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別れの値段を清書し、FC2小説にUPしていきます。

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【別れの値段】最終話

第43話【心から湧き出た涙のいずみ】




心が、これからどうすればいいのだろうと、行き場を探しまわる。
いずみの部屋に入ったのは小学校の卒業式以来の事となる。
僕に、諸田さんが後ろから近づき話しかけた。

「不思議だろう? まるで、居なくなることがわかっていたように綺麗なんだ……」

シンセサイザーの上に置かれたランドセルが二つ。
いつのまにか無くなっていたあのランドセル。
そういえば、小学校の卒業式にいずみが捨てるなら頂戴といって僕のをそのまま持っていったんだった。

「はは、思ったより綺麗だったんだな……ランドセルって」

もっとボロボロだと思っていた。
荒く使い込んだランドセルは、あの頃の傷を今もまだ綺麗に残している。
となりには、並んでとった写真。写真の僕はめんどくさそうな顔をして下を向いている。
写真の中のいずみは、僕よりも身長がすこし高くて、嬉しそうにカメラをまっすぐ見つめて僕の手を握っていた。
いずみは、日記をつけるような女ではない。といっては失礼か……。
あまり手紙を書くような女ではないのだ。大事にいろんなものを取っておくようなタイプでもない。
そのためか、やたらといずみの部屋には物が少なかった。このあたりは、子供の頃と変わらない。
文芸で使う本や毛糸、ミシンなどが綺麗に部屋の隅に置かれていて、机はたためるタイプのもので脚を折って窓の下に。クローゼットには、洋服や化粧箱。まったく、可愛げのないシンプルな部屋だ。
そのため、ひどくランドセルと、写真立が目立ってしまう。

後ろで洋服を箱にまとめなおしていた諸田さんが声をあげた。

「ん? なんだこれ」

諸田さんが取り出したのは、クッキーとかが良く入っているような四角い缶。
あけてみると、写真だらけの中に、3枚の手紙が含まれていた。
手紙の封筒の宛名は、僕宛だった。僕は諸田さんからそれを受け取り読んだ。

『拓也へ……』

いまだかつていずみから、手紙をもらった事はない。メモ書きや交換ノートなどをしたことはあるが、丁寧に宛先を書いた文書など受け取った事はないのだ。

『拓也へ。心をこめて作ってみました』

……。一通目に描かれていた文字はそれだけだった。
二通目の手紙を開く。

『去年は、チロルチョコでごめんね……今年は頑張って作ってみたの。葉桜さんのよりきっと美味しいよ』

……。二通目の内容で想像できた。
これは、きっと僕に渡すことができなかった気持ちだ。
2通目を優しく折りなおし、最後の手紙の封をあける。

『……言えない気持ちを文章にしかできない私は臆病です。でも、怖いの。拓也に彼女ができるたびに苦しくて、だから、こうして手紙にいやな気持ちを書いてしまうことを許してください。』

3通目は、いずみの心そのものだった。

『……私は、拓也のことが好きみたいです。ずっと……好きだったみたいです。拓也のお嫁さんになりたいって思っています。私は、顔が可愛くなくて人見知りで、地味で足も短くて……何一つとして拓也に吊り合っている部分がないの。子供ができても可愛くない遺伝子が受け継がれるかもしれません……でもやっぱり、どうしても離れたくないの』

手紙の文字が歪んで乾いたように収縮している。涙のあとだろうか。

『……たとえ、拓也が遠くに行ってしまっても』

――離れていったのは……お前じゃないか……

『たとえ、世界が滅んでも、私は拓也のことが好きだよ』

――返事が……いずみのもとに返事を届けたい

僕は心のそこから湧き出る涙を流した。いずみが死んで……やっと流せた涙。
それはいずみの死を悲しむ気持ちも含んだ、遅すぎた悔し涙。
ゼロ距離のものが一瞬で跡形も無くなったことがやっと自分で実感してわかった。
手紙を震えるように握り締め、えずくように泣く。
流れた涙が地を這いずりまわる。
どうか許してくれないか。だれか助けてくれないか……。
彼女を不幸にしたまま逝かせた僕をだれか責めてくれないか……。

