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【別れの値段】34

第34話【雪凪げ】


返信は遠い。
一瞬で地球を半転し先輩に届いた事実など僕は考えもしなかった。
いまもまだ蜃気楼のようにすぐそこを彷徨い、道草すらしていくかのような、そんな果てしないゆっくりとした速度で届いていくような気がした。
葉桜はメールを送り、携帯を売ることをやめて大事そうに二つの携帯を胸に抱えている。
火照る指先に流れたものは葉桜が流した涙で、鳴らない携帯に伝わる雪の匂いだけがどこか感じたことがある、その香りに少しだけ似てるような気がした。

「いい先輩だったね」
「うん」

いい思い出となった先輩を思い出すように、何度も何度も葉桜は僕の言葉に頷いた。
これから、どうするのかとか、それは葉桜自身の問題で、僕はただ話を聞いて気持ちを探っただけ。
色を消した外の景色。本来あるはずの橙の看板や鮮やかな自転車の色、泥のようなアスファルトや雲の上に鮮やかに輝く圧倒的な夕日すら、感じないほどに圧倒的な白で覆われている。

「思い出って色褪せるって言うけどさ、ほんとは覚えてたりするんだ」

不意に言いたくなったっていうか、意味ある事じゃない。
僕は、感じたことをすぐ口で言うところがあって、まったく根拠の無いその空想世界を理想として求めていたりする部分があるから。言うなら、ナルシストで空想を求める理想派。
言葉でしっかりと伝えることができないのに伝えることに必死なエゴイストだ。
突然話を始めて、【はっ?】と相手に思わせることが癖づいてしまっている。
自分の世界で生きている人間だから、きっと一人の女性すら過去に愛しきることができなかったんだろう。

「気にしないで。なんかふと出た独り言だから……」

伝えたいことを一言で感じ取ってほしいと言うのは、優しい人間ではない。
葉桜は、僕にある最も理想の女性で、最も心から愛した人で、でもそれは過去の妄想。

――言ったろ? 人生最大の恋は叶わない。叶わないから貴く美しい恋で在り続けるのだ

僕は、千佳のことが好きで、大好きだ。
葉桜のこともきっと好きなのだろう。でもすでに僕はあの頃の僕ではない。
雪凪は、刹那。無くなったあの頃の色を思い出させたに過ぎない。
だから、もうあの頃の夢は僕はきっと……見ないのだろう。

葉桜は泣き止む頃には不思議と雪も止み始めていた。
ごめんなさいと言って僕の袖を離し、染み渡ったハンカチと携帯をバックへと戻した。

「ごめんね、柚木君。売るのは、また今度にするね」
「ああ」
「ごめんね、ほんとにありがとう」
「俺は、なにもしてないよ」
「うそ……嘘だよ。いつも応援してくれてた」
「また……おいで」
「うん!」

そう言い残すと、葉桜は、僕に笑顔と、連絡先を残して店を立ち去って行ったのだ。

*****************************

第4章 完


最終章へ続く→第5章『Price parting.』











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