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【別れの値段】38

第38話【それは私の傍にある大切な“幸せ”】



これって私、死ぬのかな。
ざわつく人だかり、距離をとって広がる人並み。私のバックが目の前に転がっている。
雪に伝わる赤い水滴がぴしゃぴしゃと生きたいと願う。

――運ないなぁ……ついてないなぁ。わたし

流れ落ちる涙。くだらないと笑う唇。私はやっぱり駄目な女だ……。
死ぬことよりも、何よりも私は伯父さんと拓也の家族、そして拓也本人に迷惑がかかることをその場でひどく怖れていました。
まだ私は、取り巻く大切な幸せに、ちゃんとお礼の言葉すら伝えていないのに……。

私が、両親を無くしたのは、小学校に入学したその次の日。
まだ小さかった私は、上級生の迎えで小学校へ登校する。父はその日はお休みで私が出かける直前まで寝ていた。
母は、心配そうによろしくねと私を見送る。
班長旗をもったお姉さんが私の手を掴み2日目の小学校へ向かった。

登校中に後ろを歩く男の子が私のランドセルを指差して言った。

「なんで、加賀谷さん、ランドセルピンクなん?」

私は、それに嬉しそうに答えたのだ。

「このランドセルね、ママのなの」
「すげぇ。おさがりなのに、綺麗じゃん」
「えへへ」

優しい年長の男の子はそう言ってくれた。皮を張り替えて艶めくランドセルは、みんなとそれは色が違ったけれど、優しいママの香りがして、それが逆に嬉しかった。黄色い蛍光色のカバーをつけて、ある程度の軋みや汚れはあるものの、とてもお下がりとは思えないほどに綺麗だった。

――いずみ、このランドセルはね、ママの宝物なの、大事に使ってね

優しい母。優しい父。兄弟には恵まれず私は一人っ子だった。
このときは、そう。むしろ会話することが好きで、誰とでもしゃべりたくて仲良くなりたくて、無邪気な女の子だった。学校が終わり、家に帰るといつもあいているはずの家が閉まっていて、鍵をもっていない私はずっと玄関の前で座っていた。
日が暮れて、暗くなる夜道がなんかすごく怖くなってきて震えて泣いた。
何かの因果だろうか……父と母は、その日午前中に気まぐれにドライブで出かけた高速道路で大きな事故を起こし即死。
玄関で小さくなっていた私を抱きかかえるように“大丈夫だ”と声をかけたのは、叔父の諸田さんだった。
受け入れられずに泣いた。一生分の涙をそこで流したんじゃないかと思えるほど、一人きりで。

小学校に行くようになったのは、それから半年もしてからのこと。
ずっと塞ぎこんでいた私を担任の先生や叔父が全力で心配してくれた。
半年もたつと、クラスでは正直友達は作りづらい。私も少しずつだけど前向きにそのことを考えられるようになっていた。すごく、きっと叔父さんが優しかったからだ。

親代わりとなり叔父が私を引き取ってから、少しだけ家が遠くなった。でも子供ながらにあの元の家には居れないなっていうのは理解していて、だんだん、叔父さんに悪い気持ちになってきて、心配させないように弱みを見せることをしなくなり、一人でも頑張って生きていこうと心に決めた。

2年にあがると、事情を知らない子達がクラスに交じり、私をいじめの対象にした。
ぜんぜん、気にしてなかった。ランドセルの色が違う? だからなに?
あの子は、両親を亡くして不幸なかわいそうな子なんだ。そう思われるより遥かに良かった。
だれも私のことをわかってくれる人はこの中にはいないって思ったからだ……。

私は、一人で高いところに上るのが好きで、ちょっと風に当たりたいときとかにそこへ行った。
日々めんどくさくなるイジメ。何かと強制される会談。もはや諦めているのでそこまで気にしてもいないが、やっぱりどこか心が窮屈さに悲鳴をあげようとしている。

「……」

目線を感じる。
私をただ見ている目だ。じっと安全なところから見ているだけの瞳。
私の世界に、そういうひとはいらない。優しい両親の思い出と今の大切な幸せの部分があればそれだけで私は良いと思っている。

でも……心は何度も、何度も割られていく。
息を吸うたびに意図も簡単に。

「赤くしてやったぜ! ぎゃはは」

ある日、私の大事なランドセルが、赤いチョークで色を塗られていじめっ子にひどく汚された。
拭けばいい……たいした事じゃない。ランドセルを奪い返してその日はずっと目につく場所に置いていた。
帰り道に、公園の水道でハンカチを濡らして、お気に入りの材木工場の積み重なっている材木の上に座り、なんどもランドセルを拭いた。
もとあるランドセルに戻った。ざまあみろって思った。直るんだって思ったら頑張れた……。
でも……守ってあげれなくて「ごめんね」と。勝手に声が漏れた。

