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【別れの値段】11話

第11話【可愛いうさぎの思い出】



組長は、ウサギを静かに置くと、そのウサギについての思い出を語り始めるのだった。
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器の大きな人間になれよ。と俺の親父は言い残して死んだ。
俺が野木組8代目に就任したのはそれから9日後の26歳の誕生日の事だ。
まぁ、家柄さ、そんな大そうな話じゃねぇさ……。

若い俺には何もわからない任侠の世界であったがそれでも付いてきてくれる家族、仲間が好きだった。
俺を慕う舎弟や親父の遺言をそのままに俺を育ててくれる兄さん方。
隣組や警察、暴走族との争いは絶えなかったが、世の中に常識や人道に思いやりが必要であることを無くしてはならないと俺は親父のやり方をそのままに受け継いだのだ。
しかし、強きをくじき、弱きものを助けるのは昔の話だ。結局していることは権力の維持と立ち回れる組所の闘争である。暴力で脅し金を奪いのさばるだけがヤクザではないのだ。
あくまで、そう俺が目指したのは親父のあの、かっこいい後ろ姿だったのだ。


「8代目! おめでとうございます!」
「やめろよ、まだ俺はそんな偉くねぇよ」

組総出で俺の30の誕生日が行われた。倍の年もある老兄や母もまた俺の成長を晴れいだ。
そして6年後。最愛の12下の妻から最愛の娘が生まれる。

「組長! 女の子です」
「なんで俺より、お前のほうが情報がはえぇんだよ」
「いえ、すんません」
「篤朗。教えてくれて、ありがとな」

しかし良い時代は過ぎ、暴力権力の時代で成り上がった家名は国力によって小さくなる一方だ。
所場の肩身の狭い人間は閉じこもり、金儲けにのさばる財人が大きな顔で町を歩く。
親父が知ったら悲しむ世の中だ。ヤクザはヤクザでありながら武士である。
地権を争えない一般人に代わって同系からの攻撃を守るものだ。

「ぱぱー。これかって! うさぎさん」
「お、おぅ」

慣れない店でぬいぐるみを買い。
似合わないものを娘に買う。それは俺にとって幸せすぎるものだ。
国が作ろうとしている他人と争う事のない競争心の無い幸せそうな世の中で、ヤクザなんで仕事は傍から見れば怖いだけの弱いものから金を巻き上げるチンピラと変わらないのだろう。

「パパのかおの絵は、なに?」
「これは刺青だよ」
「すごくかっこいいー」
「あっはっは。そうかそうか」

でも、俺は……このたったひとりの娘を。この子を守るためならいくらでも泥をかぶると、恥をかきたいと。
また人間に戻れない鬼人薬に身をささげようともこの子は幸せになってほしいとそう誓ったんだ。

「組長! 嬢さん、もう高校生ですか!」
「おぅ。篤朗、お前もそろそろいい女みつけろよ」
「いや~。俺はいいんすよ。でも嬢さん、ほんとお綺麗になって……」
「篤朗……お前手を出したら殺すからな」
「ええ!? まだなんもいってねぇじゃねぇっすか」

45の俺は、門所のヤクザだ。
家業はいよいよ大変な状態である。国をあげての暴力団の撤去の活動は強まるばかり。

「篤朗……この組は、俺の代で終わりだなぁ……」
「組長! そんなこと言わないでください!」
「心配するな。お前らが居る間は維持でも続けるさ」
「く、くみちょー!!」

野木の家名はここらの地方では良くも悪くも有名だ。
物心ついた娘が、普通の家業でないことでいろんな我慢をしていることは皆から聞いて知っている。家の家業を知ったとたんに離れる友人。知ったとたんに怯える上司。
家名が邪魔をして普通の女として世間を歩めなくなる人生におそらく嫌気がさすのだ。
絵里は女である。家を継ぐことはないだろう。

それを肯定するかのように高校を卒業して、絵里は早々一人暮らし始め、OLとして百貨店で働き始める。
寂しき気持はある。だが、俺は絵里が幸せならそれでもいいと思っていた。

あるとき俺に絵里から一本の電話が届く。もう半月は顔を合わせていなかっただろうか。

「パパ、私ね、好きな人ができたの。その人と結婚する」
「おお! どんな男だ? 一度会いに来くるといい」
「……」
「どうした。絵里」
「いかないよ。彼には、うちのお父さんは忙しくて海外を飛び回る社長だって話してあるの」

痛感した。痛いほどに。
言葉もなくなるほどだった。
俺が父親で…・・・ヤクザであることがどれほど絵里を苦しめていたのかとわかった。

「顔に刺青のあるパパに合せたら、私、嫌われちゃうから」
「……そうもいかんだろう」
「うん……でも私、結婚するから」
「……式もあげないのか?」
「うん」
「パパと……縁を切るということかい?」
「……うん。少なくとも今は関係を壊したくないの……」

遠く遠く空には小さく細く飛行機雲
一生を見つめ、娘の幸せだけを願う父は一身腐乱に父の遺言を守り家を守り続けてもうすぐ50を迎える所。

「私ね、この家に生まれてきて幸せだったこと何一つとしてないから!」
「ま、まて! 絵里」

ぷつりと切れた電話に。
そんなことさせないと、娘を諭すこと一つできなかった自分自身と、絵里と同じように、この家に生んだ両親の事をこの時初めて心から憎んだ。
絵里の母が生きていたらどれだけ俺は救われたことだろう。


続く:第12話【ただ一人の娘にできること】

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