千佳さん……おふくろ……葉桜……先輩……。
おやじ……あにき……諸田さん……。

「諸田さん……俺だけだった……俺だけしかいずみを幸せにしてあげることができなかった……」

諸田さんが、僕の頭を大事そうにその腕で包み込んだ。

「ありがとな……泣いてくれてありがとう」

つられるように諸田さんも泣いていた。
本当にこの悲しみは幾日かが過ぎたときに静まるのだろうか。
今は、ただ泣く事が許される場所でいずみの事を想っていたい……。


------------------------


最終話【別れの値段】



僕が、あの店を再度訪れたのは、あの日からだいぶ、日が経ってからの事。
まだいずみが死んだ事を引きずっている。
千佳は、電話で、その事をわかってくれて、“無理しないでいいから”と言ってくれた。
かといって放置し続けるほど僕も廃れていない。
いずみの事があって、千佳に対する覚醒し始めていたはずの猛烈な恋がやんわりと息を潜めた。

僕が、こういう気持ちのときに、だれかに対して優しくしたくなるのは、きっと優しくされたからだろう。
あのときの癒しが、結びつくように僕に求め言う。
人は辛いときに心を開放する場所を探す生き物だと。

カランカラン。
店のドアが開く。あけたのは僕。鼻で小さくため息を吐いて静かに入店する。
そこは、安らかな場所。

辛い気持ち、嫌な気持ち、幸せな気持ち、哀しい気持ちの形ずく場所。

「おかえり、拓也君」
「ただいま……千佳さん」

僕にとって安らげる場所。人に優しくできる場所。

「大丈夫? 拓也君」
「はい。おかげさまで」
「そう……無理しないでね」
「あの……千佳さん」
「ん? どうしたの?」
「あの……この店に僕より辛い別れをした人はここにいつかやってくるかな?」

黙ったまま千佳は、いつものようにミルクの多いコーヒーを入れ、それを机において、椅子を引く。

「座って。拓也君……」

僕は、ひかれた椅子に座りコーヒーのふちをなぞるように視線を千佳へ。
あの時、初めてこの店にきた時とは違う。気持ちの誤作動が不安定にその異常を警告する。
千佳には、電話で幼馴染が事故にあって傷心しているのでバイトを休むとしか伝えていなかったのに。
千佳は目が会うとすべてをわかっているかのように優しく微笑み、言った。

「きっと、拓也君が感じた別れは、だれのものよりも悲しいよ……」
「……」
「同じで……みんなも、私の辛さもだれのものよりも大きい……」
「はい……」

――あなたの別れの思い出の品に“値段”をつけます。

今の僕の価値観はきっと、前よりも深い。
誰と比べるものではないことをきっと心の中で理解しているつもりでも共感できるか不安だ。
それでも、ここに別れを売りに来る人は不思議と絶えない。

「もし、拓也君のその別れに納得がいく値段を自分でつけることができて……」
「……」
「……拓也君がその辛さを少しだけでも忘れることができたら、デート……しよっ」

小さい子を慰めるように千佳は言う。それが僕にはかき集めたくなるほどの優しいの欠片だった。
僕は、ふふっと笑い千佳に言う。

「今の俺、冗談で聞き流せないですよ? そういうの」
「うん……いつか一緒に」
「あー!!! 辛い! 重い! 心って重いよ、千佳さん」
「ふふ……今日はずっと聞いてあげる。話してくれますか? その“心”の思い出を……」

そのあとの事だが、珍しく千佳は僕がいなかった期間を指して“寂しかった”とぽつり言葉にした。
それから、僕は大学を卒業して就職をする。たった3ヶ月の事。
就職してからも、さまざまな人と出会い、様々な恋や話を聞く。
休日に、暇をとって続けている不思議なお店のアルバイトは、僕にとって大事な心との出会いの場所。

