スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【別れの値段】28

第28話【ここから見える情景】


こぼれ落ちる涙で言葉がでない……。
変わらないものをずっと求めていて、強く強くそれを望み努力するのに。
私の大事なものは全部無くなる。それが怖いのに……。わかってるのに……。
いつだって私は……大事なところで笑えない……。


−−な、なぎ! てめぇ!

8月21日。猛暑である。

「ぉい! 凪てめぇ! まちやがれ! うぉら!」

ゴガンッ! バササッ!
生徒会のメンバーである安藤先輩が投げた本が宙を飛び、凪先輩の後頭部にものすごい音であたる。
ふざけて進まない図書室整理。総勢12名。文芸部と図書委員・生徒会役員の合同活動である。
気絶するように分厚い図書をぶち当てられた凪部長。
配られた後、奪い取るように安藤先輩の分の差し入れのアイスを食べたらしい。
休憩中、扇風機がまわる室内。私は、それを笑いながら楽しく見ていた。

「くっそー。凪のバカ。俺の分まで食いやがって」
「あはは。良かったら安藤先輩! 私の半分あげます」

食べかけではあるが差し出したアイスだったが、安藤先輩はそういうのに不慣れだったのか照れた様子で

「いいよ。そんなに食い意地はってねぇから、お前食えよ」

といった。

「そ、そうですか……」
「……」

寂しそうに言うと、安藤先輩はありがとな、と頭をぽんと撫でる。素直に嬉しい一瞬。
いくら図書室が冷房完備だからといっても、ほこり立ち籠もるなか閉め切る訳にも行かず、30度近い中、私たちは部活動と称されたボランティアをしている。でもなんだか一冊一冊見ながら本を見ながら整理して行くのは楽しい。消えかかっているラベルを貼り直したり、破れかかっているバーコードをつけなおしたり。のんびりやっているせいもあるが、こういうのは嫌いじゃない。
横で黙々と作業をするひとがいる。金城先輩だ。この人は正直わからない。自己慢心的な部分もあるくせに突如としてクールにきどり、かつ、いきなりバカみたいな事をして場をもりあげたりする。
心の読みづらい部内ではちょっと苦手な先輩だ。凪先輩たちが卒業したら来年はこの人と二人で部活動をするのかと考えると、来年は勧誘をなんとしても頑張りたいと思ってしまう。
何事にもバカバカしそうに振る舞うくせに、一人大人の立場で第三者的なのだ。
心の読めない人は嫌いだ……。

「この本、どうだった?」

いきなり金城先輩に話しかけられる私。変な事を考えていたものだから悟られたのかと焦る。

「え? な、なにがですか?」
「ほら、この本。葉桜君の名前が貸し出しカードにあるからさ」
「ぁ……」

5000を超えるであろう書物のなかで、それを発見されるとなんだか照れる。まだ入学して貸し出しバーコードも作ったばかり。偶然にも興味をもつ題名がかさなったのでしょう。
本は、推理小説。

「そ、それ……私はあんまり」
「そっか。じゃ俺は違うのにしとこかな……」

なんとなく会話も続く方じゃない。
でも、この金城先輩。とにかくモテるらしい。運動神経も悪くはなく、2年トップの秀才。顔もかっこいい為か時々、女の人たちに囲まれていたりするんだ。
そんな感じでしばらく作業をしているわたし。それから30分くらいしてだろうか。
ふと再度金城先輩を見るや、私は初めて素のままにツッコミを入れた。

「えー! なにしてんですか!?」

金城先輩は、普通に先ほど私に感想を聞いた推理小説を片膝たてて、床に座り読んでいる。
かっこいいと思ってしまうくらいに自然に違和感無く本を読んでいた。
すぐさま目を移すに相変わらずあの3人と凪先部長は騒いで走りまわっていて片付けどころではない。
一生懸命作業している私が馬鹿みたいだ。でも賑やかなのってたのしいなっておもう。
ため息をついてその様子をみている私に、金城先輩はにこっと笑って……

「この本、結構おもしろいじゃん」といった。

やっぱりこの先輩たちは言うほど嫌いじゃない。
そう。きっと関わりづらいのは、金城先輩ではなくて私に原因があるのだと思う。
午後4時過ぎた頃。まだ外は明るいが、日差しは近く金色を増す。
だいぶ片付いてきて終わりが見える。重なった蔵書は、図書委員が整理するらしい。

「生徒会の方、文芸部の人たち。ご協力ありがとうございました」
「いえいえ」
「葉桜さん以外はまったくもって来た意味なかったけどな」
「あはは」

暑い中頑張ったご褒美は、事のほか中学生にとってはうれしい図書券1000円分。
さすがに手間のかかる作業のため、図書管理担任からの駄賃がでた。
現金よりも図書券のほうが私は嬉しかったりするのは私が子供だったからかしら。

活動を終えた私たちは、鍵を開けた文芸部の部室へと戻る。
戻るとすぐさま、凪部長は言った。

「さて、みんな! なにかお忘れじゃなかろうか!」
「あー。まじうぜぇ、凪」

冗談まじりに笑いながら話は進む。

「ゆかりちゃんは、浴衣あるか?」
「え? も、もってないです……小学4年生まではありましたけど、もうちっちゃくて」
「ぁぁ。大丈夫、そんな事だろうと俺、持ってきてるよ」

野球部の様な大きなバックを、そう言うと金城先輩は抱えていた。
大きかったから、気にはなっていたのだけれど……
取り出したのはフロシキに丁寧に包まれた一着の浴衣着物。

