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【別れの値段】31

第31話【バイバイ】


−−最近ね……思う事があるの

楽しかった一日は、絶対に戻ってこなくて。
もういいやって何かをあきらめると二度とそれに結びつく事が無い様な気がする。
この一年が金城先輩にとっては最後の中学生活で。
それは同時にわたしにとっても最後の中学生活なんだ。
朝礼で、校長先生から金城先輩がまた英検準一級の表彰を受け取る。
まだ一年半しか中学生活を送っていないのに、それは見慣れた光景になっていて、鳴る拍手も疎らだ。

「せんぱい!」
「ぉ。葉桜君」
「表彰おめでとうございます!」
「うん。ありがとう」

せっかく出会った廊下で、先に歩き出してしまう先輩。
その背中を追う事すらできなくて、部活の時間をただ待つ。
一番近くに居るはずなのに。一番遠くに居る気がする……。
厚手のコートがなびく。2年の秋。金城先輩はすでに進路を確定していて、水曜日以外の日は必ず部活に顔を出した。
どこの高校にいくんだろう……すごくそれが気になる。
私はその日、部活が無い水曜日なのを忘れて、文芸部部室で一人本を読んでいた。
ストーブに焼けた目の前のぞうきんがひしゃげて、ふと気がつく。

−−そっか……今日水曜日だ

私は、バックに読んでいた小説をいれて部室を閉める。
この部室に、来れるのもあと半年だ。先輩と会えるのはもっともっと少ない。
下駄箱にいくと手紙が入っていた。
呼び出しのてがみだ。ひらいてみるとラブレターだった。

“校舎裏でまってます。葉桜さんへ  −−2年 小金沢 学”

それをクラスの子に見られてあわてて手紙を隠す。
初めてだった。そういうことに一人で行ったりするのは怖いけれど、手紙には名前も書いてあったから
そして私の知っているひと。友達とまでは言わないまでも私とよく目の会う人だった。
こんなこというとひどい女かもしれないのだけれど、私は自分の気持ちが言える場所を求めていたのかもしれない。
校舎裏につくと、小金沢君が待っていて、私がきたときとても嬉しそうに笑った。
距離を確認して、校舎の角から人の目に見えるところで、私は彼を振った。

「わたしね、好きな“先輩”がいるの。だからごめんなさい」

その時、頭のなかにある先輩に告白した様な気持ちになった。
言える様な気がしたの。本人にもちゃんと伝えれる様な勇気を小金沢君からもらった気がした。
私はひどい女かもしれない。それでも……もう、押さえられないくらい気持ちが溢れてる。
この日って決めてた。告白するのはこの日だって。
去年、金城先輩にだけ渡せなかったバレンタインデーの前日。2月13日。
私は、金城先輩を部室に呼び出した。

聞きたい事が、知りたい事がやまほどある。
伝えたい事が、夢がたくさんある。言えなかった気持ち、一番大切にしてきた思い。
それは一緒に過ごした部活の時間と一緒に、読んだ物語の数だけ私に積み重なってる。
卒業式は近い。またあの頃の、あのキラキラ輝いていた時期だ。
この日を逃したら、一生後悔する。

−−先輩……どうか、どうか私を一人きりにしないで……ください

チョコが歪んだのは涙のせいだ。うまく形にならなかったハートのチョコ。
今年は、たった一つ。それだけしかつくっていない。
そして、2月13日。
私は、放課後、気合いを込めて部室のドアを開く。

−−え!?

「ぁ……」

そこにいたのは、二人。同じクラスの柚木くんだ。
金城先輩とふたりきり。
わたしは、かばんを持つ手をつよく握りしめていた。後ろから押されたのにその直後後ろ手に引っ張られたかのような、状況がわからない状態だった。してはいけないのに……とりあえずいつもを装ってしまった。

「……あ、あれ? 柚木君もいる……どうしたの?」
「……」

柚木君は黙ったまま。柚木君はこういう人じゃない。明らかにおかしい。

「葉桜くん、こっちに」
「はい」

座った位置は、いつもの席。先輩のすわる位置の斜め向かい。
気まずい……だれも話さない沈黙。

−−なんでこうなるの……

そんな中、金城先輩が私に言う。

「葉桜くん。そういえば大事な話があるって話だったけれど」
「あ、えっと……」

私は、どうしたらいいかわからなくなって、ちらちらと柚木君の存在を確かめる。

−−言えないよ……先輩と二人きりじゃないと……言えないよ

なんだか、ものすごい表情で先輩を睨みつけている柚木君。きっと。何かあったんだ。
それを和ますように金城先輩は言う。

「二人とも怖い顔するなよ。実はさ、俺も葉桜くんに大事な話があったんだ」

金城先輩は、そう言うとライトノベル的な物語を持って話を続けた。

「この本は、いい話だ。とても心が温まる共感しやすい本だ。主人公は旅をして世界中をめぐり見たことの無い世界をあるき、成長していく話でね」

話の途中、柚木君が立ち上がり帰ろうとした。
きっと察してくれたんだ。でも、金城先輩はそれをさせない。

「逃げるなよ。居てくれ」

そう言われ、柚木君が座り直す。

−−ほんとに、いったいどうしちゃったの? 二人とも

この場所にいるのが怖い。私は、腫れ物を触るように静かに聞く。

「先輩……どうしたんですか?」
「……ああ、そうだよね。悪い、葉桜君」
 
それから、しばらくして私はきく耳を疑った。
金城先輩が行った言葉。

「葉桜さん。俺……卒業したら海外に行くんだ」
「え……」
「今まで楽しかった。可愛い後輩ができて、部員は葉桜一人だったが毎日の部活が楽しかった。感謝してる……ほんとうに」
「せ、先輩?!……海外って、いつまでですか?」