別れの値段をつけることができない僕は、辛さを忘れるために辛さを求める。

開放される悲しみを他人に求めるのは到底無理であり、卑怯かもしれない。

でもさ世の中さ……辛い事があるとだれでもいいからわかって欲しくなるだろう。

だれでもいいから、一緒に泣いて欲しかったり。

うんうん。ってそばで頷いて聞いてくれる人がいるだけで救われたりさ。

すごくすごく別れは誰かを求めていて……けして離れる事はない。

心に残った一番大切な想い

あなたがとても辛い気持ちになったとき……もしもこんなお店が近くにあったのなら。

あなたは何からの“救い”を求めにいくのでしょうか……。

伝えたいのはどうにもならなくなった希望。叶わない夢。自分の価値観と天秤。

どうする事もできないと分かち合うのは人の作り出した美しい言葉。

価値の無い過去はない。

あなたがどれだけそれを大事に自分で保っていられるか……それだけなのかもしれない。

あるんだ。形は違うけれどみんなにも。

お金よりも大事なもの……自分にもそれがある事……実感できる場所……。

それを僕は……もう少し探してみるつもりだ。

−−あなたの大切な思い出を、大事なお金にしませんか?

カランカラン。
『ここはあなたの別れを買うお店です。』

Price parting……



<完>

【別れの値段】42

第42話へ【「……」】


私の心の中に、いつもいる。
同じ名前のひとを見つけたり、同じしゃべり癖のある人がやたらと心にまとわりついてくる。

――ねぇ。ママ……お母さんはパパをどうやって好きにさせたのかな
――もうすこし、大人になったらママと似てる顔になるだろうか

大学2年で事務の資格を取り、大学を卒業して、私は就職をした。
私は、がむしゃらにペンを持ち続け、一人でお金をもらうための修行をし、今にあたる。
友人は、少なくは無い。でも距離がある友人ばかりだ。+アルファにしかなれない上辺だけの位置にいる私は、選んで孤独であり、また繋がる誘いをたびたび断る女でしかない。
大学に行って、帰宅し、家の近くにできた新しいコンビニに行って缶コーヒーを買い、拓也の家の前を通り過ぎて自宅に戻る。
拓也の車がない事を確認して拓也のママに会いに行く。

――なんだか私が拓也を避けているみたい……

電話が鳴る。拓也からの電話。

「はい」
「いずみ?」
「うん」
「今日も遊びに来たんだって?」
「……うん」
「悪い、大学終わってそのままカラオケ行ったりしててさ」
「……彼女と?」
「あーうん。まあ他のヤツもいたけどね」
「そっか。良かったね」

なにが、良かったね。なのか、ちゃんと理解してないまま、切りたくないけど聞きたくない会話が続く。

「今度、お前もくるか? カラオケ」
「行かない。私昔の曲しかわからないから」
「そっか」
「拓也……」
「ん?」
「今度は、拓也も一緒にご飯たべよ?」
「え? あ、ああ」
「おいしいの作ってあげる」
「おお。楽しみにしてるよ」

拓也のその恋は、続いた。今までは3ヶ月ももたない恋だったのに、2年、3年と続くたびに怖くなる。別れないような気がしていた……それを考えると嫌な自分がでてくるの。
見せる相手のいない洋服を一人で買いに行き、鏡の前でその姿を自分で見て泣いた。
やっとわかったの。いままでずーっと誤魔化して嘘をついて閉じ込めていた想い。
愛でも恋でも、辛さでも怖さでも……なんでもなかった。
これは、あの頃、一人で材木工場の空き地で空を見つめていた時の一番嫌だった気持ち。

――“さびしい”だ……

寂しいのに、願ってしまう。
耐えられないのに、想像してしまう。
辛いのに、思い出してしまう。
友達をたくさん作れる人が羨ましい頃の事。
時間を使っていろんなところに遊びに行ける行動力を持った人が羨ましい。
どこかへ一緒に行って笑い合える同じ趣味を持った友人がいる人が羨ましい。
だれにでも尊敬される魅力をもった人が羨ましい。
いくつも羨ましいを感じて生きてきて、いつまでこの劣等感と戦って生きていけばいいのか、そんな息苦しい帳の世界をいつも逃げ出して、楽な生き方を探す私が、こんな事を願うのは都合がいいのはわかっています。
……でも神様は平等に願いを聞いてくれるだろうから、わがままを言うだけの事は許してほしい……。
私が今一番望む事は、私の過去を取り巻く優しい人たちの幸せなんかじゃなかった……。