「あの……これって」
「遅くなったけれど、本日を新入生歓迎会とする! そして〜」

バンッ!
決まり動作のように叩き付けたチラシ。

−−ぁ……。なるほど……そう言う事か……ってそう言えば私浴衣一人で着れないんじゃ……

今日は夏祭り。近くの神社で行われるお釈迦様をまつるお祭りである。

「ぁ……ぇっと! えっー!?」

私は突然にその状況を理解して戸惑う。しかも浴衣って……。着方なんかやっぱりわからないし。
みんなで女私一人で夏祭り!? たどたどしてその浴衣セットをフロシキごと金城先輩から受けとる。
軽く見るや、すごい高そうな浴衣だ……。

「じゃあ、おのおの着替えて7時に麻斑神社でいいか?」
「ちょ! ちょっとまでくだだい」
「ど、どした? ゆかりちゃん」

ぐるぐるまわる思考。まわらない呂律。真っ赤になる顔。そんな中で私は言う。

「あの! わたし浴衣着れないんですよね!」
「……えっと……自分で着た事が? 無い?」
「……はい」

沈黙する一同。さすがに着させてやるとは誰一人言えない。

「だから嬉しいんですけど、素敵な浴衣ですけど……今日は母も帰るの遅いし……だ、だから」

中学生で浴衣着れない事が恥ずかしいなんておもったりしたり、なんかぜんぜん予想だにしていない夜遊びに突然のしシチュエーション+歓迎会……頭が吹っ飛んでしまいそうだった。
そんななか金城先輩が私に言った。

「大丈夫だよ。俺の家においで……問題はない」

その言葉に凪部長も納得する。

「ああ。そうだな。金城君とこなら問題ないか。じゃあ任せる!」

−−問題あるってば!!

といいつつも5時半に待ち合わせをする事に。
時間が迫っていたので、お小遣いをもって髪留めとか幼稚なのしか無いんだけれど、母への書置をして待ち合わせ場所へ行った。金城先輩は既に着ていた。
金城先輩の家に付いてみると、豪邸。部屋の奥にはグランドピアノまである。

「いまから家政婦さんくるからさ。着替え手伝ってもらうように言ったんだ」

なんだか、こういう話あったよね。みすぼらしく舞踏会に着ていくものの無い少女が魔法使いにいろいろされる……。
そう。ほんとうにいろいろされた。
化粧から、どこから持ってきたのか小物。髪のセット。器用な家政婦さんだ。というかどんだけお金がある家なのだろうか……側にいられたら困るのだけれど先輩がそばにいないととても不安なきもちでいっぱいになる。
出来上がりは、見事だった。どうやって髪まとめたんだろうって思うくらいに繊細に。つま先から頭の先まで。
嬉しかった。私の両親は忙しいから、自然とこういうイベントにはあまり参加した経験がないんだ。
金城先輩がそんな私をみるや。

「すごい、可愛いよ」

あまりにもすんなりそんな台詞いうものだから、俯いて顔を真っ赤にしてしまう。
甚平に着替えた金城先輩もまた壮美でかっこ良く見えた。不思議なもので、金城先輩のあの嫌なイメージは分解されたように細かくくだけ散り、優しい言葉だけが残った。

「なんか全部、こんなの初めてで、とても幸せです。ありがとうございます」
「……えーと……ぶ、部長に言われたからだよっ!」
「ありがとうございます! 金城先輩」
「さ、さてと……。いくぞ」

コトコト歩きながら、二人で歩く。
ちらっと見ると足を遅めてくれる。金城先輩がモテる理由が少し遠からずも分かった気がした。
神社の前につくや、先輩たちの声。

「おおお! ゆかりちゃんかわいい! いつもそうしてればいいのに」
「バカ言わないでください」
「金城に変な事されなかったか〜よしよし」

髪を崩さないように撫でるマネをする凪部長。それに冷たく金城先輩はつぶやく。

「この部長、うざいっすね。安藤先輩」
「ああ……奇遇にも俺もそう思っていたところだ」

安藤先輩もまた身長がすらっと高いせいもあり大人っぽくてすごくかっこいい。
ほかの緑川先輩や羽鳥先輩もまた浴衣が似合っている。

「ところで、なんで凪部長だけスーツなんですか?」
「……」

バカな紳士がいる意外はいたって素敵。私は5対1という状況下で優遇されている幸福をまだ理解してはいないし、それはとても居心地の良い部活動として自然と割り切る部分も持っていたのかもしれない。
それからの2時間はとても楽しくて、大げさだけど夢みたいで、小さなお祭りだったんだけどとっても嬉しかった。

中学生のお小遣いは高が知れているからそんなに出店をまわる事は無かったけれど。
スーツにソースをかけられた凪部長がものすごいテンションが下がったり、たこ焼きを食べさせあう仲の良い緑川先輩と羽鳥先輩をどきどきして見ちゃったり、安藤先輩がつけた猫の仮面がすごく可愛かったり笑ってばかりで時間はすぎた。
そして最後に見上げた花火を見てる時、打ち上がる夏の楽しさを惜しみながら無意識に私は……。
その情景を見つめながら。隣で見ていた金城先輩の手を何気なく掴んだ。



続く:第29話へ 【泣くのは一緒に二人きり】




スポンサーサイト

✬❀ランキング参加中❀✬

メールフォーム

プロフィール

カテゴリ

最新コメント

見にきてくれた人の数

リンク

最新記事

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。