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【別れの値段】41

第41話【失恋と別れが同時に来る事】


ガチャっとドアが開く。
ドアに背中で寄りかかり体育すわりをしていた私は、そのままドアに引き込まれるように、背中から倒れた。
コロンと倒れた私を上から見つめる拓也は、やっぱりちょっと泣いた後の顔をしている。何度も見た事のある顔だ。
私がニコッと「ご飯、一緒に食べよ」というと、拓也は、くだらないものを見るような微笑ましげな眼差しで私を見つめて、こう言った。

「今日、とてもいい卒業式だったな……」

そうして手を私に差し伸べた。掴んだ手は同じ温度で、引き上げられて立ち上がるときに、少しだけ優しい桜の香りがした気がした。
私は、卒業式が終わるとすぐ帰宅し、拓也の家に来たから、拓也がどういう理由で、涙を流したのかは、わからない。それでも……拓也の初恋は残念に終わったということはわかった。拓也はね、いつもめんどくさそうにしてるんだけどね、人の優しさに触れたときにもっと優しいの。
寂しい気持ちを忘れさせてくれる。
きっとそれは拓也に触れた人間すべてのひとがそう思う見境の無い愛なのだとおもう。

私は、拓也と同じ高校に進むことを選んだ。
高校に入って、一緒に登校をする。朝、拓也を起こして、変わらずに3歩後ろを私は歩く。
私は、遠の昔に“好き”と“付き合いたい”を通り越して、“結晶する愛”を遠々と待っていたらしい。

「拓也、私、可愛くないよね……」
「なんだよ、急に。別にそんなの気にすんなよ」
「やっぱり……可愛くないんだ」

遅く訪れた思春期は、私にコンプレックスというものをプレゼントとして置いて行った。
私は、宛先も見ぬままにそれをあけて打ち明ける友達も少ないままに悩んだ。
胸も大きくは無くて、足も短くて……天性の可愛い声や綺麗な髪質も無い。一重の眼は特に嫌いで……まつげも口もそうだ。童顔にひどく憧れる。どんどん、男の子の好みを知っていくうちに自分が嫌いになった。
そんな時。

「あのね、いずみちゃん。女の子はね、容姿じゃないの。器量よ」
「器量?」
「女性として、男の子を幸せにしてあげるために頑張れる力のこと」
「頑張れる力?」
「そ。それをたくさん持ってる人が一番可愛いの」

私にそれを教えてくれたのは、拓也のママだった。

「私、いつか拓也に選んでもらえるかな?」
「まだ、二人とも若いから。たくさん時間もあるし……それに」
「それに?」
「拓也の事、一番わかってるのは、いずみちゃんじゃない」

だんだん、当たり前に拓也を好きになっていくのがわかった。一番は私でありたいと思うようになった。
ずっとそばにいた私が、拓也を幸せにできるんだって……思った。

でもね……。別問題だった。
高校2年にもなると、拓也には、彼女ができた。
すぐに付き合って、別れてと忙しなく。そのたびに私は遠慮をして距離をひらく。
あれほど貪欲に後ろを歩いた頃が懐かしいとも思えるほどに……。

「拓也、別れたってほんと?」
「……ああ」
「早いね……」
「……」

拓也は、私を“空気”のような存在だって言ってた。
そこにいて、違和感が無く、必要で、そして軽く、いつもそばにあるものだと。
私は、それでもいいなって思った。すぐ別れてしまうような出会いなら私は、ずっとそばに居れるからだ。
私さえ、拓也との距離を離れなければいいのだと。

「また、彼女できたの?」
「今度、紹介するよ」
「……いいよ。すぐ別れるでしょ」
「お前、さらっと、ひどい事言うよな」

拓也には悪い癖がある。その余る“優しさ”をたった一人のために使えないところだ。
いい所だけれど、恋愛の重さを嫌う中高生にはそれがきっと耐えられるものではないということ。

「いずみ、おまえ化粧してる?」
「あ、う、うん、ちょっとだけ」
「似合わねぇよ、やめとけ」
「……そか。うん、わかった」

手探りで始めた薄化粧。雑誌で買ってみた流行の香水。
自分のためにやってるはずが、だんだんと拓也のためになっていた。
……ゆっくりと積もった“愛”が不自然に限界点に届く。
拓也が3人目の彼女と別れて、そろそろ、受験勉強だと言いだした頃。
高校2年の冬。私は拓也の家で二人で勉強会をしている最中、言った。

「あの。拓也」
「ん?」
「あのさ……高校卒業したら、初めて別々の世界になるね」
「まあ、いままでほんと付き合い長すぎてな~実感ねぇや」
「ふふ。わたしも」

こたつがあったかい和室で、私は古典。拓也は英語の参考書を開いている。
伏せるようにノートにスペルを書き続けながら話す拓也。私はシャーペンを両手の人差し指でくるくる回しながらぼそりと言った。

「……あのさ、もう彼女作らないで」
「!?」

いきなりに、言った私の台詞に拓也もおどろいてペンを止めた。

「わたし、拓也がすき」
「ほ、ほんき?」
「うん」
「……わたしは好き。たぶんこれから大学生になっても社会人になっても」
「恋愛感情的に?」
「うん。だめ?」
「だ、ダメっていうか……お、俺はお前の事そういう目じゃ、み、みれねぇよ」
「……そっか。じゃいいや」
「は!?」
「また、拓也がふられて慰める時にまた言う……」
「な、なんだよ! 慰めかよ! お前、らしくないぞ。冗談とかやめろよな」

拓也は笑ってペンを取り直す。
私も参考書のぺらぺらと捲り、消しゴムを取る不利をして遠くのみかんを手にとってそのまま拓也にぶつける。

「痛てぇし! ふざけんなよ」
「あはは」
「おまえな! みかん投げるなよ」
「あは! 拓也、そのみかん食べてね」
「ったく……意味わかんね」

ずっとね、私が好きだって事。それが大事なの。
拓也と居た時間は、私が一番長くて。拓也のことは私が一番知ってて。
例えその正体が、空気でも。それでもいいって思えるくらい、この距離は広がらない。

拓也は、大学に進学して一年後。彼女を作った。
すぐ別れると思っていた。でも……その人は、拓也にとって“恋人”であったらしい。
嫌だって泣く事もいつの間にか忘れていて。あの純粋な応援する気持ちもまた私には無く。
かといって、他の男性と付き合うでもなく。

私はそっと距離をあけたのだ。

「おばさん」
「いずみちゃん、久しぶりじゃない。ぜんぜん最近来なくなって」
「あの、これ、煮物つくったんです。今日夕飯一緒にいいですか?」
「もちろんよ。あ、でも拓也、今日もきっと夜遅いわよ。友達と遊んでくるとかで」
「うん。大丈夫です」

大人になる自分が今は、一番怖くて辛い……。

−−好きで居続けることが怖い……



つづく→第42話へ【 ・・・      】
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