「すごく痛くなってきたの。……これは、きっと駄目なんでしょう? 神様……」

救急隊員の呼び掛ける声が頭に響く。意識をちゃんと持ってと声がボテボテと落ちる。

――神様、どうか拓也を悲しませないでください

『私のことはもう……いいですから。だから、どうか……私の事で拓也を悲しませないで……一生の……お願い』

救急車が目の前に止まり、テレビで見た事がある白い服の看護婦が私を抱え、ストレッチャーに乗せられる。
長い走馬灯に思い出した記憶。雪の降る冷たさすら感じない。
私は、そのまま眼を瞑った。



---------------------------------------


ズタン!!という音とともに病院の手術中のランプが消えた。
手術は、5時間近くも救命措置と輸血を行った。
事故を起こした加害者は一命を取り留める。

……しかし、いずみは帰らぬ人となった。

これを不幸と言うのなら、世界にどれだけ不幸な人がいるのだろう……。
できる事なら、いますぐ目の前に全員集めてくれないか……。
毎日のようにテレビで流される事故死。加害者と被害者を取り巻く不幸。
これほどに辛い“別れ”があるのかと、僕は今更ながら痛感した。

――ねぇ……拓也

呼ぶ声が聞こえない……。

――ねぇ……出てきてよ

トントンとたたくドアの音が聞こえない……。

――ごめんね……拓也

涙を流して、謝る。謝り続ける声が……いずみの声だけが聞こえる。

「勘弁してくれよ……お前……俺が別れたら慰めてくれるんじゃなかったのかよ」

呼吸の無いいずみは、やたら綺麗で、僕の知らない大人の顔をしていた。
いずみの手を握ったのは小学校以来、初めてで、連れかえりたくなるほどに温もりある優しい手をしていた。

参列者の少ない人の小さな葬儀が行われた。若すぎる死だった。それをみんなやり場無く同調し悔やんだ。
あまりに突然すぎて、近すぎて本来出るはずの、泣くはずの涙がでない。

「あのね……拓也」
「……なに? 母さん」

僕の着崩れた喪服の帯を直しながら母さんが語りかけた。

「知ってた? いずみちゃん、あんたのこと好きだったのよ」
「……」

知ってる。ずっと知っていた。それを知ってて甘えていたのは僕だ。こんなことにならないと気がつかない自分が一番嫌で悔しかった。まるでいずみが、僕の涙を流すまいとなにかしようとしているようにすら思えた。
心はすごく悲しいのに、とても言葉じゃ表せないくらいに息苦しいのに、なんでなんだ……。
むしろ、笑顔で送ってやりたいとすら思ってしまう……。

「母さん……いずみってさ、なんで俺の事好きだったんだと思う?」
「……いずみちゃんはね、いつもわたしと二人でご飯食べてるときにね、嬉しそうに昔の拓也の話をするの」
「ちいさい頃の時の?」
「うん。いずみちゃんね、拓也のこと話すときね、すごくすごく可愛い顔をするの」
「……」
「しらなかったでしょう?」
「……うん」
「いずみちゃんはすごく器量のある子、いまもずっと私の自慢の娘……」

母はご飯が食べれないくらいに3日三晩泣いた。僕の兄もそれなりにショックだったそうだ。妹のような感覚だったという。父もまた悟るように数珠をこすり香を添えた。
僕の家が、葬式に親戚側として立たせてもらっているのは、諸田さんからのお願いでもあった。