自我を失って私は怒鳴るように金城先輩に聞いた。

「俺はね、世界中をまわりたいんだ。きっかけは親父の海外出張だったが、母親に反対もされたけど、ついて行こうと決めた。卒業式を終えたら、日本とは、さようならだよ……俺はドイツの高校に行く」 

世界中で一番不幸だって思った。そんな事言うのは、おこがましいのはわかる。でも、どうしようもない。

「そう……です……か」

垂れる髪の毛がいまにもこぼれそうな涙を隠した。
好きだった夕暮れの窓際の光が背中に痛々しくあたって、私から温かみを奪っていくみたいに体が震える。
かばんのなかのチョコは……渡す事ができなくて。
必死で書いた、好きですのカードも意味を無くして、文芸部の部室に捨てた。

金城先輩は、卒業式を終えた次の日に飛び立つ。一生会えないかもしれない。
その日、私は部屋中を這う様な大量な涙を流した。
涙に限界なんて存在しなくて、心配するメールも捨てて私は、しばらく学校をやすんだ。

瞳が落ち着き学校に登校してからも、私は文芸部の部室には行かなかった。
もう……二度と会えなかった。部室に影があって、来なくても良い部活動に金城先輩がいるのがわかるのに。
私は、いけなかった。

そして先輩の卒業式当日。
チラチラ映る先輩の姿。なんでこんなに寂しんだろ。
なんでもっと素直になれないんだろう。なんで行かないでって言えないんだろう。
なんで……こんなに好きなんだろう。

遠いまま、卒業式が終わる。
先輩たちはもう帰る時間。
あれから、私と金城先輩は一言も会話をしてない。
金城先輩は下駄箱にいたから、きっとここにはこない。

私は、部室の……先輩のいつも座っていた席の横にいる。

−−ねぇ。先輩?
−−どうした? 葉桜君
−−なんで、私のこと君って呼ぶんですか?
−−友達だからだよ

大きな銅板の机に伏せる。理科室の机は、とても冷ややかだ。
今もそこに居るように、聞こえる。

−−ねぇ。先輩?
−−どうした?
−−先輩の好きな人って……だれですか?
−−・・・・・・

ガラララ!!
突然に開くドア。
飛び起きる私。息を切らして走ってきた金城先輩。

「はぁ……はぁ……」

頬が、腫れてる……? 喧嘩した?……
先輩の顔が殴られたように紅く腫れている。

「葉桜君」
「は、はい!」

−−なんで? 帰ったんじゃないの?

「れは……君が、好きだ」

胸の造花が花開いて、揺れる木漏れ日に桜木の香り。
私は、先輩のその言葉にボロボロ泣いた。
先輩がいるそのドアをじっと見つめて立ったまま、滲む姿と溢れ出てくる涙を止めれない。

「でも、俺は……行かなきゃだめだ」
「はい……」
「でも、俺は、葉桜君の事が好きだっ」
「……はい……」

涙が押さえれない。私も好きだったって言いたい。

「あんなに去年、黙って別れる事を後悔したのに、あんなに辛かったのに、また同じ事した」

金城先輩は、部室へはいる。

「入って良いよな。ここは、俺と葉桜君の場所だから」
「……い……」
「……ごめんな、傷つけて」

捨てたはずのチョコが無い。この部室は基本だれも掃除しないのに。
そっか、先輩がもらってくれたんだ……。
信じられないくらいに流れた涙のせいで言葉がでない。

「言わないって決めてた」
「……」
「このままドイツに居なくなろうって思ってた」
「……」
「でもダメだった! とんでもないバカやろうにぶん殴られて気付いたよ……」

先輩は、私を包み込むようにぎゅっと抱きしめた。

「大事なのは、いつだってここにあった」

先輩の背中を掴んで、私は先輩に言った。

−−負けるな、私……言え……言え!

「私も……大好きです。応援してます。だからきっと……いつかまた……だから」

冬と春の混じ合う乾いた良い風が吹く。
それが流れる涙をきっとちょうど良く気持ちいいものに変えてくれる。
だからきっと、卒業式はこの時期にあるんだ。

−−ちゃんと……行ってらっしゃいって…言え!

「だから……先輩、バイバイ」


――お願い……先輩……それ以上優しくしないで……


続く>32話【送れないメッセージ】
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