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【別れの値段】3話:こんな店…あったんだ

その日は、何もすることができなくてずっとベット上にいた。
もぅ、なにも考えてはいないのだけど頭の中がごちゃごちゃだった。
過去未来すべてを変えられやしないかと駄々をこねて、何もせずに時間は過ぎた。

あっというまに彼女の居ない一週間が過ぎて、初めて訪れた一人の休日。
やることが見つからなくて意味もなく車を動かして、いままでは音がうるさくて彼女が嫌がるので行かなかったゲームセンターやパチンコに行っては、ただ眺めるだけで店を出たり、近所のコンビニや飲食店の駐車場で時間をつぶした。

そして夕暮れ時。嬉しいくらいに早く日が沈む日本の冬にホッとしながらも
軽く辺りを適当にドライブをしていたとき。
いつもは通らないわき道を抜けた狭い道の途中だろうか、僕は見慣れない小さい雑貨屋を見つけた。

「こんな店……があったんだ……」

近所の散策などはもう4、5年はしていなかったし、彼女ができてからは地元の友達と遊ぶことも少なくなったせいもあり、こういうローカルで古めの店に目を向けることはない。まして普段洒落っ気のない男が来るような店ではないだろう。でも、雑貨屋なのに中に人の気配はなくてあったかそうなモダンな雰囲気の店内にすこし興味が沸いて入ってみることに決めた。本当に間がさしたのだ。

早々と橙に灯っている入り口の電球が少し暖かい。
雑貨屋と書かれた立て看板に小さく英語で【separation】と書かれている。

「セパレーション? ……どういう意味だっけか……離脱?」

そんな一人事をいいながら僕は店のドアを開けた。

カランカラン

貝で出来ているドア鈴が、から鳴る。
佇まいは妙に綺麗で、できたばっかりなのかと思うくらいに店内も鮮やかに品物が並べているようである。
ストーブの石油の香り。すごく落ち着く好きな匂いだ。
店の窓には店の中に入って初めて読める客寄せチラシ。結構な枚数が貼ってある。

――普通さ、外に見えるように貼るんじゃねぇのか……こういうのって……

小さなため息をついて苦笑。
やはり客は居る様子はない。僕一人だ。有線の曲一つかかっておらずひどく静かだ。
それどころか店員も姿も見えなく、いらっしゃいませの一声すら聞こえなかった。

【チラシ:雑貨買います。あなたの思い出を大切なお金に】

どうやら中古商品を扱う雑貨屋らしい。
チラシは、そこら中の窓に張られていて、その貼り方がまたすごい雑である。
誰も居ないこともあってかひどく居づらさを感じる。盗みに入った泥棒の様な感覚。僕はおそるおそる奥へとはいり、店内を見渡す。
雑貨屋なんて誰かへのプレゼントという目的がなければ一人で入らなかったし、今の僕にはとても不釣合な場所である。まじめに考えるとおもしろい。
少し店内を眺めて帰るかと思ったとき、居ないと思っていたレジに一人の女性が居た。

20代前半だろうか。後ろに髪を束ね椅子に座って俯いている姿がやけに小さく感じる。
小説だろうか手に抱えたまま、どうやら寝ている様子。

「あ、あの……」
「ぎゃ! す、すみません!」

何気なく僕が呼びかけるとその人は寝ていたのかすぐ飛び起き、僕の顔を見る間もなく深々とお辞儀をした。
その動作に驚いた僕もなんだか笑ってしまって。

「お休みのところすみません、店内を見て居てもいいっすか?」
「どうぞ、すみません。わたし本読んでたら寝てたみたいで……」
「あはは」
「ご、ご案内しますか? 男性が来るのはめずらしいので、やだ…わたしったら…」
「大丈夫。ちょっと立ち寄っただけなので」

余程びっくりさせてしまったのか、顔を真っ赤にしながらその子は立ち上がったままだ。
その店員の行動が少しドジっぽくて、可愛くて僕も照れくさくなった。
店内は想像していたよりも奥行きがあり広い。声が響くのは、窓が少ないからだろうか。
机、棚に置かれているものは、圧倒的にペアものが多く、婚約指輪まで立ち並ぶ。少し月日が経ち褪せているようなものが多く見られ、シャネルにヴィトン、贈り物の定番だ。でも置かれている商品に値段は……いっさい書かれていない。
いろいろ手にとり眺めているのは面白いがそういうのところは謎である。
すると先ほどの店員がトントンとリズム良く僕に近寄り言った。