事故を起こした側人の参列が目立つくらいに少人数で式は終わった。
静かに静かに加賀谷いずみの生涯は終わったのである。

思えば、いろいろな別れを背負った人がいる。
別れたことで、相手の良さに気がついてふりだしに戻る人生を歩む男。
別れた辛さを共有して分かり合う事で救われる女性。
本来満ちた愛であるはずなのに、片面で見る環境に生じたすれ違いで別れを選ぶ父親。
まるで一つの汚点のように淡々と別れ得るお金。
お金以外何もかも失い、それでもまだ、どこかで別れというものに救いがあるとを求めて生きる女。
存在すら見失うほど信じて未来に可能性を求める一途な女。
……寂しさを伝えることが苦手な女。

別れた数だけ出会いが会って。出会ったら必ず存在する別れ。
嫌な世界でさ、「さようなら」って言葉が存在してしまうこと自体が残酷だと思うだろう。
息を吸って吐くたびに、きっとほら今も「ばいばい」とか「さようなら」とか……。
そういう言葉が9次元の空間に吸い込まれている。

でもさ……一番辛いのって……どうしても泣けない理由はそこにある。
また会えるような気がするんだ。
別れの言葉が無いと……またどこかで会える様な気がしてしまう。

――ねぇ……拓也……

「……なんだよ、いずみ」

声が聞こえて、その声に振り向いた、3歩後ろ。
そこには、あってあたりまえだった“大事な存在”は無い。

「……」



⇒第43話へ【最終話:別れの値段】

【別れの値段】41

第41話【失恋と別れが同時に来る事】


ガチャっとドアが開く。
ドアに背中で寄りかかり体育すわりをしていた私は、そのままドアに引き込まれるように、背中から倒れた。
コロンと倒れた私を上から見つめる拓也は、やっぱりちょっと泣いた後の顔をしている。何度も見た事のある顔だ。
私がニコッと「ご飯、一緒に食べよ」というと、拓也は、くだらないものを見るような微笑ましげな眼差しで私を見つめて、こう言った。

「今日、とてもいい卒業式だったな……」

そうして手を私に差し伸べた。掴んだ手は同じ温度で、引き上げられて立ち上がるときに、少しだけ優しい桜の香りがした気がした。
私は、卒業式が終わるとすぐ帰宅し、拓也の家に来たから、拓也がどういう理由で、涙を流したのかは、わからない。それでも……拓也の初恋は残念に終わったということはわかった。拓也はね、いつもめんどくさそうにしてるんだけどね、人の優しさに触れたときにもっと優しいの。
寂しい気持ちを忘れさせてくれる。
きっとそれは拓也に触れた人間すべてのひとがそう思う見境の無い愛なのだとおもう。

私は、拓也と同じ高校に進むことを選んだ。
高校に入って、一緒に登校をする。朝、拓也を起こして、変わらずに3歩後ろを私は歩く。
私は、遠の昔に“好き”と“付き合いたい”を通り越して、“結晶する愛”を遠々と待っていたらしい。

「拓也、私、可愛くないよね……」
「なんだよ、急に。別にそんなの気にすんなよ」
「やっぱり……可愛くないんだ」

遅く訪れた思春期は、私にコンプレックスというものをプレゼントとして置いて行った。
私は、宛先も見ぬままにそれをあけて打ち明ける友達も少ないままに悩んだ。
胸も大きくは無くて、足も短くて……天性の可愛い声や綺麗な髪質も無い。一重の眼は特に嫌いで……まつげも口もそうだ。童顔にひどく憧れる。どんどん、男の子の好みを知っていくうちに自分が嫌いになった。
そんな時。

「あのね、いずみちゃん。女の子はね、容姿じゃないの。器量よ」
「器量?」
「女性として、男の子を幸せにしてあげるために頑張れる力のこと」
「頑張れる力?」
「そ。それをたくさん持ってる人が一番可愛いの」

私にそれを教えてくれたのは、拓也のママだった。

「私、いつか拓也に選んでもらえるかな?」
「まだ、二人とも若いから。たくさん時間もあるし……それに」
「それに?」
「拓也の事、一番わかってるのは、いずみちゃんじゃない」

だんだん、当たり前に拓也を好きになっていくのがわかった。一番は私でありたいと思うようになった。
ずっとそばにいた私が、拓也を幸せにできるんだって……思った。

でもね……。別問題だった。
高校2年にもなると、拓也には、彼女ができた。
すぐに付き合って、別れてと忙しなく。そのたびに私は遠慮をして距離をひらく。
あれほど貪欲に後ろを歩いた頃が懐かしいとも思えるほどに……。

