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【別れの値段】32

第32話【送れないメッセージ】



「先輩……いままでありがとうございました……」
「僕も……何も残してあげれなくてごめん」

違うの。金城先輩が私に残してくれたものはとても大きい。
それはきっと、地球よりも重く宇宙より軽い。
私が、きっともう少し大人になったら具体的に、それがわかるのだろうか。
卒業式に“さようなら”といえる事をいつか美しい過去のことだと思えるのだろうか。
白妙に意味はなく繋がる想いは細く長く遠く伸びる糸のよう。

「私、手紙……書きますから」
「ああ」
「あっちに着いたら、住所送ってください」
「わかった、必ず」

繋がったのに離れるのは思ったほど怖くない。
嬉しいのに辛いのは今まで感じた事のなかった気持ち。
寂しいのに嘘をつくのは、世界が綺麗だからだ。
ああ。私が人間じゃなくて翼を持つ鳥だったのならば彼を追いかけるのだろう。
人間は自由なくせに、自由を選べない……。

「先輩……いってらっしゃい」
「うん。かならず連絡するから」

私は、きっとこのとき“待っててくれ”って言葉が聞きたかったのかな。
帰ってくる未来があることを信じたかったのかな。
夕方の……美しすぎる学校の1室の景色が歪むほどに流れた涙が先輩の姿をも暈す。
そして、そのまま、消えるように思い出の中に面影を残して先輩は旅立ったのだ。

私は、空を見上げる。
上空にあるあの面影を、ただじっと見つめる。

――この本、結構おもしろいじゃん

あの頃読んだはずの、あの一冊の本の内容を一緒に共有するように。


――――――――――――――――――――――――――――――――


手に持っている携帯電話が、軽く熱を帯びた。
葉桜は、変わってない。
あの頃の優しいままのようだ。
僕が好きだったあの頃のままだ。
話にたまに出てくる僕が、そこまで彼女の運命にかかわっているとは思わないが、あの卒業の日二人がちゃんと話せた事を知って少しホッとした気持ちになった。

「店員さん」
「はい」
「店員さん、私とどっかでお会いした事ありますか?」
「……」

葉桜は話を終えて、改めて見た僕の顔、その面影に感づいたのだろう。
でも僕は、それを答えるにはまだ早いだろうと、口を閉じる。
物語は、思い出から本質へ。
無理に変わろうとする流れを断ち切り、僕は葉桜に聞いた。

「この携帯……もう電波がたってないですね」
「3年前に契約を切りました」
「なのに、4日前までメールの未送信履歴がある」
「……はい」
「話してくれますか?」

彼女は、再び切ない表情を浮かべ、頷いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――


あの後……。
先輩が海外へ行ってしまって。
見送りにも行ってはいないのに、遠ざかっていく金城先輩を感じて私は一人、部屋で泣いていました。
寂しくて死ぬ病気があったら、簡単に死んでしまいしまいそうな思いでした。
そして約半年後、先輩の家は取り壊された。
何一つ残っていないような気持ちになって、この世の中に私一人だけ心をもっていないような気持ちになった。親友と言える友達はもちろんいたのだけれど、結局、心は通じているものではなかった。

持ち去っていった心は元気にしていますか?
そんなことを思いながら見上げる空はいつも蒼かった。
中学を私は卒業して、高校へとあがる。
先輩からの手紙も、手がかりも連絡の取り方もまだ無い。
高校になって携帯電話を買った。
先輩からの手紙は、まだ来ない。
高校2年になって、心を取り戻そうと金城先輩を断ち切るために彼氏を作った。
逃避の恋愛は、4日と……持たなかった。
高校3年になって、携帯電話を新しくした。
3年もたっているのに新品のように艶めく携帯には、約3年分のメッセージが残っていた。
あたらしい携帯と一緒に持ち歩くようになった。
大学1年になった。名門ではないけれど、希望する分野に進学できた。
古い携帯には、4年分のメッセージが綴られていた。

「ねえ。葉桜さんって、いつもメールしてるよね? 彼氏いるの」
「え? ぁ……ぅん」
「えー、どんなひとー? メール見せてよ」
「だ、だめ」

友人についた嘘は、自分にも突き刺さった。
それまであて先の無かった、送る宛てのないメッセージのあて先に、先輩の名前だけを綴った。
たった300件しか入らないメール履歴が次々と更新されていく。
おおよそ、一年分も入らない携帯電話の履歴にある隠された1000件近い独り言が、送り先を求めた。
われながらネチネチとした人生だ。それでも寂しい気持ちが次々と消えて行き、300件以上にならないことを私は嬉しくも感じた。
そして、長かった一人の大学生活が終わろうとしている時。
エアメールが凪先輩に届いた。凪先輩は学校に連絡をし、私にそれを郵送してくれた。
それを知ったのは後の事だったが、凪先輩が入れ替え送ってくれた郵便物は、紛れも無く金城先輩のものだった。
書かれていたのは、パソコンのメールアドレス。8年後に届いたそれは、深く私を傷つけた。
あとは、4枚の手紙。約束を破った事に対する謝罪の手紙だった。そして……。

『この度、現地の人と結婚をすることになりました』

取り巻く人たちに対する感謝の言葉と報告だった。
わかってた……。
ずっと。ずっとずっと、こうなるんだろうなって。
ひどい人だなって思うことにしたけど、それも無理だった……。
決着ついていたんだ。あの日に。
それでも忘れられないのは……彼を忘れられないのは……。

「うぅぅ……先輩……会いたいよ」

会って、文句のひとつでも言って、そしておめでとうって叫んでやりたかった。
私に残ったものは大きい。
それはきっと、地球よりも重く宇宙より軽い。
携帯電話に残されたメッセージの件名をそのアドレスに変えてみたけど、送れない。
送ったら伝わるだろうか、わたしがずっと先輩を求めていた事。
惨めで見てられないね……かわいくないね、私は。

そして私は、決別すると決めた。
この重たい携帯を手放して、さようならと言えれば、もうひとつの携帯で金城先輩におめでとうとメッセージが送れるような気がするから。

――ねぇ……先輩……結婚する人は綺麗な人ですか?
――ねぇ……もしも、日本に居たら私を選んでくれましたか?

思い出をそのままに。
大切な気持ちを大切なお金に。
別れに値段をつけて買い取ります……ディアール。
雑貨買取専門店 Price parting.


続く→第33話へ【届きますように】
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