ガササッと突然ブルーシートを踏む音が鳴ってそっちを見ると、クラスの男の子がいた。
あの目だ。あの……私をただ見ている目だ。

「おい! なんで! お前いじめられてんだよ! そうやって、黙ってるから、いじめられるんだぞ!!」
「……」
「ランドセルくらいみんなと同じの買ってもらえよ!」

なんかその子のいってる意味がわからなくて、私はただランドセルを守るように抱きかかえて言った。

「このランドセル……もらったの。とっても大事なの……」
「なんだよ! 大事って……いじめられてもいいのかよ!」
「……うん」
「ずっと言われるぞ?」
「……ぅん」
「……お前、バカ?」
「……そかも……」
「し、しらねぇかんな! 俺」
「いいよ……大丈夫」
「もうしらねぇ!! じゃあな!」
「……ばぃばぃ」

怖かった。あの目で心を見られているような気持ちになった。

――もう、放っておいて……

それから数日がたち、あの子が柚木拓也という名前だということを覚えた。
家がすごく近くて、登校は別の班だったけれど、すぐ歩いていけるような距離に住んでいると知った。
そして、あの日。
お昼休みが終わって次の授業の国語の教科書をロッカーに取りに行くとき、私のランドセルが無くなっていた。
私はすぐに探したけれど、結局授業が始まるまでわからなかった。犯人はわかっている。
あのいじめっ子達だ。授業が終わったら勇気を出して聞こう!そう決めた。

先生が教室へ入ってくる。頭をつかまれ無理やりに教室へ入れられた男の子。
先生が持っていたのは、私のランドセルだった。
ボロボロになったランドセル。歪む眉。ほんとうに心というものが胸にあったなら飛び出てしまいそうなくらいに、えずきそうになった。それをじっと我慢している。
昼休みにグラウンドに転がっていたのだという。きっと地面に引きづったりしたのだろう。
多くの傷と砂が交じり合った色で、子供ながらにその状態は見るほど悲惨だった。
いじめっ子が言うに、そこまで傷だらけになるとは思わなかったと言う。
使えなくは無い状態ではある。ある程度拭かれたそれはある程度は綺麗だ。でもあの鮮やかに目立つピンクでは無くなっていた。
……先生にげんこつをくらい叱られ泣く主犯の男子。
それを見て、やるせないきもちに教室のみんながとうとうなった……それ以降いじめは無くなった。

すぐに呼ばれた叔父が、私に言った。

「新しいの買うからな」

すぐに私は、叔父に言った。

「いらない。これがいいの……大丈夫」

帰り道私は、あの材木の上で一人佇んでいた。もうどうでも良くなったのかもしれない。
一人で居たいのに……なのに……またあの目だ。あの優しすぎる目……。

「ごめん……」
「なんで……柚木君が、あやまるの?」
「いや、なんか……ごめん……」

距離ある位置でたってこちらを見てごめんと言葉をこぼした少年。
近寄って積み重なった材木の上で柚木君が私の事で気にしてくれた。
私は、悔しくて大きく泣て叫んだ。

「えーん。すごくすごく嫌だったよー!」と。

そして、それを聞いて柚木君もとなりでうずくまるように泣いた。
次の日。私は驚いた。
みんながまだピカピカのランドセルを持っている中で気まずく私は傷だらけのランドセルを背負う。
でも、なんでか、もう一人すごく傷だらけのランドセルを背負った男の子がいた。
私は、それを教室で見るや、言葉を無くした。
傷だらけのそのランドセルを背負って私に声をかけたのは拓也だった。
そして得意げに言ったの。

「加賀谷さん。これで、もう、ひとりきりじゃないだろ?」

ぼろぼろと私は泣いた。

――わざと傷だらけにしたの……?

あんなに……昨日まであんなにピカピカだったのに……。

「バカでしょ……お母さんに怒られちゃう……」
「すっげぇ。怒られた。兄貴のお古のほうが綺麗なくらいだぜ。あはは!」
「……」
「でも、かっけぇし。こっちのほうが」

イジメも無くなって、親友と呼べる友達ができた。
伝わらないことなんて何一つもないんだって思って私は少しだけ言葉を頼りに生きるようになった。
傍にあるものを大事にしようって思った。


続く→第39話【友人の恋を応援する“幸せ”】
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