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【別れの値段】42

第42話へ【「……」】


私の心の中に、いつもいる。
同じ名前のひとを見つけたり、同じしゃべり癖のある人がやたらと心にまとわりついてくる。

――ねぇ。ママ……お母さんはパパをどうやって好きにさせたのかな
――もうすこし、大人になったらママと似てる顔になるだろうか

大学2年で事務の資格を取り、大学を卒業して、私は就職をした。
私は、がむしゃらにペンを持ち続け、一人でお金をもらうための修行をし、今にあたる。
友人は、少なくは無い。でも距離がある友人ばかりだ。+アルファにしかなれない上辺だけの位置にいる私は、選んで孤独であり、また繋がる誘いをたびたび断る女でしかない。
大学に行って、帰宅し、家の近くにできた新しいコンビニに行って缶コーヒーを買い、拓也の家の前を通り過ぎて自宅に戻る。
拓也の車がない事を確認して拓也のママに会いに行く。

――なんだか私が拓也を避けているみたい……

電話が鳴る。拓也からの電話。

「はい」
「いずみ?」
「うん」
「今日も遊びに来たんだって?」
「……うん」
「悪い、大学終わってそのままカラオケ行ったりしててさ」
「……彼女と?」
「あーうん。まあ他のヤツもいたけどね」
「そっか。良かったね」

なにが、良かったね。なのか、ちゃんと理解してないまま、切りたくないけど聞きたくない会話が続く。

「今度、お前もくるか? カラオケ」
「行かない。私昔の曲しかわからないから」
「そっか」
「拓也……」
「ん?」
「今度は、拓也も一緒にご飯たべよ?」
「え? あ、ああ」
「おいしいの作ってあげる」
「おお。楽しみにしてるよ」

拓也のその恋は、続いた。今までは3ヶ月ももたない恋だったのに、2年、3年と続くたびに怖くなる。別れないような気がしていた……それを考えると嫌な自分がでてくるの。
見せる相手のいない洋服を一人で買いに行き、鏡の前でその姿を自分で見て泣いた。
やっとわかったの。いままでずーっと誤魔化して嘘をついて閉じ込めていた想い。
愛でも恋でも、辛さでも怖さでも……なんでもなかった。
これは、あの頃、一人で材木工場の空き地で空を見つめていた時の一番嫌だった気持ち。

――“さびしい”だ……

寂しいのに、願ってしまう。
耐えられないのに、想像してしまう。
辛いのに、思い出してしまう。
友達をたくさん作れる人が羨ましい頃の事。
時間を使っていろんなところに遊びに行ける行動力を持った人が羨ましい。
どこかへ一緒に行って笑い合える同じ趣味を持った友人がいる人が羨ましい。
だれにでも尊敬される魅力をもった人が羨ましい。
いくつも羨ましいを感じて生きてきて、いつまでこの劣等感と戦って生きていけばいいのか、そんな息苦しい帳の世界をいつも逃げ出して、楽な生き方を探す私が、こんな事を願うのは都合がいいのはわかっています。
……でも神様は平等に願いを聞いてくれるだろうから、わがままを言うだけの事は許してほしい……。
私が今一番望む事は、私の過去を取り巻く優しい人たちの幸せなんかじゃなかった……。

「すごく痛くなってきたの。……これは、きっと駄目なんでしょう? 神様……」

救急隊員の呼び掛ける声が頭に響く。意識をちゃんと持ってと声がボテボテと落ちる。

――神様、どうか拓也を悲しませないでください

『私のことはもう……いいですから。だから、どうか……私の事で拓也を悲しませないで……一生の……お願い』

救急車が目の前に止まり、テレビで見た事がある白い服の看護婦が私を抱え、ストレッチャーに乗せられる。
長い走馬灯に思い出した記憶。雪の降る冷たさすら感じない。
私は、そのまま眼を瞑った。



