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【別れの値段】13

第13話【最愛のパパなのに……】



親の出席の無い結婚式を挙げることに何の意味があるのか。
絵里は、最後の俺の願いを聞いてくれた。

感謝して欲しいとは微塵にも思わなかった。
父親が娘の結婚式を祝いたくないはずも無い。
ヤクザという環境が普通を取り壊してしまうように、俺もまた、自分でも知らないところで満足できない世界に常人の感覚が麻痺されてしまった。

「篤朗……いろいろ頼んで悪いな」
「組長。お嬢さんのことは……なにもできなくてすんません。でも、俺は組長を本当の親父の様に思ってます」
「ああ……皮肉なものだな」

身寄りの無い男に血の繋がりよりも深いものを感じるのは、嬉しい。それはそれは嬉しいが、気持ちに接すれば接するほどに、絵里からの愛情を求めてしまう。
これを皮肉と感じてしまうのは、俺が甘えることを知らないからだろうか。

「だいじょうぶっすよ、組長! 式までに俺が絵里さん説得しますから」
「篤朗……」
「心配しないで、待っててくださいよ!」
「篤朗……いいんだ……もう、余計な事すんな」

俺がパパでなければ、それだけで絵里は幸せなのだ。
ただ一人の娘に幸せを願うのは、父親の大事な仕事なんだよ。

娘の結婚式は淡々と準備が進んでいる。
出席者の少ない結婚式が行われるのは、近し冬の日となる事を知る。
結婚式まで3週間をきった時に、絵里からの一通の封筒が届いた。
手下の目も憚らずにすぐに手紙をあけたが、中には3行だけのメモと式の請求書が入っていた。

――私の家にある荷物は全部捨ててください
――もう家に顔を出すことはありません。
――約束どおり式をあげさせてもらいます。請求書を同封します

この冷たい文章には、篤朗でさえも悔しく嘆き、それを聞いた手下は、みんな娘の事を悪く言ったが……。
どういう気持ちなんだろうか俺は。
俺は……この手紙が少し嬉しくて大事に通帳と同じ引き出しにしまった。

娘のアルバムには私との写真だけが残されていて、不要なものと化している。
娘の子供の頃の作品には、残酷なくらいに暖かい言葉が残されている。
娘を撮り続けたビデオテープには嬉しいほどに父親の俺の姿が無くて……撮影している人の声が……俺で。
撮影しているのは父親の姿。

『絵里! あはは。あぶないぞ。そんなに走って!』
『パパ! はやくー!』
『ビデオ撮ってるんだから、走るなよ、絵里』

一つ一つのビデオを夜が明けるまでずっと俺は見ていた。順番に見ていた俺は、次に絵里が小学2年の時のビデオを取る。一度も見たことの無かった記憶の無いビデオで、それを俺は半分怖い気持ちで手に取ったのだ。
古いビデオテープのタイトルシールは、下手糞な子供の文字で読めない。絵里の手書きだろう。
そのビデオを再生する。
撮影したのは、俺ではない。一人の女性。この声はわかる。絵里の母だ。

『はい! 絵里ちゃん撮るよー』
『待ってー』
『ふふふ。早くそこに立って』
『おっけー』
『ほら、パパ戻ってきちゃうから早く!』

俺が居ないときに撮ったビデオだろうか。すごく微笑ましい。嬉しくて俺も知らない間に笑顔になってビデオを鑑賞している。母さんが生きてたときの絵里は、なんだかとても幸せそうだ。

『いい? じゃー絵里さん! お願いします』

すると、母の合図に絵里は作文のようなものを取り出して読んだ。

『――さいあいのパパへ 2年2組、のだえりより……』

――パパの大好きなところは、えりにやさしいところです
――そんなパパがだいすきです
――パパのカッコいいところは友達がたくさんいるところです
――そんなパパがだいすきです
――パパの笑顔は怖くてきらいです
――パパの顔はとーってもこわいです
――でも絵里にはいつもすごくやさしくみえています
――パパの身体はとてもでっかいくてカッコいい……


言葉も出ず俺は泣いた。これほど人は嬉しいと涙が出るものなのか。
小さい絵里の一つ一つの出てくる言葉が嬉しくてたまらない。
涙を拭くことも忘れて俺はその言葉に幸せを感じた。

「……うう……絵里」

何度もそう、心の中で繰り返していた。
すべて俺の宝物。手放すことなんてできない。
全部の絵里の荷物のなかで唯一捨てれるものは、あの……
あの絵里に買ってあげたウサギの人形だけだった。

思い出を買ってくれる店があると篤朗にきいて予約を入れた。なにか一つでも手放さないと心が重さに耐えられなかったのだ。結婚式が執り行われるその日に予約を入れてこの店に来たのだ。

そして今日、いま汚れたウサギの人形を紙袋に入れて
ヤクザの組長が、娘の結婚式当日に一つだけ思い出を売りに来た。




続く:第14話【父親】











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