「拓也、別れたってほんと?」
「……ああ」
「早いね……」
「……」

拓也は、私を“空気”のような存在だって言ってた。
そこにいて、違和感が無く、必要で、そして軽く、いつもそばにあるものだと。
私は、それでもいいなって思った。すぐ別れてしまうような出会いなら私は、ずっとそばに居れるからだ。
私さえ、拓也との距離を離れなければいいのだと。

「また、彼女できたの?」
「今度、紹介するよ」
「……いいよ。すぐ別れるでしょ」
「お前、さらっと、ひどい事言うよな」

拓也には悪い癖がある。その余る“優しさ”をたった一人のために使えないところだ。
いい所だけれど、恋愛の重さを嫌う中高生にはそれがきっと耐えられるものではないということ。

「いずみ、おまえ化粧してる?」
「あ、う、うん、ちょっとだけ」
「似合わねぇよ、やめとけ」
「……そか。うん、わかった」

手探りで始めた薄化粧。雑誌で買ってみた流行の香水。
自分のためにやってるはずが、だんだんと拓也のためになっていた。
……ゆっくりと積もった“愛”が不自然に限界点に届く。
拓也が3人目の彼女と別れて、そろそろ、受験勉強だと言いだした頃。
高校2年の冬。私は拓也の家で二人で勉強会をしている最中、言った。

「あの。拓也」
「ん?」
「あのさ……高校卒業したら、初めて別々の世界になるね」
「まあ、いままでほんと付き合い長すぎてな~実感ねぇや」
「ふふ。わたしも」

こたつがあったかい和室で、私は古典。拓也は英語の参考書を開いている。
伏せるようにノートにスペルを書き続けながら話す拓也。私はシャーペンを両手の人差し指でくるくる回しながらぼそりと言った。

「……あのさ、もう彼女作らないで」
「!?」

いきなりに、言った私の台詞に拓也もおどろいてペンを止めた。

「わたし、拓也がすき」
「ほ、ほんき?」
「うん」
「……わたしは好き。たぶんこれから大学生になっても社会人になっても」
「恋愛感情的に?」
「うん。だめ?」
「だ、ダメっていうか……お、俺はお前の事そういう目じゃ、み、みれねぇよ」
「……そっか。じゃいいや」
「は!?」
「また、拓也がふられて慰める時にまた言う……」
「な、なんだよ! 慰めかよ! お前、らしくないぞ。冗談とかやめろよな」

拓也は笑ってペンを取り直す。
私も参考書のぺらぺらと捲り、消しゴムを取る不利をして遠くのみかんを手にとってそのまま拓也にぶつける。

「痛てぇし! ふざけんなよ」
「あはは」
「おまえな! みかん投げるなよ」
「あは! 拓也、そのみかん食べてね」
「ったく……意味わかんね」

ずっとね、私が好きだって事。それが大事なの。
拓也と居た時間は、私が一番長くて。拓也のことは私が一番知ってて。
例えその正体が、空気でも。それでもいいって思えるくらい、この距離は広がらない。

拓也は、大学に進学して一年後。彼女を作った。
すぐ別れると思っていた。でも……その人は、拓也にとって“恋人”であったらしい。
嫌だって泣く事もいつの間にか忘れていて。あの純粋な応援する気持ちもまた私には無く。
かといって、他の男性と付き合うでもなく。

私はそっと距離をあけたのだ。

「おばさん」
「いずみちゃん、久しぶりじゃない。ぜんぜん最近来なくなって」
「あの、これ、煮物つくったんです。今日夕飯一緒にいいですか?」
「もちろんよ。あ、でも拓也、今日もきっと夜遅いわよ。友達と遊んでくるとかで」
「うん。大丈夫です」