---------------------------------------


ズタン!!という音とともに病院の手術中のランプが消えた。
手術は、5時間近くも救命措置と輸血を行った。
事故を起こした加害者は一命を取り留める。

……しかし、いずみは帰らぬ人となった。

これを不幸と言うのなら、世界にどれだけ不幸な人がいるのだろう……。
できる事なら、いますぐ目の前に全員集めてくれないか……。
毎日のようにテレビで流される事故死。加害者と被害者を取り巻く不幸。
これほどに辛い“別れ”があるのかと、僕は今更ながら痛感した。

――ねぇ……拓也

呼ぶ声が聞こえない……。

――ねぇ……出てきてよ

トントンとたたくドアの音が聞こえない……。

――ごめんね……拓也

涙を流して、謝る。謝り続ける声が……いずみの声だけが聞こえる。

「勘弁してくれよ……お前……俺が別れたら慰めてくれるんじゃなかったのかよ」

呼吸の無いいずみは、やたら綺麗で、僕の知らない大人の顔をしていた。
いずみの手を握ったのは小学校以来、初めてで、連れかえりたくなるほどに温もりある優しい手をしていた。

参列者の少ない人の小さな葬儀が行われた。若すぎる死だった。それをみんなやり場無く同調し悔やんだ。
あまりに突然すぎて、近すぎて本来出るはずの、泣くはずの涙がでない。

「あのね……拓也」
「……なに? 母さん」

僕の着崩れた喪服の帯を直しながら母さんが語りかけた。

「知ってた? いずみちゃん、あんたのこと好きだったのよ」
「……」

知ってる。ずっと知っていた。それを知ってて甘えていたのは僕だ。こんなことにならないと気がつかない自分が一番嫌で悔しかった。まるでいずみが、僕の涙を流すまいとなにかしようとしているようにすら思えた。
心はすごく悲しいのに、とても言葉じゃ表せないくらいに息苦しいのに、なんでなんだ……。
むしろ、笑顔で送ってやりたいとすら思ってしまう……。

「母さん……いずみってさ、なんで俺の事好きだったんだと思う?」
「……いずみちゃんはね、いつもわたしと二人でご飯食べてるときにね、嬉しそうに昔の拓也の話をするの」
「ちいさい頃の時の?」
「うん。いずみちゃんね、拓也のこと話すときね、すごくすごく可愛い顔をするの」
「……」
「しらなかったでしょう?」
「……うん」
「いずみちゃんはすごく器量のある子、いまもずっと私の自慢の娘……」

母はご飯が食べれないくらいに3日三晩泣いた。僕の兄もそれなりにショックだったそうだ。妹のような感覚だったという。父もまた悟るように数珠をこすり香を添えた。
僕の家が、葬式に親戚側として立たせてもらっているのは、諸田さんからのお願いでもあった。

事故を起こした側人の参列が目立つくらいに少人数で式は終わった。
静かに静かに加賀谷いずみの生涯は終わったのである。

思えば、いろいろな別れを背負った人がいる。
別れたことで、相手の良さに気がついてふりだしに戻る人生を歩む男。
別れた辛さを共有して分かり合う事で救われる女性。
本来満ちた愛であるはずなのに、片面で見る環境に生じたすれ違いで別れを選ぶ父親。
まるで一つの汚点のように淡々と別れ得るお金。
お金以外何もかも失い、それでもまだ、どこかで別れというものに救いがあるとを求めて生きる女。
存在すら見失うほど信じて未来に可能性を求める一途な女。
……寂しさを伝えることが苦手な女。

別れた数だけ出会いが会って。出会ったら必ず存在する別れ。
嫌な世界でさ、「さようなら」って言葉が存在してしまうこと自体が残酷だと思うだろう。
息を吸って吐くたびに、きっとほら今も「ばいばい」とか「さようなら」とか……。
そういう言葉が9次元の空間に吸い込まれている。

でもさ……一番辛いのって……どうしても泣けない理由はそこにある。
また会えるような気がするんだ。
別れの言葉が無いと……またどこかで会える様な気がしてしまう。

――ねぇ……拓也……

「……なんだよ、いずみ」

声が聞こえて、その声に振り向いた、3歩後ろ。
そこには、あってあたりまえだった“大事な存在”は無い。

「……」



⇒第43話へ【最終話:別れの値段】
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