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【別れの値段】7話:合わない部分

――好き過ぎると、女ってね、不安になるみたい

「あのさ、もう一度リベンジで、休みだった店連れてっていいかな?」
「はいっ!ぜひ」
「じゃあ、また今度ね」
 
葦春さんは私を、家の近くの公園まで車で送ってくれた。
ウサギの手を振りその場を惜しみつつ私が歩き出してからも、葦春さんは、雪の降る中、外で私の姿が無くなるまで見守ってくれていた。家に帰ると愛犬のベルが迎えてくれた。
やっと外の寒さを実感して、ぐるんぐるんに巻きついていた緊張の縄を解き、火照った気持ちを抑えれなくて、ベルを私は抱えると

「もぅー! どうしようーベルー。葦春さんも私のこと好きかも知れないよー」
「ワン!」
「あとねあとね、大好きだよーベルー!」

普段はここまでしない主人の行動に、愛犬のベルは大変苦しい迷惑そうな様子で大きく吠えた。

――私は、彼を好きです
――本当に好きで……ほんとうにほんとうに葦春さんが大好きで
――だから絶対告白するんだ!


そして、2回目のデート
このまえ休みだったお店で約束どおり一緒に夕飯を食べに行った。
素敵な大人のお店、私もいつかこういう所でお酒が似合う女になるのかなって思うと今は背伸びしてるみたいで、恥ずかしく感じた。

好きな映画の話になって二人ともジブリの映画が好きだってことがわかって次の日曜日に映画に行く約束ができた。彼の車に乗るのはその時にはもぅきっと3回目。

「……映画の後に……告白……」
「え? なんか言った?」
「あぁぁ! いえ、なんでもないです!」

拍子に意気込みが言葉に出て焦る。私は店内のざわつきと天性の声の小ささに救われる。

そして映画の日。
やけに冷え込む一日だった。
一緒に手をつなぎたくて、少しそばを歩いた。
息が切れるのは、そのスピードのせい?
恋して体が熱いんだって私は思っていたのです。

「はぁ、はぁ……さ、寒いですねっ」
「うん、マジ今年一番寒いんじゃねーかな」
「うん……はぁ。こんな寒さの中わざわざ外歩く私たちって馬鹿ですよねっ」
「あはは! おとなしく家でコタツでもって思うよな!」

笑って白く 微笑んで赤く
震える声は寒さからか緊張からか
今の気持ちは傍目から見ればわかりやすいほどに
出てくるマークとして明確露。

この幸せは時として身体に我慢を生んでしまうし
正直なところどうなっても後悔はないとか感じて、こういう結果を生みかねないのだ。
映画が終わってしばらくして。

「なんで! 無理しただろ!」
「ごほごほ、ごめんなさいっ」
「こんなに体冷えて、熱まで……気がつかなかったよ……ごめん」
「ち、ちがっ…ごほっ」

風邪を引いていた。
せきと熱が出たのはきっと、映画が終わって昼食を食べてからだ。
うつるから今日は近くの駅から帰るって言ったけど彼はまっすぐに私の家の前まで車をつけて、
驚く母への挨拶も早々に私を部屋へ寝かせた。

さり気なく話の中で言った私の好きなブルガリアヨーグルトのブドウ味。
ほかにもコンビニで働いているときに言った私の好きなものばかりを彼は私がパジャマに着替えている最中に、すぐにお店で買って持ってきてくれた。

「これ、あとでお腹すいたら食え」

そんな優しい彼をどんどん好きになる。

――私をこんなに好きにさせてどうするの

彼は私の横顔を心配そうに見つめながら
私の手を両手で温めてくれます。
やがて、薬が効いて眠くなってくると彼は

「寝るまで、もう少し居るから」
「葦春さん…ほんとごめんなさい、コホコホ」
「俺が、悪いんだ。ごめんな」

そういって彼は寝ている私の額の熱ピタを貼る。
私の手を握り直して彼はすぐベットの隣。
やがて落ち着いて、私がとうとう眠りにつこうとしたころ
私を起こさないくらいの優しい小さな声で彼は言った。