大人になる自分が今は、一番怖くて辛い……。

−−好きで居続けることが怖い……



つづく→第42話へ【 ・・・      】

【別れの値段】40

第40話【私だけの幸せ】



おしとやかで、育ちがよさそうな彼女は、私と同じでいつも一人ぽっちでいるような人だったけれど、拓也が惹かれたであろうその魅力は、同姓の私に理解できた。

「えへへ。私、拓也の事応援してるからね!」
「な、なんのだよ」
「し、しっていますぞ~。いずみ様はなんでもお見透視なのですぞ。拓也殿」
「そのRPGにモブキャラで出てきそうなしゃべり方やめろよ、バカまるだしだぞ」
「なにおー。くらえ、リモコン下駄ウルトラシニアハイスクールいずみヴァージョン!!」

吹き飛ばした革靴を片足で追いかけて、笑った。
くだらないことを一緒にやって、同時に拓也の幸せを心から願った。
拓也が部活でまだ帰ってきていない日のこと。
私は、拓也の家で、おばさんと一緒に家庭科部で作ったケーキを一緒に食べていた。

「あら、いずみちゃん。このケーキ美味しいわ」
「でしょ~」
「拓也の分もとっておくわね」
「うん!」

本当のお母さんがまだ生きていたら私はここには居なかったのかもしれない。
きっとまったく違う人生がそこにはあって、まったく違う世界の人と繋がっていたのだと思う。

「ねぇ、ママさん」
「なあに?」
「あのね、拓也にね好きな人ができたの」
「……」

察したように、拓也のママは口を閉じて私に聞いた。

「それは、私の知らない女の子?」
「うん」
「そっかー。でも、大丈夫よ。いずみちゃん」
「私ね、応援してあげようってきめた」
「応援?」
「うん。その子と拓也がうまくいけばいいなって思うの」
「ふふふ。いずみちゃんは優しいのね」
「でも、拓也、その子と付き合ったら、私、ここに来ちゃ駄目になっちゃうかな?」
「関係なし! いずみちゃんはおばさんの娘みたいなものだから気にしないでいいの」
「そっか~」
「それに、拓也はバカだからいずみちゃんの良さに気がつかないだけなのよ」

まだまだ、子供な私は他人の幸せを願いながらも自分がいまある幸せを後逸してしまう事をすこし怖がる中学生だ。大丈夫と頭を撫でてくれる人を探し、かけがえの無い自分の居場所を守ることに必死だった。

しらつゆに寒がる草花が季節の変わり目を教えてくれる。
拓也は、奥手だったのでその恋に進展は無かった。
登校はずっと一緒だった。片道20分をただ歩き、見慣れた材木工場の前を通り、走るとゆれる歩道橋を使って、長い信号を待ちきれずに駆けて渡る。私は、ずっと、拓也の3歩後ろを歩いた。

「……今年も寒くなりそうだね、拓也」
「うん」
「……家庭科部で、編み物するの」
「へぇ……すごいじゃん」
「できたら拓也に、マフラー作ってあげよっか」
「い、いらねぇよ」

いつも……私が言葉をかけた。

「ねぇ、拓也」
「あ?」
「お腹すいた」
「しらねぇよ!」

なんでも……よかったんだと思う。私が後ろに居ることを忘れないでさえ居てくれればそれで。

「拓也~」
「なんだよ、うるせえな」
「チョコたべる?」
「……いらね」
「う~。じゃあ、飴たべる?」
「いらねぇっつうの!」
「じゃあ……竹輪たべる?」
「なんで、そんなん持ってんだよ!」

だれかが、私のことを一途だって言ってた。中学を卒業するまで私はその意味がわからなかった。
拓也は、モテる。スポーツもできるし、なんか理由はわからないけれど目立つ男の子だからだ。
きっと天星とかオーラとかそういう物理的に証明できない何かなんだろうと思う。
今思うと、私がいつもくっついてたから拓也を好きだという人は表に現れなかったんだろう。

「いずみ。このまえのさ……ケーキ美味しかった」
「うん!」

修学旅行で、夜寝静まる前、恋愛の話になった時に、少しだけ実感した。

「彼氏、ほしいなぁ」
「ねね、好きな人居る?」
「吉村君、カッコいいよねぇ」
「うんうん。プロサッカー選手になるんだって!」
「すごいー でも高校に彼女いるらしいよ?」
「えーショック」
「ねぇ、加賀谷さんはさ、どうなの?」

