れない鎖に迷う僕に、いろんな想いは心に潜み居るが、それを一つ一つ紐解くことを僕はさほど焦ってはいない。
まだ、知り合ったばかりなのだから。この人の笑顔で癒されているのは本当だから。

「ところで、拓也君」
「はい!」
「寒かったでしょ。ずっと外で待たせて。ごめんね」
「……!!」

――やっぱり気づかれていたのかぁー!!

それからちょっと身体を暖めなおして。軽い会話で心も温まった頃に。

「じゃ、俺、今日は会いに来ただけなんで、帰ります。明日は午前中から来ますんで……」
「うん。待ってるね」

名残惜しそうに千佳は手を振る。歩いてかえる僕は、再び寒さに耐えながら家に帰った。
寒さ綻ぶ夕日を背にして。




続く 第19話【人が死ぬニュースを聞かない日が、けして無いように】
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