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【別れの値段】37

第37話【それは傍にある大切な“空気”】


独特のあの病院のアルコールの匂いすら感じないほどに吐く息が荒ぶる。
病院の廊下は冷ややかさを伝えるようにねずみ色にくすんでいて、窓から差し込む夕日が逃げるように暗くなって、遠く手術中と赤く光るランプが反射した。

「なんで……どうして……」

事故は、飲酒運転。営業先へ訪問するために歩道を歩いていた彼女を無惨にも撥ねたという。

「ふっざけんなよ……嘘だろ……」

大破した車の中で、その飲酒運転をした男の人も窮地の状態で別の病院に運ばれていた。

「えっと、柚木さんですか?」

一人のナースが僕の母に話しかけた。母はその話を受けながら、いずみの状態を聞いている。
僕と母が来た理由は、いずみが持っていた財布に入れられていたメモにうちの連絡先が書いてあったからだ。
いずみは、妹のようにいつも僕の家に遊びに来ていて、よく夕飯も食べにきたり、母自身、きっと僕といずみは、いつか結婚するのだと誤解しそれをなぜか確信するほどに深い付き合い方をしている。
母は、女の子供が欲しかったこともあり、まるで自分の娘のようにいずみに接していた。
そのせいもあってか、いつしか妹のように我が家に居る事があたりまえにあった。

「電話でもお聞きしましたが、加賀谷さんのご親戚の方とは連絡がつきますでしょうか?」

母は、気が動転しながらも僕を向いて、それをしっているかを聞いた。

「拓也、わかる?」
「……」

長椅子に座って、まだその状態を受け入れられていない僕に、母は、なんども聞く。

「拓也! 聞こえてるの?」
「……あ!……ああ。ごめん、あいつの親戚の連絡先は携帯がないから、わからないけど、いずみの携帯ありますか?」

持っていた所持品のいずみのバックから携帯を取り出す。

「携帯は、私も見たんですが、ご両親などの連絡先は無くて……」
「いないんです……あいつ。両親……」

携帯で名前を探しながら僕はそうつぶやいた。
携帯で探し出したのは、“諸田”というひと。
いずみの育ての親にあたるひとだ。
すぐに受付の事務の人に携帯がわたり、いずみが事故にあったことを伝えた。

――諸田さんはすごくいい人だ。すぐにでも心配して駆けつけてくれることだろう

どういう状態なのか知りたいのに……怖い。
ただ、わかるのは非常に良くない状態で運ばれたって事。
生死が分かれるような大掛かりな手術を行っているという現実。

「助かるんですか?……いずみちゃんは!」

狂ったように母は、通りがかるナースに聞いてまわる。
僕は、震える手をおさえるだけで、響く言葉すら入らない。
ただ、廊下に反射する赤い色が消えるのをじっと待つしかなくて、10分もせずに、すぐに駆けつけた諸田さんが、事情を把握して、僕の横に座った。

「拓也君……君は立ち会ったのか?」
「いいえ……」
「いずみは、どういう状態なんだ?」
「わかりません……でもいま……頑張ってる……きっと……」


それから何時間経っただろう。とても長い……時間だった。
諸田さんに預けられた、いずみのバック。なんどか見た事がある仕事用のバックだ。
薄くなるのがわかる。だんだん“その空気”が薄くなっていく気がする。
傍から見て、僕が母以上にショックをうけているのがわかっている諸田さんは、自分の悲しみを他所に、僕の頭をぽんぽんと撫でた。

「だいじょうぶだ……だいじょうぶ」

何度も何度も……ぽんぽんと。

――いずみ……どうか、命だけは……

面会が終わる21時の院内放送が遠くで鳴り始まる。すでに4時間が過ぎようとしている
出たり入ったりする看護師。輸血や、救急救命にあたる検査師。
もう……なにがなんだか、わからないよ……いずみ。
だれか……神様。助けてあげて欲しい。


----------------------------------------


突然にどごんと大きな音が聞こえて、コンマ2秒無い刹那。
私は、路肩の壁に打ちつけられた。

ああ……なんか私に何かとんでもないことが起こったんだなって……思った。

意識が遠退いていくのがわかる。
まだ、スーツも買ったばかりなのにな……とかなんで、私は地面に伏せているんだろうとか。
普通に疑問に思いながら、どうしてか涙がでた。
集まるひとが声あげて、救急車!!と言ったのが聞こえた。
恥ずかしいな……やだなぁ。救急車乗るの。でもきっとこれは駄目なパターンだ。

意識がどんどんどんどん遠退いていく。
走馬灯ってほんとにあるんだっておもったらさ、なんか懐かしい思い出とか出てきて。
辛かったこととか、楽しかったこととか……全部思い出すんだ。

――拓也……怒るかなぁ……嫌だなぁ……



続く→第38話へ【それは私の傍にある大切な“幸せ”】

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