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【別れの値段】6話:好きだという事が好き


初めて乗った大人の香りのする車に
私は身を任せて助手席に乗った。

もっと可愛い洋服で来たかったと思うのは私だけかな。
青く車内を照らす装飾ネオンが、暗くはさぶける夜に目を奪う綺麗な光に移る。

「ねぇ。ドライブとか好き?」
「ぁ……はい」

私は小さくぴくんとうなずくだけが精一杯。

「ひょっとして無理させた?」

私はそんなこと無いです!と彼の運転する袖を軽くつかみ
首を小さく振るだけ。
こんな姿は、本当の私じゃないのになって、もっと元気に振舞いたいなって思っても
極度の緊張は車内の暖房が暖まり始めてもまだ、解けることは無い様子。

信号が赤になって、葦春さんがこっちを向く時
少し困って微笑む表情の彼。見つめ返すことができなくて私は、ただ車が止まるとうつむく。
赤い信号機のライトの照明が私の染まった頬を隠してくれるのが唯一の救いだった。

「葦春さん……」
「なに? どした?」
「葦春さんは、他に誰かこの車に乗せるんですか?」

2BOXカーっていうのかな。
箱型で車内は外見より広く感じる車内空間。
掃除も洗車もしてあるみたい。
私は、スポーツカーよりもこういう暖かくて疲れない車が好きだし。
流れている曲もよくは知らないのだけれど良い歌詞の曲だなぁ……なんて思う。

「うーん。親くらいかな」
「ほんとですか? ちょっと信じられません」
「嘘じゃないよ。たぶん女の子でこの車の助手席乗せたの初めてだよ」

話半分で信じてるのは表向きだけ。
正直こういうのが大好きなの。
なにか彼を独占できたような満足感があるし。
運転する彼の表情は、きっと私が始めてみるんだもん。

「えー!」

突然、彼はとある駐車場に停まり窓を開く。
周りには特になにかやっているお店は無い様。

「ご、ごめん……あのお店やってない……かも」
「えー!! あははは!」

アルバイトでの仕事はテキパキとしてて、返事や挨拶も爽やか。
何でもできちゃいそうな人だったのに……。
開いた窓から入り込むとても寒い冷気は、全然気にならなくて
ほんとに困った彼の表情を見るとそれすら可愛く感じたりするのは恋してるからかな。

「あのね、私、何でもいいよ、コンビ二は嫌だけどね。くすくす」
「ごめんね、俺から誘ったのに……電話で確認しときゃ良かったよなぁ……何してんだ俺……」

薄く積もったシャーベットみたいにシャリシャリと積もった雪を鳴らし
誰も居ない駐車場に意味ある2人の線の轍を作ることをはじめる。
こうして私たちの無意味そうで新しい始めてはトントンと積み重なって大きなものへと変わるの。

「ちょっと計画が変わったけどさ……プレゼントがあるんだ」
「え……?」
「そこ、開いてみてよ」

それは、思いもしない突然のプレゼント。
初めてのデートでもらったプレゼント。
助手席の前には取手を引くと開く小物入れのようなところがある。
よく車検証とか入れておくところ……。
彼に言われて私は運転する彼の横でそこを静かに開ける。

「合格、おめでとう」

彼の声と重なり中からわた飴のような丸い手鞠がはじけとび、そこにあるプレゼントが可愛く手招く。
ふわふわの細い毛糸の緩衝材の敷き詰められた中にうずくまる可愛らしいウサギの人形。

「か……かわいい……」

ほんとにほんとに可愛く入っていて。
なんでもっと早く見つけてくれなかったの?と言っているかのようにウサギの様子は困難だ。
私はウサギの人形を取り出し、彼の方を向きなおして

「ありがとうございます。た、大切にします」

とお礼。抱きかかえるウサギの人形は私に似合うかな。

「な、なんか恥ずかしいな……飯食いにいこうぜっ」

と彼。
まさかこんなところにって言うような場所に
前もって準備していてくれた彼の真面目さにきゅんとしたのは本音。
私なんかになんて思わない。これは私だけの幸せなの。
なんかやっぱ葦春さんって素敵だなーなんて実感した日となった。

私と彼が結局行ったのは、ドリンクバーのあるファミリーレストランだった。
周りに居るのは、家族連れや、新聞を片手に食事を取るおじさん、女の子同士で語らう高校生。
でもいつも友達と来る感じじゃなくて間違いなく特別だった。

このウサギの人形と、彼の思いがけないドジが、緊張の氷を溶かしたのは言うまでも無い。
いっぱい質問したし、いっぱい話した。
全部覚えきれないくらい。些細なことを見つけるのが楽しくて仕方がなかった。

間違いないの。
ありふれている恋の呪縛。今この時間が一生続けばいいのにと本気で思った。
そして、この葦春さんへの想いが憧れという距離では収まりきれなくなった幸せを私は感じた。

今年初めて降った雪が美しく街頭に照らされる暖かな一日の出来事であった。




続く:第7話“合わない部分”
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