「言いたいことがある……今日言おうって決めてた事」
「なんですか?」
「よかったらさ……俺と付き合ってくれるかな……」

もぅ意識が薄れて聞こえた幸せが涙として枕に伝った。
彼は私の右手の薬指に軽く熱を帯びたシンプルな指輪を付ける。

「……すきだよ」
「私もだい…すきです……でも、部屋汚くてごめんな……さ……い」

笑う葦春さんの手の温もりを感じながら、私はそのまま眠ったのです。

だれでもこういうことには憧れているし
こうしてドラマのヒロインのように後で考えると恥ずかしくなってしまうような
行動を受けるのもまた私だけの恋なのだと思うの。

母に聞くと、葦春さんが帰ったのは私が寝てすぐのことだったらしい。
目が覚めてから指輪がついていたことにあらためて驚いて、急いでメールを送る。
こんな突然の指輪のプレゼントってあんまりだわってと怒ったふりしながらも開放された嬉しさは満ち溢れた。

でもやっぱりどこか完璧じゃない彼。
ワンサイズ大きい指輪を一緒に交換しにお店に行くのは熱の冷めた2日後のこと。


白い息はやがて空気と同じ温度に変わり姿を見せようとはしない。
そこにあるはずのものが見えなくなる悲しさを、きっと私は、生まれたときから知っていたのかもしれない。

願いは、ただ単純でずっと一緒に居れることを強く望んでいた。
人間は、とても単純でずっと一緒に居れるものだと安心してしまう。

それがときにマンネリを生み出してしまうし
感動の多い初恋の中で、出会ったころとの違いが
刺激の無い安定として生まれることに、満足のできない人間も数多いことだろう。

初めて乗り越えた別れは、一年後の春だった。倦怠期である。
楽しいことと、嫌な事がごちゃ混ぜになって言いたいことがいえずに、私から初めて別れの言葉を言った。
そんな中で子供の私を諭すように、彼は一緒に努力しないとだめだって事を教えてくれた。

「嫌な所はさ、お互い直していこうよ」
「うん、わたしが悪かったわ。ごめんね」
「好きなのに別れるなんて意味わからねぇよ。がんばっていこうな」

倦怠期乗り越えて、難を過ぎ、私たちは幸せな大学、短大生活を送った。

でも、あれほどの大恋愛を
望むほどの彼との一生を
世界は見事に裏切ったのだ。

早3年。3年記念日が近づいた頃、彼はまだ慣れない仕事場で一生懸命に忙しなく働き、一日がすごく短くなったと愚痴を言い、自分のやりたいことに振り回されている様子だった。
でも仕事が慣れれば余裕も出ると信じて、私は記念日を我慢した。
でも一日一日が、彼とのやり取りが、その我慢が、次第に多くなっていったのです。

「え、今度の日曜日は、私の買い物に一緒に言ってくれるって言ったじゃん!」
「悪い……ちょっと休みたくてさ」
「だって、平日は会えないんだよ? 最近は夜も会いに来てくれないじゃない!」
「……。いらいらするなぁ……。あのさ、なんでそういう事が言えるの?」
「なんでって……わたしは嘘つかないで欲しいだけ……」
「悪いけど、もぅ無理だな……やっていけねぇよ……」
「……なんでそうなるのよ」

涙をこらえているのか、怒りをこらえているのかわからなくなる。
最近の彼は一人を必要としていたし
一人でなにかすることを強く強く望んでいた。
私はあまりに彼を好きになりすぎていたのかもしれない。

一人が二人になって、二人がひとつになって
彼の好きなものは私の好きなもので
私の好きなものは彼の好きなものに変わる

それでも私の嫌いなものが彼にとってストレスに代わってしまうほどに好きなものだとしたら
愛を取るのかどうかって試したくなってしまうのは隠せない本心。

それを我慢させてしまうために
私の世界を小さくして彼を窮屈に思わせてしまうの。

「……別れるのは嫌……わたしは、あなたにわかってほしいだけなの」
「……お前は俺のこと全然わかってねぇよ」

――二人で努力……あんなの嘘じゃない!
――それってすごく自分勝手じゃない?


「はぁ……ずっと思ってたけどさ……はっきり言ってお前さ、重いんだよ」

彼と私の望むものがどうしても合わなくて。
追いかけすがる私を、彼は最終的に拒否し遠ざけたのです。

――どうして……わかってくれないの……わたしは一緒に居たいだけなのに



つづく:第8話“その指輪に……”
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