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【別れの値段】17

第17話【……本当に変わらないから、嫌なの】


娘は父のため。父は娘のため。二人は亡き母のため。
大きくも違う想いがそこにはあった。

――なんでパパはこんなに私に優しいの?

ヤクザの組長がだらしが無いじゃない……。
高校に上がり、私に彼氏ができたとき、これだと思った。
彼氏のことは好きだったけれど、私の親の仕事を知ったとたんに距離が開いた。
でも、そんな事どうでもいい話なの。
私は、父の仕事を誇りだとは思ってはいない。けれど、パパは。働いているパパは大好きだった。

「絵里さん、信じてくださいよ!俺らじゃないんす」
「知ってるわ。あなた達はそんなことしないもの」

彼氏がチンピラに脅されて別れたなんて私がついた嘘。

「篤朗……ごめんね」
「いえ……どうか信じてやってください」

この人たちは、私なんかよりもずっとずっと父を思っていて、私なんかよりも本当の子供みたいに、父よりも近くて……。お節介すぎる所なんて見てて可愛いとすら思ってしまう。
この時。父と別れるのは、この理由しかないって思った。
父が仕事に出かけると、私は10年ぶりにママの仏壇に座った。

「ねぇ……ママ。私高校卒業したらね……家を出ようと思うの」

ママの声が聞こえないのは、私がここに座るのをためらって10年もたってしまったからだろうか。

「だから……ママ……パパが私を忘れたらさ……パパを解放してあげてね……」

私は、ママに線香を立てて、そっと自分の部屋に戻る。
パパは、まだ若いの。第2の人生がある。幸せになって欲しい。
それは、きっともう居ないママではできないことなの。
だから……ママ……パパを解放してあげてください。

私が高校を卒業して、就職をする。
就職祝いにと、私は、一人暮らしを提案した。
説得するのはなぜか、とても簡単で、パパはすぐにいいよ。と言った。

「お前が、この家に居たくないのは知っているよ。アパートを借りようか」
「ありがと」
「いつでも、辛かったら帰っておいで」

一人暮らしを始めて、私に大切な人ができた。
全部、わかってくれたひと。家の事も。パパの事もすべて話した。
その人との結婚が決まって、人生がまた変わった。
結婚式を終えた今でも、彼はパパに挨拶をするべきだと言うが、私はけしてその話を続けなかった。
事情を全部理解していて彼は、沈黙。知らないふりに付き合ってくれている。

「駄目だ! 結婚式に親父さんは呼ぶべきだ!」
「ふざけないで! パパをこれ以上不幸にさせないで!!」
「わかった……でもさ……お前……間違ってるぞ」

間違っていることなんてわかってる。でも私には、パパを幸せにできないもの……。

父がいないときに、荷物を取りに実家に戻ったとき。
どうしても、このウサギの人形だけは捨てれなくて。でも持って行くこともできなくて。
それだけを置いて家をでた。

別れのきっかけになるとおもった。一番大事にしていたものを置いていけば私もパパを忘れることができるから。
父から電話が来る。なんだか疲れたような声をしてた。

「絵里……式だけは、あげなさい。俺は出席しないから」

どうしたらいいかわからなくて、電話を持つ手が……震えた。
時期は過ぎ結婚式当日。つい、先日の事。
私の座る新婦の横に空白の2席。
もういないママと。いるのにいないパパ。

「本当にいいのか? 絵里」

彼は、私のウェディング姿を褒める前にそれを聞いた。
彼は、理解して式を進めた。
ここで、パパが駆けつけてくれたらいいのになんて思ったりもしたけれど。
そんなことは、私の知っている信念の強いパパではありえない事だわ。
式はやっぱりやってよかったとおもう。たくさんの人が祝ってくれたし、幸せだった。
心機一転生きていこうって言う気持ちに私をさせた。
でも……無事に終わったと思った式で、贈りものの籠には、このウサギの人形があった。

「この人形は、もうあったら駄目なの!……駄目なのに」
「絵里……これから親父さんのとこ行くか?」
「もうわからなくなってきちゃったよぅー」

彼がウサギを抱いて泣く私を見て慰め、包み込んで抱き寄せた。
幸せから現実に戻された私は、不安定になった。
それから実家の前まで行って、ウサギを門に置いて逃げちゃおうかなとも思った。
でも駄目で。わかんなくなっちゃって……。
もちろん、今更パパに合うなんてできるはずもなくて……。