「お客様、なにかお売りになりますか?」
「え、いや……」

僕は彼女が予想以上に近い距離で僕に話しかけたものだから、恥ずかしくて少し距離をとって竦む。
当然売りにきたわけではない。でも、値札は無い雑貨や、客になにか売却を望んでいる時点で、興味が沸くほどに不思議な店だ。

「ここにあるものはいくらなんですか?」

すると店員さんはこう答える。

「売れるものはありません。ここはお客様の思い出を買うお店なんですよ」
「思い出を買う? 買い専門?」
「はい。良ければあなたの大切な思い出にも値段を付けますよ」

店員は優しく笑ってみせる。
軽く目を瞑った表情は予想以上に整った顔に見え、美人というか笑顔になると可愛くパワーアップするようなそんなタイプの女の人、人慣っこい愛想のいい店員だ。
その言葉は天然の女の子の発するただの冗談とも思えるほど、当の本人は笑顔が小悪魔的に可愛い。
その店員はじっと黙って顔を見つめ惚ける僕の全身をきょろきょろと眺めている。

「お客様のしているこの時計は?どこで?」
「えっと、この時計?」

我に返り、自分の腕時計を見る
就職祝いに自分で買った時計だ。さすがは中古雑貨屋というところか目の付け所は悪くはない。

「これは、就職祝いで自分で買った時計だよ」
「元の値段はおいくらですか?」
「8万くらいかな……? 高く買い取ってくれるのか?」
「就職祝い……ほかに特別な思い出、思い入れはありますか?」

僕はその問いに思わず……

「は? いや、無いけど」
「では、それは価値が無いものですね」

それなりの高級時計のはずだが無造作に価値がないと言われた。
思い出? なぜそんなことを聞くのだろう……売り文句にでもしたいのだろうか。
黙る僕に、店員は突然僕の手をにぎり、先ほどと同じように言った。

「その指輪はどうですか?」
「これは……ただの指輪だよ、あくまでペアリングだし刻印も入っているし価値はないよ」
「なんか素敵。それにはどんな思い出が?」

また思い出……。
思い出が無いはず無いじゃないか……。
全部別れた彼女とつながる未練あるものなんだ。

「思い出なんか聞いてどうなるんすか……」
「この店では思い出にこそ値段がつくんです。ここはそういうお店です」
「思い出に価値? 高くなるんですか?」
「はい。思い出は値段を付けられないと人は言います。それは値段を付けられる側にしかわからない特別な気持ちがあるから。本来、ブランドだからとか貴重品だとかそういうものは思い出がついた時点で変わってしまうんです……あなたは、魅力的なものをたくさん持っていますね。本当にどれかお売りになりますか?」

寂しそうな表情で僕の指輪を見つめて彼女はそういった。
なんだか不思議でいままで感じたことの無い独特の空気だ。
身に付けているものを指差しては、思い出を聞いてくる変な店というところである。
そこに働く店員は、あたかも指差すそれが僕と彼女の思い出の品であるのを知っているかのように興味を持ち、それにこもる思い出を聞きたがる。

「この指輪は……さ……」
「はい」
「この指輪は、付き合ってた彼女に……あっ……」

ハッと思わず思い出を語りそうになった自分に歯止めをかけて店員の彼女から手を引くと、あらためて僕は指輪を静かに眺めた。

――そっか……
――この指輪はもうつける必要ないんだよな

気が付かないうちにまたすごく切ない表情を浮かべていたんだと思う。
それに気が付いたのか、はたまた察したのか。
店員はフッと笑って何も言わず静かに奥にあるレジへと戻るのであった。
その場に立つ僕は、もうどうしたらいいのか分からなくなった。

肩から下げたバック、ボロボロって言われて一緒に買いに行った新しい靴。
無メーカーだけど使いやすい財布に、車の鍵についたキーホルダー。
お揃いの携帯ストラップ、時計に、指輪、ジャケットに、香水まで。

彼女との思い出を僕は捨てきれずにあるんだと実感した。
大切すぎたものが全身にある。
とたんに興味をなくしたかのように店員は僕のほうを見ることはやめたのもわかる。

――そうなんだ
――僕はこの思い出をまだ過去の思い出として片付けてはいない
――捨てることも……ましてや売ることなんてできないよな……売れるわけ無いんだ……

売ってくれない客には、興味はない。
そういう店員の雰囲気を僕は少しだけ苦く感じると同時に、正直わからないことだらけだったけれど、ここは僕の居るところじゃないような気がして、店内が少し居づらい空気に変わったんだ。



続く:第4話“聞いてもらえますか?”
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