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【別れの値段】8話:その指輪に……

風が震える音がする。
現実の世界に戻されてしまうみたいだ。
店に訪れた彼女の別れ話。
僕は頷かず、また返事もしない。
真剣に聞いた……どこまでもどこまでも真剣に。

――忘れてしまいそうだ。つい一週間前の自分の別れの辛さを

彼女は、しばしば泣きつつも話を続ける。
彼女を哀れと思うのは彼女の流した涙を彼では無くて……今、僕が見ているからだろうか。

「……でも、わかるんです。彼の気持ちも」
「そうだね……」

彼女の言葉に、僕は初めて話の中であいづちを入れた。
話は、だれでも一度は抱える同じ境遇がありそうな話。
世界中のカップルを同じ篩いにかかる。
神様がみんなが愛の我慢を知るために与えている試練みたいだ。
簡単に乗り越える人も居るだろう。辛くすべて奈落へと落としてしまうひともいる。

僕はね、話を聞いて彼女の彼氏がとても羨ましく思ったんだ。
これほどになぜ人は心を傷つけたがるのか。
目を閉じるとそこに間違いなく好きな人が居るはずなのに、
なぜ、ただ居ることだけでの幸せを望まず楽へ逃げるのか。
僕には、どうしてもわからない。

「え……ぁ……ぁの」

そういって見上げた彼女は、僕を見て戸惑っている。
僕は、彼女を見つめながらに涙をこぼしたからだ。

「あっと、ごめん、なんか聞いてたらつい……」
「……」

僕は慌てて近くにあったボックスティッシュを2,3枚とり涙を拭き
箱のままに彼女にもそれを渡す。
彼女のもっていたハンカチはもう色が変わってしまっていたからだ。

「お、俺が泣く話じゃないですよね、すみません」
「いえ……」
「あーっと、えっと……なんていうかさ」

相も変わらず、うつむいている彼女は泣いた顔の赤さがわかるほどに透き通るくらいに綺麗で白い肌をしている。
いざ、それに言葉をかけようとするとひどく僕は臆病だ。
なにを言ったらいいかうまく言葉に出せない自分がすごく嫌になる。
考えなんてまとまるわけがなかったのだけど
震えもとまらないくらい何かを握り締めるように僕の手に力がこもった。

「お、俺は! やっぱり今の話聞いて、彼が羨ましい……」
「え……」
「なんていうかさ、まだ別れてねぇじゃん……」
「……」
「今日は一人がいいって言葉とかさ拒否できるっていうのはさ、じ、自分が間違いなく愛されてるって信じてる人間の言える言葉だよ!」
「……」
「まだお互いが好きなのにさ、疲れたからって……しつこいからとか……そんなので別れたつもりかって思う!」
「……」
「好きなのわかってるのになんで離れるんだよ! だっておかしいだろ」
「……」
「お、俺は!! 絶対に! 本来別れなきゃいけない理由には別れる相手の事も想う気持ちが無いとおかしいと俺はおもう! それがあるからどうしようもなくて別れを納得するんだよ!!」


――あのね、他に好きな人が居ます……
――こんな気持ちのわたしと付き合ってたらきっと辛いでしょう? 


僕の別れた彼女の言った言葉が頭の中を駆け巡った。
それは言葉になってないフォローだ。
意味をなさないというか、根拠の無い、言っている僕自身もわからない。
ただ勢いのままに言った言葉。
言葉無く彼女は僕を見つめたままだ。
いきなり怒った口調で言ったからかもしれないが、彼女はぽかんと口をあけて呆けている。

「二人ともお互いの気持ちを本心じゃわかってるのに! 好きあってるのに!!」
「……」
「なんだよ……好きあってるって……俺、変な日本語つかっちゃったし、ご、ごめん」
「……ぷ、あはは」

彼女は慌てて顔を真っ赤にした僕を見て、初めて笑った。
一気に話をして冷たく辛い緊張が溶けたのか、ほっと一息ため息をついた様だった。

「相手の為か……そうですね……あたしたち二人とも自分の為だなぁ……」
「好きなんだろ? 彼の事」
「うん……」
「待ってるって言えばいいじゃん。好きな人のためになら待てるじゃん」
「でも、もし彼が待つ私を忘れて、別の人を選んだら……」
「そしたらさ、その時にまたさ……ここにその指輪売りにくればいいよ」