女子会話中に突然ふられた話に、ついていけなかった。

「加賀谷さんは、2組の柚木君と付き合ってるんでしょ」
「そっか~一途だもんねぇ」

私は、慌てて言った。

「拓也は、そんなんじゃないから! 幼馴染だから」
「それにしては、仲良すぎ! あはは」

仲良く見えてるんだって思ったら嬉しい気持ちになった。
そんなことみんなが言うものだから、どうしたものか、私自身、拓也をちょっと意識した。
修学旅行も終わり、霜柱が土を盛上げていく冷たい冬の朝。

「拓也、手袋しないの?」
「ああ。ポケットのほうがあったかいからさ」
「……危ないよ?」
「大丈夫だよ」
「拓也……」
「ん?」
「手、つながない……?」

――今思うと、そんな事言って、バカだったなぁ。わたし

もちろん、拓也は手をつなぐことはしない。でも、嫌とも言わずに黙ってそのまま前を歩いた。
赤くそまった後ろ耳が痛そうに赤い。照れて赤いのか、この寒さで染まったのか。
きっと正解は後者だろう。

バレンタインに葉桜さんからチョコをもらったと嬉しそうにはしゃぐ拓也。
私は、その綺麗な包みを見て、らしくもなく手作りのチョコをバックに隠し、拓也にチロルチョコをあげた。

「そんな幸せな拓也にはもう一個チョコをあげよう」
「なんだ、チロルチョコかよ」
「お返し期待してるからね!」
「なんていう、ふてぶてしさ! 葉桜さんを少しは見習えよ!」

自分で作ったチョコを自分で食べるっていうのは、すごく美味しくない。
ただわかったのは、チョコってのは、心がぎゅっとなるくらいひたすらにただ甘いだけなんだってこと。

一見うまく行くと思えた拓也だったが、2年のバレンタインは葉桜さんからはもらえなかったようだ。
一緒に帰ったっていう噂すら聞いたのに。

「拓也……」
「悪いけど、今日ちょっと放っといてくれないか」
「なにか、あった?」
「ごめん、いずみ。今日は帰って」
「うん……今日は帰るね」

また……チョコが渡せなかった。懲りずにまた手作りしたのに……。
拓也は、辛そうな……とても辛そうな顔をしていた。
卒業式の日の夜の事。私は拓也のお母さんと一緒に夕飯を作っていて、帰宅後だまって駆け上がって部屋に行った拓也を呼び止められず私は、階段のしたから見上げた。

「拓也……」

なんとなくだけど、察した。
一瞬だったけど、いまにも泣きそうな顔をしてたからだ……。
夕飯を作り終え、呼びに私は拓也の部屋のドアの前。普段なら階段下から大声で呼ぶのだがその日は違った。
お兄さんは、夜のバイトで居ない。パパさんもまだ帰宅していない。いつもなら私を入れて3人で夕飯みたいなパターンだ……。

「(とんとん)」
「……」
「拓也(とんとん)」
「いらねぇ」
「(とんとん)」
「飯だろ? いらねぇ……」
「(とんとん)」
「……」
「(とんとん)がんばったね、拓也」
「……」
「(とんとん)やさしいからなぁ……拓也は」

鼻をすする音が聞こえる。ドアの向こうから悔しいっていう気持ちが6畳程度の部屋では収まりつかずに響き出て私に伝わる。

「(とんとん)」

ノックの音は小さく響く。つたわるといいな、私の想い。

「一緒にたべよ。拓也」
「……」
「今日はねー、いずみちゃんの特性のコロッケでやんす」
「……」
「今日のはね、涙が出ちゃうほど美味しいとおもうよ」
「……」
「(とんとん)大丈夫だよ、拓也」
「……」
「私が、……私がね、いつでもそばに居るよ」


――(とんとん)大丈夫……



続く→第41話へ【失恋と別れが同時に来る事】

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