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【別れの値段】4話:聞いてもらえますか?

「お兄さん、お茶でもいかがですか?」

立ち呆ける僕に店員の女の子は可愛い黄色のマグカップに緑茶を注いでレジの横の机に置いた。
疲れていたのだろうか。僕は言われるままにその机に向かうと折りたたみの椅子を彼女は添えてくれた。

「いただきます」
「……どうぞ」

たぶん、4、5分間のこと。静まり返った店内でコチコチとなる時計の秒針と石油ストーブの上に置かれたやかんが、カチカチ鳴って緑茶は少し苦めに感じた。
店員は、レジで本を読んでいる。

「店員さんの名前……なんていうんですか?」

僕は、彼女に名前を聞いた。
彼女はそっとレジ台に本を置いて立ち上がる。

「峰草 千佳といいます」
「千佳ちゃんか……ありがとう……すごくお茶おいしいです」

そういうと千佳はまたニコッと笑って

「よかった。お菓子もあるんですっ」

と嬉しそうに袋詰めされた甘食を2個机に置いた。
時計の秒針の音を感じて、こんなに時間がゆっくり流れていることに正直びっくりした。
マグカップに緑茶。普段の僕なら暇を持て余して寝てしまいかねない時間だ。

曇ったガラス窓を伝う雫汗と
残り少ない石油が燃えたときの独特の匂いが
その場の空気に震えた。

「あ、ランプついちゃった。石油足してきますね」

千佳はそういうと石油ストーブの石油缶を取り出し奥へと入っていった。
僕はそっと目を閉じて……すーっとすきま風で涼しくなる感覚を感じながら寝てしまった。
癒されるとはこういうことを言うのか、それともただ寂しいだけだったのか。
自分でもわからない。

カランカラン

ドアの開く音に僕は驚き起きる。

「やばっ、寝ちった…」

目の前のお茶は暖かく入れかえられていて、驚いた僕の肩から薄手のブランケットがすべり落ちた。
どうやら、寝伏せていた僕をそのままにしてくれたらしい。

「起きちゃいました? やっぱ変えようかな。このドア鈴、うるさくて」
「毛布ありがと。俺、だいぶ寝ちゃったみたいで」

僕はブランケットをたたみ直し、机に置いた。

「気持ちよさそうに寝てましたよ、疲れてたんだぁ。きっと」
「いや……つい気持ちよくて」
「お互い様ですね、今日は。あはは」

よく笑う可愛いこだなぁって思う。はじめてあった客にここまで優しいのはある意味、罪だ。
時計を見ると、すでに7時少し前だった。

「あ、この店、何時までですか? もぅこんな時間だ」
「大丈夫です。営業時間適当なんです。でもそろそろご飯にしなきゃですね」

そういわれて、タイミングよくお腹のなった僕が顔を赤らめると千佳はまた笑った。

「じゃあそろそろ」
「はい、またお越しください」
「また来ます」


僕は、その日店を出た。
家に帰ると少し心が落ち着いたような気分だった。
新しい恋、出会いにすこし希望が沸いたのか、自分でもドキドキの納まらない夜だった。
一日あけて、次の日その次の日と、何度か僕はその雑貨屋に足を運んだが店はやっていない様子だった。

――居る日くらい聞いておくべきだったか……

と、後悔の念が残る。また来ようと店のドアから車へ向かおうとしたとき。後ろから声がして
僕はすぐに振り返る。

「あ、この前のお兄さんだ。いらっしゃい」

店員の彼女だ。千佳である。

「今、店開けますよ」
「え。今日店やるの?」
「暇だから裏庭のお花にお水あげてたんです」

時間は午後4時を回る。今から開店する店ってのはどんな店なんだとツッコミを入れたくなる緩さだ。
千佳は店のドアを開け、盾看板を外へ出して店の電灯をつける。

「ささ。どうぞ」

招かれていいものかとも思ったがやっぱり嬉しい。

「今日は、どういったご用件ですか?」

この前と同じマグカップに彼女はココアを注ぎ机に置く。折りたたみの椅子はとてもひんやりしていて
まだ外も明るいせいか、楽しげな店内に見えた。この前着たときとは印象が違うもんだと思った。

