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【別れの値段】39

第39話【友人の恋を応援する“幸せ”】



私が、拓也と出会ったのはそんな経緯(いきさつ)からだった。
もしも、一つだけ願いが叶うなら、きっと私は、今の私の幸せを形成してくれた人の幸せを願うだろう。
拓也は、その中で一番特別だった。

「あら! 女の子? お名前は?」
「加賀谷いずみです」
「いずみちゃんていうの? 可愛い子ね~。拓也と仲良くしてくれてありがとうね」

初めて柚木家に遊びに行ったとき、なんて羨ましい家庭なんだろうっておもった。
拓也のママは、すごく暖かくて笑顔で、そして他人の私に優しく、そして時に実の娘のように厳しく叱った。
両親のいない私の事は、少しも気にせずに、いつも家族の笑顔をくれた。

「いずみちゃん、これおばさんが、ちっちゃかった頃の洋服なの。着れるかしら」
「わぁ。ありがとう!」

環境のせいじゃない。私はとても幸福な女だ。
私は結局いつもわがままで、鈍感。その辺がずっとコンプレックスで、でも、どんだけ考えても治せない。
拓也が、お母さんとケンカをして、口を利かなくなったときの事もそうだ。

「ねぇ。拓也、またお母さんとケンカしたの?」
「いずみには関係ないだろ!」
「あるもん……関係」
「……」
「ねぇ、拓也、仲直りして……お願い」
「……。はあ……わかったよ」

どうしてか、拓也は私のお願いをいつでも聞いてくれた。
拓也は、私にとって大事な人だった。でも小学生の私達は何度も何度もケンカをしたりして。
そのたびに、私は泣いて、そのたびに拓也が謝った。

「お前なんか、絶交だ!!」
「……なんでそんなこというの?」
「いっつも俺にいずみが、付きまとってるから、みんなが恋人同士だって誤解するんだよ!」
「……そか。拓也は嫌?」
「ああ! 嫌だね」
「……わかった」

小学4年だっけな。私がずっと拓也の背中を追いかけているせいで、とうとう拓也がそんなことを言ったの。
私は、女の子だからしょうがないんだって思った。拓也は誰にでも優しいし、いつもなんかカッコよくて、なんでも知ってて、誰からも人気があった。私は相変わらず友人が作れるほどには、環境を作れてはいない。
そんな私が、拓也に迷惑をかけてるんだって思ったらすごく嫌になって、納得した。
……でも。

「なんで、お前ついてくるんだよ!!」
「……あたしの家もこっち」
「もっと離れて歩けよ」
「……うん」

あのランドセルを見るたびに、私は拓也の優しい気持ちに癒される。背中を見るたび追いかけたくなる。

「なんでいるんだよ! ここ、もう俺の家だぞ!」
「……だって……」
「俺んちに、くんなよな!」
「……」
「くんなよ!!」
「……ぅん」
「絶対だぞ」
「……うう……えーん」

私は、拓也が、そういったときに、ボロボロと泣いた。
通学路の途中。見っとも無く寂しくて泣いた。
それを見て、拓也は子供ながらにため息をついて言う。

「また、泣く。すぐ泣くんだ! 弱虫!」

それをたまたま聞いたのか、拓也の母が玄関から出てきて、拓也に大きな拳骨をくらわした。

「あんた! 何てこと言うの!」
「いってぇ……俺悪くねぇもん」

泣いてうつむく私を拓也のママが優しくおいで。と迎え入れてくれた。
子供っぽいなぁ。……今ふとそんなこと思い出すと、すごく懐かしい。
拓也は、頬を膨らませるように怒り顔で2階の部屋へ駆け上がる。
私は、拓也のシューズと、わたしの靴を隣に綺麗に並べて拓也のママとその日その事を話した。

「ぅぇーん。拓也、私と一緒に居たくないんだってー」
「ほらほら、泣かないの」
「だってー。わたし拓也と一緒にいたいんだもんー」
「だいじょうぶだから、ね」

本当のママみたいに、この人の前だと大きな声で泣けて、言葉で嫌な気持ちがすんなりと言えた。
それを拓也のお母さんは、拓也を責めるでもなく、私をかばうでもなく、ただ聞いてくれた。
こんなに、私は感情豊かだっただろうか。

仲直りなんて些細なことで、私が、拓也の部屋の前で、何度も何度もトントンってドアを叩くだけ。

「拓也~(トントン)ごめんね(トントン)」
「なんで…お前が謝るんだよ」
「泣いてごめんね」

悪くないけど、理由を見つけて謝ったほうが勝ちだった。拓也はそのたびに、ドアを開けて……。

「わかったから、もう叩くなよ」

と、いつもの二人にもどった。
実際に距離ができることって子供にとっては、限りなくゼロに近い。
小学校4年まで一緒にお風呂に入るほどに、仲がよかった私と拓也は、小学校上級生にもなるとやっぱりどこか思春期で、近寄りすぎると拓也はそのたびに、その分の距離を広げた。

そして、小学校を卒業して、中学へと私たちは進学する。
中学に入ると、一気に大人になったような気持ちになる。きっとあのランドセルが無いからだ。
別れを告げたランドセルを、二つ並べて、残った傷が生み出した幸せがフィルムに残された。
私は、もう大人になったような気持ちでセーラー服に袖を通した。

「ねぇ。拓也」
「ん?」
「大人になったねぇ、拓也」
「なんだよ、かわんねぇよ」
「似合ってるよ、学ラン」
「……首元が痛いだけだよ、こんなの」

一緒に中学校に通うのは相変わらず。付き合ってるの?って聞かれると、付き合ってないと答える。
好きなの? って聞かれると拓也はそんなわけあるかと言うけれど、私は隠れて好きだと答えた。
なんていうか、恋愛感情ってよりは、純粋に拓也がそばにいて当たり前で、そういった意味での『好き』だったの。
ちょっとづつ。いや、実際にはものすごいスピードで拓也との距離は遠くなって、登校するのはいつも一緒だったけれど、だんだんそれ以外で、一緒に遊ぶということが少なくなった。

「拓也、今日拓也のお家いっていい?」
「ああ」
「ほんと?」
「なんだよ、お前、いつも勝手に飯食いに、くるだろうが」
「そ、そだよねっ」

もじもじと、拓也の後ろを歩く。
この遠慮は、拓也に、好きな人ができたって知ったからだとおもう。
拓也本人から聞いたわけじゃない。なんか見ててわかった……。
別のクラスだったから正直詳しくはしらないけれど。
顔を見るにとっても可愛い人だった。名前も“葉桜”ってすごくすごく可愛い名前だった。

――もっと可愛く生まれてきたかったなぁ

そんなことも柄にもなく思ったりして、でも一番大事な友人がうまくいけばいいなって。
応援しようってそう思った。

――がんばれ。拓也……


続く→第40話【私だけの幸せ】
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