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【別れの値段】15

第15話【なにもできなかった答えは】



続く愛を信じますか?
一度終わったと思った愛が未来へ続く場合もまた間違いなく運命であり必然なのだと思うのです。
それはこの親子にも言えることなのかもしれません。
もうすぐまた寒い冬が来て、家族の暖かさを感じること自体が近い幸せだったりするのです。


僕が店に戻ると、千佳が帰ってきていました。

「あ、すみません、帰ってたんだ」
「帰ってたんだじゃないわっ!」

僕にいきなり千佳は怒鳴る。当然だ。店を開けっ放しにするのは店を仮にも任された人間のすることではない。

「すごく心配したの……」

イスの引かれていない机に千佳の行動が想像できる。僕を心配して、うろうろと落ち着かず歩いていたのだろう。
まして、予約でヤクザの訪問を知っているのだろうから、なお更なのだろう。

「ほんとすみません」
「外出するなら鍵を閉めて、置き手紙くらいして!」
「はい!」

怒られているのに、少し嬉しいのは人の温かみに触れているからかな。すこし千佳の怒りも落ち着いて、また千佳に僕はあたたかいココアを入れてもらって席に座った。
15分くらいの沈黙が続いた後に、千佳はため息をついて言った。

「ふぅ……でさ、どうだったの?」

僕はその言葉を待っていたかのように間髪いれずに反応した。

「駄目でした。結局俺には、なんもできなくて」

黙ってるって事で整理がついた僕もいた。

「俺には、どうしようもないの親の愛の大きさがあって……」
「そっか……値段は、付けれたの?」
「いえ……」

千佳は、もじもじしながらティッシュを丸めながら紙縒りを作り体の暇をつぶし、言葉を選んで僕に言う。

「人の思い出には、値段は付けれないでしょう……?」
「……わかってたんですか?」
「そのくらいわかるよ。だってそれはみんな一緒だもん」
「なんで、俺なんですか……」

僕はなんでこの人にスカウトされたのだろう。思い出には値段は付けれない。そんなの僕じゃなくたって一緒だ。

「拓也君は、値段をつけるのが、いけないこと? っておもう?」
「どうなんっすかね……むずかしいです」
「私は、思わない。価値観に値段をつけるのは悪いことじゃないし、それ望んでここにお客さんはきているの」
「……」
「私はね、一度だって値段をつけなかったことは無いわ。それが仕事だからね」
「……すげぇっすね、俺にはできないかもしれないです」
「できなくていいの」
「え?」

作った紙縒りを捨て、コップのあたたかさを確かめるようにココアを持つと千佳は言った。

「真剣にその人の話を聞いて、未来を想像して何かしてあげたくて、がむしゃらになる。それができる人がどれだけ不安というなの爆弾をかかえた人を救うかわかる?」
「なんにもできなくてもですか?」
「値段をつけるために頑張っている拓也君をお客さんはちゃんと感じてくれると思うよ。ふふ」

またこの、うつむく様に幸せそうに微笑むそぶり。千佳がすごくかわいく見える。
何を思って言ったのかわからない、多くない言葉をいつもこの人は言うのだ。
でも、あの篤朗という人もあのヤクザの組長も、指輪を売りに来た女の人、俺でさえもこの店に救われた部分があったのは事実。

「組長さんは怖い人だった?」
「……まじ、ちびりそうでした……」
「あははっ。ごめんね」
「ひでぇっすよ、一言くらいどんな人が来るのか言って欲しかった」

この人は不思議な女の人だ。すべてを包み込むような女神のようなあたたかさを持っているように感じる。

「わたしねっ。自慢なんだけどね」
「はい」
「思い出を安く買うのが得意なのっ」

くだらない千佳のジョーダンに僕は、笑う。高く付けようが安くつけようが値段なんて在って無いものなのを僕はなんとなく知るのだった。でも本当に売りたいと思ってくるひとの値段をつけるとき僕はそれだけの言葉をかけられるのだろうか。また無力感を感じるのだろうか。

「拓也君」
「はい?」
「安心しちゃだめよ。終わってないの。まだ、満ちてない。あなたが聞いた別れは、まだその値段をつけてはいないの。明後日、お昼ごろ来れるかしら? 私はいないけど、店番お願いしたいの」
「え、ええ。良いですけど、お客の予約ですか?」
「いえ、予約は無いけど。なんとなくね」

その時、千佳が言った言葉の意味を僕はわからなかった。それからその日は誰もお客がくることは無く店は閉じた。
僕が家に帰ると、父がリビングでニュースを見ていた。

「ただいま、父さん」
「ああ……」

一言だけの会話に何ら発展は無い。
僕は、コップに氷とお茶をくんで、自分の部屋へ駆け上がる。普通の家庭の親との会話なんてこんなものさ。と、あれほどの他人の父親の愛情を感じた今も、自分の親にはまったく未練も愛着もありはしない。

毎日行ってはと恥ずかしさもあり、次の日、僕はお店には行かずに、大学の講義に出席。
適当な一日が終わる。
約束どおり、明後日の11時半頃だ。僕はお店へ行く。店を自分で開けるのはドキドキする。
見よう見真似で、店を開き、ストーブに火をつけてその上でお湯を沸かした。
外は、晴れてはいたが、冬のすこし震える景色。一歩間違えば雪でも降りかねない冷え込みだ。
食べてねと、書置きがあるメモを見て、サンドイッチが、冷蔵庫に入っていて千佳の優しさに一人感動する。

一人モグモグとサンドイッチを食べる僕は、買ってきた雑誌を見ながら言葉を思い出す。



――そしたらさ、その時にまたさ……ここにその指輪売りにくればいいよ

――まだ、満ちてない。あなたが聞いた別れは、まだその値段をつけてはいないの

――お前のおかげで、何か変わるような気もした。行動が起こせたからな


「あれから、あの親子どうなったんだろ……」

ボソッと僕はつぶやいた。値段をつけていないのは終わりを示していない。それは僕も深く深く認識している。
でも、所詮話を聞くだけでは、事実解決してあげることは無理なことだ。この変なバイトを引き受けたのは、自分が助けられたこの店への恩返しのつもりなのか、店主がただ可愛いからか、暇なのか。どれが理由であってもおかしいとはだれも思わないし、その心はきっと伝わる事は無い。

本当に物語は終わってなんか居なかった。
千佳がなぜ、この時間に店に来いといったのか、僕は心からその意味を知ることとなる。


カランカラン。
客だ。ドアの鈴の音も少し聞き慣れた。

「すみません……お店やってますか~?」

僕は入ってきたその客を見て、本当に驚いて、いらっしゃいませと言うのを忘れた。
見覚えのある人。あの幸せそうな姿とは少し違うが間違いなく本人。


――ォぃ……マジかよ……嘘だろ


その日、店主の居ない時間。予約も無く……外の世界はただ白く。
紙袋にあの、見覚えのあるウサギの人形を入れて……ヤクザの組長の娘が店にやってきた。




第16話【この人にだけは言ってやりたい】



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