何もかわらない結果だけれど、ただ思ったことを言っただけだけど
またくればいいよと言ったとき彼女は疲れた目をやっと閉じて笑うと優しい表情になった。

――その笑顔はすごく素敵なかわいらしい笑顔だった


「ありがとうございました。もうちょっとだけがんばってみます」
「なんの解決にもならなくて、ごめん」
「いえ。親身になって聞いてくれて嬉しかったです」

そういい残して、彼女は席を立ち店を出る。
最後に見せた僕へのお辞儀姿は少しまだ、重たさを感じるように見えた。

それから5分位たってだろうか。
もぅ外は、蒼み帯びた紺のような色に変わりはじめ街灯がひかり始める。
店のドアが勢いよく開き、千佳が戻ってくる。
僕は入ってきた千佳の姿を見た瞬間なんだか疲れ善がれる暇も無くなったのだ。

「留守番、ほんとごめんなさい。かなり時間かなりかかっちゃって」

まさに店に入るその姿は、獣道を歩いた小学生のようだ。
見るとクモの巣が頭に引っかかっていたり、ズボンのひざは汚れていたりと
ひどくみすぼらしさ感じる姿である。

「おかえり。なんか大変そうだったみたいだね」

僕は、笑いながら立ち上がり千佳の髪を軽く掃う。
千佳は自分でズボンのひざをパンパンと叩き汚れを取りながら話す。
僕は椅子に座り直し、ぬるくなったココアを飲みながら笑っている。

「もぅ、たいへんでしたよ。修理を約束してた古時計がすごく汚くて大掃除からですよー」
「あはは。なるほどー、だからそんなに汚れてるんだ」
「でも、時計はぴっかぴかです! えっへん!」
「それはよかった。こっちもまぁ……たいへんだったよ」
「へ?」

肩肘を立てて僕は千佳を見ながら微笑んでそう言った。
千佳は、その僕のため息混じりの言葉に感づいたのか、あたりをきょろきょろと見渡した。

「あ。なんかぽかぽか、満ちてますね!」
「へ? 満ちてる?」
「お客さんが、来たんですね」
「わかるんすか?」
「わかりますよー。そっかそっかー」

超能力でもあるのかと、驚かされた。
何が満ちているのか僕は周りを見渡すがいつもどおりの雰囲気でその意味が検討もつかない。

「売りに来たんですね?」
「うん」
「何を売りに?」
「指輪っすよ」
「で、その指輪にはどんな思い出が?」

この前と同じ調子で思い出を聞く。
千佳はわくわく目を輝かせながら僕のまえにすわり嬉しそうに話を待っている。
僕は、千佳にはさっきの別れの話の内容まで話さなかったが、どういう人が来たかだけを伝えて
僕はこういった。

「でも、その人、結局指輪は売らないってさ」

それを聞いた千佳はびっくりした表情で

「! すごい……」

と言った。
何がすごいものか、僕は、彼女が指輪を売るなんてあの話を聞いて思わなかったよ。
千佳は僕とあの彼女が話した内容をゴミ箱へ聞いているかのように
中の濡れたティッシュを見つめ何回も、うんうんと頷いた。

「うん……そっかー。で、その指輪が行き場を無くしてない事をあなたが……その人に教えてあげたんですね」

まるで空気と話をしているみたいだ。
千佳は、僕が照れるほどにまっすぐ優しく僕を見つめてそう言った。
重なる新聞紙の束が少しずれ気味にそびえたち、ひらひら角を揺らす。
僕は見つめてくる千佳に目線を合わせれず、目をそむけながら口寂しくなってしまうような甘くなったココアを一気に口の中に広げた。

売らなかった事は満たされたこと。そういう事なんだろうか。
この店はひょっとしたらすごくいい店なのかもしれないと僕はなんとなく、そう、ふと感じた。

「あの、よかったらなんですけど!」
「な、なに?」

ココアを離し机に置く僕。
千佳は、机にのりかかるように前のめりになり、まっすぐ僕を見つめて
僕が思っても居なかった一つの提案をした。

「あの! 休日だけでもいいんですが、ここでバイトしませんか?」
「はぃ?」

――それは、本当に急な突然のバイトの誘いだった



第1章:完結【好きなのに別れる理由と思い出を買うお店】

第2章へつづく


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