このウサギの居場所がどうしてもわからなくなっちゃって……。


----------------------------------------


「それで、ここに売りに来たんです……」


絵里はそれで、話を閉じた。
話は、断片的できっとはじめて聞いた人だとよくわからない。
でも、僕は両方聞いたから。両方の話がすべてつながって、より繊細で窮屈で、聞いていられないほどの辛さをこの人から受けとった。

「別れの値段……」
「ぇ?」

僕は、話を聞いてそれまで持っていたこの人へのやり場のない怒りは、消えていた。

「値段をつけました」
「はぃ……」

ウサギの値札は無い。メーカー名も廃れるほどに切れていて、疲れてしまった目をしている。

「この人形は、0円で引き取ります」
「0円……ですか」

彼女はウサギの人形を見つめて言った。

「値段つかないんですね。そりゃ……そうですよね……」
「この人形、たぶんもう、役目終わってるんですよ」
「え?」

僕が言った言葉に彼女はびくりとした。

「あなたをこの店に必死でつれてきたんだなぁ。このウサギは。この人形はこの店で大事にとっておきます」
「……」
「あなたのお父さんは、すごく良い親父だ。羨ましいくらいです」
「……はぃ」

思い出深く、彼女の、はいを聞いて僕はわかった。
迷い続けているのだ。この娘さんも。
終わりじゃなかった。あのまま終わりじゃなかったんだ。嬉しさが閉じる口の中に広がって、言葉が出る。

「俺、わかるんです……焦らなくて大丈夫」
「……」
「あなたは、きっと自分からお父さんに会いたいと思う日が来ます」
「……ぁ……」
「その時、お父さんは、いつもと同じように、あなたに〝おかえり〟と言うでしょう」

なんだ……難しく考えることなんて無かったんだ。
立派に親と娘なんじゃないか……。

「そしたら〝ただいま〟って言えば大丈夫。それだけで伝わる」
「……」
「焦らないで、ゆっくりでいいですから」
「……」
「ただいまって言いたい時まで、ゆっくり考えればいいと思います」
「……」
「親父さんはあなたが離れても……この世から居なくなったとしてもあなたを愛していると思います」
「……」
「間違いなんかじゃない。これは想い合う別れだから……」

彼女は大きく声に出して泣いた。
僕は、彼女の差し出す0円を大事に受け取り、ウサギの人形をやさしく列に並べた。
彼女は、泣きながらも頭を下げて、店を出ていく。

正解など無いのだ。終焉のない二人の不幸は、至極単純に幸せに変わる。
それは、些細な言葉ひとつ言う勇気。
ただいまに、おかえりと言い。
ごめんねとありがとうを言う。
この美しい言葉の掛け合いだけで済むのだと思う。

一瞬の勇気で始まる幸せの結末があるように、ここにウサギの人形があることで、いつでも運命は変えれるのだと救われる。二人に一筋の光明が差すのは僕だけが確信した未来だろう。
持ち主を選べない人形は、価値を無くし、過去の幸せを持つウサギの気持ちだけ宿り、役目を終えたかのように静かにその瞳を閉じたのだった。

それから、僕は暗くなるまで店にいたが、千佳は戻らなかった。しっかりと片付けをして店を閉めて、家に帰った。
業務日誌には細かく使ったものなど連ねたが、ウサギの事は多く書かなかった。

家に帰ると、母の暖かいご飯が作られている。
いつものように、僕は一人で部屋にご飯を持っていこうとすると、父が居るのに気がついた。
父も兄もいつもより早く帰宅したのか、兄も2階に居るようだ。

「父さん……ただいま」
「拓也か……おかえり」

いつもは「ぁぁ」や「ぉぅ」それだけなのに……不思議だ。嫌な気がしない。
お膳を持ちリビングを出ようとしたとき父に呼び止められる。

「拓也……たまには、みんなで一緒に下で飯を食うか?」

と続けて父は言った。滅多に無い言葉の羅列に戸惑う。気まぐれでだろう。でも、いつもは響かないその言葉を大事に僕は。

「うん……兄さんも呼んで来るよ」

と初めて、兄の部屋のドアを叩く。
言葉は大事だ。受ける側、話す側。とても言葉は大事だ。
すれ違った心をまた繋ぎ返すのもまた言葉なのだと思う。





第2章終わり【父と娘の終わらない家族の絆】


~第3章へ続く
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