「な、なんとなくです」
「ふふ。どうぞ」
「いただきます」

甘いココアが体を温めた。

「あー! そうだ!」

突然千佳は何かを思い出して叫ぶ。

「どしたの?」
「すみません! わたし、今日用事あったんだ」
「え! じゃ、じゃあ俺帰るよ」
「ああ。大丈夫です! ちょっとしばらく留守番お願いしていいですか? おねがいしますー」

そういうと、千佳はどたばたと店の奥から工具やらバケツやらを取り出して、店を出て行った。
僕も留守番といわれて動揺したが、そうそう客も来そうにない。客が来たところでこのいまいちわからないシステムの店だ。留守番なんか勤まるはずがないのだ。でも、そんなことを言う隙をあたえなかった千佳は僕一人店に残し、出て行ってしまった。

一人になるとちょっと不気味だ。
チッチッチと音を鳴らしストーブに火がつくと店内はあっという間にこの前の雰囲気に変わった。

目に付く指輪の数々、プリクラシールの張られた財布に、携帯電話。
眺めていると、あらためて僕は一人なのだと思い知らされた。
おとといつけていた指輪は財布の中だ。つけずとも持ち歩く僕はまだ新しい一歩を歩めてはいない。

カランカラン

ドアを開く音。
まさかとは思ったがお客である。タイミングの悪いことこの上なし。
ため息一つ吐いて、僕は留守番をかってでる。

「いらっしゃいませ」

入ってきたのは、まだ若い女性だ。

「あの~これなんですけど」
「は、はい!?」

僕に話しかける女の人。店員ではない動揺を隠せない僕に
その女性は、バックからあるものを取り出し机に置いた。
千佳が外へ飛び出してからまだ10分そこらだ。
まず、今すぐ帰ってくることは無いだろう。

「これ……指輪、売りたいんですけど」

よくよく考えてみると当たり前。そういう人間の来る店だということだけはわかってた。
いくら客が来ないとはいえ、ここは雑貨屋。いくら留守番を任されたと言っても、ここは正直に。

「あ……俺、ここの人じゃなくて、留守番頼まれてるだけで……」

僕は、その女の人を改めて見ながら事情を話す。
すると、その人は指輪握りしめながら、静かに泣く。
その人もなにか事情があるようで……

「あ……すみ……すみません、もぅ私……」

この何とも言いようのない状況に僕は居たたまれなる。
しかし逃げ場の無い状況だ。僕は彼女を見つめているうちに、自然と言葉を発していた。

「なにかあったんですか?」

ぽろぽろと涙を落としその彼女はその場に立ったままだ。
顔の化粧も少しアンバランスに崩れて目元は真っ赤に腫れている。

「わ、私……か、彼にフラれて……お前、重いって……」

言葉もよく言い出せずに途切れ途切れの言葉。さらに涙は速度を速め、その場に座りこんでは大泣きをする女。

「重いか……それはひどいですね」

同情の一言だったが哀れむように僕は彼女を上から見つめ、今彼女の置かれている状況。
なぜ泣いているのか。
ここへ何しにきたのかがなんとなくだけど分かった。
今この人は、助けを求めている。
ついこの前のそのことを僕に思い出させようとしていた。

なんだか、代わりに泣いてくれているようなそんな感覚。
一緒に泣いてもいいような気持ちになった。
涙が僕にも直接流れ込んでくるように思えたんだ。

「恋が重いって感じるのは、その彼が満たされているからだよ……な」

間違いなく衝動的な怒りだろう。
第一衝動でこんなもん売ってやる!って気持ちでこの店に来たのだろう。
でも、売ろうとしてる張り詰めているものが手放すことができない今。
ただ捨てることもできずに。
まとわり付いてくる感情があたかも抑えきれず溢れ出して
泣いたのだろう。

「あのさ、俺は店員じゃないけど……その指輪は買い取ってあげられないけど……」

女の涙に弱いのは男だからかな。今に僕には話を聞くくらいしかできないから

「話くらいなら聞けますよ。少しでもあなたの気が楽になるのなら」
「ほ、ほんとです……ですか……聞いて……聞いてもらえますか」

何度も鼻をすすり泣く彼女が僕は放っておけなかったのだ。僕は彼女を椅子に座らせ、目の前にレジの椅子をおいて、座った。
そしてしばらく分を刻んだ後、出る涙も落ち着いたのか彼女は僕に思い出を話したのだ。


続く:第5話“好き過ぎた彼を想う”
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